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女神男子の正解を  作者: 作意 扉
第零章:スタートの前
14/18

14.主人公、死す。



 あらゆる恨み、嫉みを受けている貴族、ワイド・コレン公爵。


 彼は優秀レアな奴隷を、コレクションにすることが趣味だ。未来ある輝かしい才能を、思うがままにすることが好きだ。


 当然、奴隷たちはこの上ないほどに彼を憎んでいる。殺したいと、この手で引き裂きたい、と。

 ドロドロっとした感情が、マグマの様にグツグツと。


 しかしそんな中、一人だけ彼を恨んでいない奴隷がいる。

 その奴隷の頭の中にあるのは


 ――脱獄

 

 それだけだった。





/////





 ドアの前には見張り一人アイツらが飯を持ってきた時に出るのは無理ミスリル性の部屋を壊すなんて土台無理奴隷紋を消すのだって術式を見たことがない護衛の人数もわからないそもそも今体が正常に動くのか魔法の腕も鈍っているのではないか如何にして状況を把握するのか―――――


 ……さて、


 ――どれから解決しようか?


 手錠とかがなくて助かった。檻の中も狭くはないし、十分動ける。


 歩いてみる。

 倒れる。

 足腰が弱っているな。鍛えよう、なんなら全身を。


 脱出に魔法は欠かせない。とりあえず睡眠時間はいらない。全て練習時間に当てよう。


 大技の練習は要らない。

 とにかく技の精度を上げよう。あとMP総量を増やそう。


 観察しよう。俺たちをいたぶる奴らの観察。

 どんな目をしているか、どんな態度か。心の、奥底を。嘘を言っているのか、どこまでが方便か。

 見極めるすべを身につけよう。


 いつだって学べる。何処からだって得るものはある。

 傲慢で、貪欲で在ろう。もう落ちない。もうには行かない。

 ここからは、昇り道一本。駆け上がる。


 コツ……コツ……


 足音が聞こえる。いつも通り、ゆっくり。


 来た。

 そう感じながら、自分が驚くほどに無感情な事に気づいた。


 ギィ……


 扉が開く。そこから現れる男に目を向けても、何も思わない。

 男が、その足をまっすぐこちらへと向けて、ピタッと檻の前に立つ。



「やあ、今日も……」



 と手を振りかぶったが、その表情が曇る。

 なんだ? と思っていると、持っていた短剣を構え直し、

 


「……頑張ってね」



 ただそう言って、いつものように続けた。



「〜っ!!」



 歯を食いしばり、耐える。

 これまで、どれだけこの痛みを受けてきたか。

 もうそろそろ、いいだろう。

 慣れても、いいだろう。





/////





「はぁっ……はぁっ……」


「……」



 息も絶え絶えになっている俺を、一瞥することも無く、部屋を出ようとする公爵。が、その背中に声がかかる。



「なぁ」


「……ん?」



 アイツは、胡乱げにこちらへ振り向き、その細い目でをこちらに向ける。

 俺は、言葉を続ける。



「俺たちが逃げられないと、本当にそう思っているのか?」


「……どう言うことだい?」


「どうもこうもない、俺たちは逃げられる」



 そう言うとアイツはその眼差しを、口調とともに強めて来る。



「この部屋を出て、警備を掻い潜り、そしてこの国から出る事が出来ると?」


「出来る。A級冒険者が常駐しているともなればまだしも、B級以下じゃあ俺たち(・・・)は止められない」


「ふぅん……」



 表情を崩さないアイツの瞳に――

 ――一瞬。優越と安堵の色が見えた。



「……ま、やるならやってみなよ。どちらにしろ、警備は掻い潜れないだろうしね」


「ああ、やらせてもらうよ」



 何年か後に、ね。

 A級冒険者がいる。今日はこの情報が得られた。

 さっきの、あの感覚。瞳を覗き込むあの感覚。忘れない様に。


 後は、毎日筋トレをしよう。

 毎日魔力を練ろう。

 毎日技の練習をしよう。

 毎日観察しよう。


 積み重ねれば、いつか莫大な何かになる。

 『天才』なら尚更。


 ……だが、あの飯の量じゃあ、体が作れない。どうするか。


 そう思っていたある日のこと、

 いつものように扉が開いた。


 その日も、奴隷たちに食べ物が運ばれてきた。

 だが、その日は少しおかしかった。そう思った理由の一つは、使用人の顔が顰められていたからだ。

 

