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女神男子の正解を  作者: 作意 扉
第零章:スタートの前
15/18

15.始動。



 20XX年、日本。


 全国に、ある放送が流れた。

 それはいつだってやっている、陳腐なバラエティーだった。その日の企画名は、

『天才家族、現る!?』

 と言うものだった。どうにも軽い題名だったのだが、その中身は日本を震撼させるものだった。


 父、母、長男、次男。

 その家族の構成はとても単純だが、まず両親の肩書きがすごい。


 父は天才実業家。

 あらゆる方面に手を出し、その全てを成功に収めると言う営業面において比類なき天才。若い頃は、剣道でインターハイ優勝という輝かしい成績を残している。


 母は天才歌手。

 女性とは思えない程の力強さに、驚くべきはその表現力。声を自由自在に操り、人を惹きつける事において右に出るものはいないと言われるほど。

 そんな至宝とも呼べる二人の子供。

 この二人が、ただただ異常だった。


 兄。

 当時、齢10歳にして、

 最高到達点2m40cm。

 50m走7.2秒。

 剣道において、小学生4年でありながら全小優勝。


 弟。

 当時、齢8歳にして、

 数検1級。

 歌唱のコンクールにてグランプリ受賞。

 四ヶ国語を理解。


 この二人は完全に性能がぶっ飛んだ兄弟として番組に登場した。

 顔までは公開されなかったが、その実績と会話の声だけで、日本全国の人間は「才能」というものを、まざまざと見せつけられた。


 だが、その家族にある日亀裂が走った。ちょうど弟が兄と同じ歳になった年のことである。

 この家はもちろん裕福な家庭ではあったが、普通の家庭で育てるという方針のため、金持ちたる贅沢は、極力しなかった。

 まず、その事に対して兄が母に食って掛かった。持っているものを使わない事に対しておかしいだろうと、怒鳴り散らした。


 母は言い負かされた。何を、どう言われたのか分からないが。ただ、その場に泣き崩れた。


 その次、父が兄を叱った。父は殴り合って負けた。ボコボコにされ、赤子のように転がされた。


 その惨状を見ていた弟は、思った。こう(・・)なりたくない、と。そんな惨めな両親は勿論のこと、に対しても。


 ああも傲慢で、自分の才を振り回すような奴にはなりたくない。そんな兄に負けたくないと、そう思った。


 しかしその次の日、唐突に習っていた合気道を辞めさせられた。

 親が同じ競技では兄には勝てないだろう、と配慮して習わせた合気道。

 合気道自体楽しかったので、続けたい、と。弟はねだってみた。


 すると親は、弟を説得した。

 懇切丁寧に、一つの競技に縛られることはない、お前はもっと色々な事を学ぶべきだと。

 だけど、弟は分かった。天才には分かった。その瞳の奥にある考えが。その瞳が物語っていた。

 自分をこれ以上成長させたくないのだ、と。あの兄のようにしたくないのだと。


 弟は、その提案を素直に受け入れた。駄々もこねずに。

 それは、あの兄が傲慢なら、自分はああならないように謙虚でいよう、という考えから生まれた行動であった。


 そして、その時から両親が、弟を子供扱いする事が増えた。

 確かに弟はドジな所はあったり、抜けていたりはしていたが、それにしても余りにも露骨な態度だった。


 弟は親を軽蔑した。子供の成長より自分の尊厳を優先する、傲慢な両親だと。兄と同じだと。


 彼らを、世間はこう評した。

 実業の父、表現の母、身体の兄、頭脳の弟。

 しかし、彼らのことをよく知っている者たちはこう評した。

 負けた両親、過ぎた兄、足らずの弟。


 自分の無力感に、子の才能に負けた両親。


 圧倒的な身体の才と、人を使う才能。

 欠点のないように生まれ、そのまま自分の才に溺れた兄。


 人外の脳に、歌、絵などの感覚的な表現の才能。されどミスも多い、子供の作った積み木の塔の様な脆い才能の弟。


 彼らはその喧嘩後、