 まぁそれはどうでもいい。

 奇妙なのは、俺の飯だけ多くて、なんでかその食べ物が真っ白だと言う事だ。


 それはもう大量で、元の世界でもこの量は食べた事がない。そして真っ白………?

 

 不思議に思いつつも、空腹に負けた俺は躊躇いなく、

 それを口にした。

 ガブリ、と。思いっきり。













 べチャッ

 ポタポタ………


 口の中の血の味で、目の前に広がっている赤いのが自分のものである事に気付いた。

 胸が苦しい。しかし、その苦しみもどんどん薄まっていく。



「ッヒュー……ッヒュー…」



 耳何かが擦り切れている様な音が聞こえる。

 あれ、これ俺の呼吸音か。


 視界が低い、起きあがんないと。

 ぁれ、体が動かない。


 ? なにこれ、俺の、手?


 グズグズに崩れた、俺の手首から垂れているなにかは、見覚えがあるような気がした。


 そこから垂れた液体が、ツー……と広がって、自分の顔に届く。


 少し冷たい、気がした。






/////






〜カグヤ視点〜

 

 ――――ヤ!


 あぁ………


 ―――グヤ!


 ………え?



「カグヤ!」


「あ、ああ、どうしたの?」



 気が付くと、コウが私の肩を揺らしていた。ちょっと意識が飛んでたみたい……

 


「どうしたもこうしたもない。お前は休んだ方がいい。疲れすぎてる」


「……うん、ありがと。でも、休んでる訳にはいかないから……」


「………」



 こうしている間にも、きっとルイは苦しんでる。ルイが苦しんでるのに、私が休むなんて、駄目。駄目というか、したくない。

 


「……まだ、ルイを助けるつもりなのか」


「……うん、絶対に諦めない」



 あの日、レイリーに脅されてからも私たちは行動を続けた。

 けど、その日から不自然な程に上手くいかなくなった。これまでが上手くいきすぎてただけなのかもしれないけど、それにしても明らかに何かに妨害されてるような感じがあった。


 例を挙げるなら。

 常に、警備をしている冒険者が視界上にいる様になった、とか、あまり中に入れさせてもらえなくなったとか。


 それだけならまだ良いとして。

 問題は、あの日から帰り道に唐突に襲われるという出来事が、多々起きる様になったという事。

 それによって、気を抜く時間がなくなってしまった。十分に休息が取れなくなった。

 それから、常に警戒をして過ごす様になり、睡眠も満足に取れない生活が続いた。

 

 そんな風に、じわじわと追い詰める様に私たちに諦めさせようとするやり方を見て、ある日気付いた。気付かされた。

 私たちはレイリーに生かされているんだ、と。


 そう思ってからというものの、あの日の、彼の殺気を度々思い出す様になった。彼の心変わり次第で、私たちの命は尽きる。

 毎日、いつその日が来るのか、気が気でなくなった。


 そんな毎日が続いたからか、コウはルイを助ける事を諦めてしまった。


 最初は「最低」と、蔑んだりもしたけど、客観的に考えてみれば仕方のない事なのかもしれなかった。説得は諦めた。

 けど、私は折れない。折れるわけにはいかない。

 


「私はルイが大好きだ」



 口に出すと、なんとも言えない甘みが口の中に広がり、思わずニヤける。

 助けたい理由はそれだけでいい。

 そんな風に自分を鼓舞していると、屋敷から使用人たちが出てきた。



「あー……ホント、疲れるわ。何で俺らが奴隷なんかの飯用意しなきゃならねんだよって話だろ」


「まあ、そう言わないの。奴隷でもコレン公爵様のものよ、大事にしないと」


「何言ってんだよ、奴隷だぞ? 俺だったら、あんな生活耐えらんないね。あんな生活が続けられるって時点で、アイツらには誇りがないんだよ、誇りが」


「んー……、まあ、それはそうかもね。私だったら耐えられないもん」



 ……ああ、またこれだ。何も知らないであろう人たちの、空っぽの蔑み。


 この世界に来てからというものの、奴隷を蔑む人ばかりだ。こっちに来てから、2年と少し。

 私が大嫌いな公爵を、凄いと憧憬する人。私が可哀想だと思う奴隷を、醜い蔑みの対象として見る人。

 

 まるで、周りからお前は間違っていると、おかしいと、言われているかのよう。


 一時は「私がおかしいのかな」と思ったこともあったけど、すぐに頭を振って否定した。

 私は、私だけはそう(・・)なってはいけないと、気を強く持つ。ルイは必ず助け出す。


 そんな時だった、黒髪の少年奴隷が


 壊死したと、聞いたのは。






/////






 そんなわけない。そんなわけない。


 あり得ない。

 

 絶対にっ!

 ありえないっ!


 信じたくない。

 信じられない。


 私の憧れが、消えてしまったなんて。

 約束が。

 将来の約束が。


 私は数日、宿で呆然としていた。

 ただただ、信じたくなくて。


 どうせレイリーの差し金だ、と思いたかった。


 けど、その話には信憑性があった。

 あの白い巨人の肉を出されて、体が腐って死んだというものだ。

 スラム街での話は私も知ってる。


 根拠はある。

 あのコラン公爵がそれを全て引き取ったと聞いた。搬入されたところも見た。だけど私はそれを大して意識を向けなかった。


 私が、あの時……いや、私じゃ、何もできなかった。

 そしてこれまでも、これからも。多分そうだ。


 自分の無力感に苛まれていた時、誰かが入って来た。コウだ。



「かぐや!」



 と、駆けながら入ってきたコウは、私をみて、気まずそうに足を止めた。

 申し訳なさそうなか弱い声が、耳に届く。



「……まあ、何だ、残念だったけど。もうこれで苦しむこともないだろう」


「っ!………」



 コウはもう、こっちに染まってしまった。奴隷を蔑むようになってしまった。私の気持ちも、微塵も分かってくれなくなった。


 淡白で安易な言葉で、私は凄く苛立った。

 苛立ったけど、ここで怒鳴り散らすのは違う気がした。

 だから、せめて部屋から出てってもらう事にした。



「……もう、今日は出てって。一人にして」


「……カグ――」


「ごめん」



 自分でも驚くほど冷たい声が出た。



「一人に、して」



 俯いているからわからないが、音を聞く限り、コウは言われた通り扉へ向かっていったらしい。

 が、扉が閉じる音が鳴る前に、声をかけられた。



「カグヤ、俺は、お前の事が好きだ」



 ……言われた意味が分からなかった。いや、意味は分かったけど、ここで言った意味が分からなかった。


 別に、何となく察してたし。でも、今言う事じゃないでしょ?


 いい加減にしてよ、こっちの気持ちも理解しないでさ。

 遂に我慢出来ず、顔を上げて立ち上がる。



「コウ、いい加減に……!」


「待っている」



 声が遮られる。怒りが遮られる。

 待っているから、という、その声で。


 そう言い残して、コウは部屋から出て行った。私の怒りを避けるようにして。

 私はその背中を追いかけて、怒鳴りたかったけど、そんな気力もなく。


 私の怒りは、いつかのように空振った。

 ここまで読んで頂き、有難うございます。

 拡散、ブクマしていただけると有難いです。

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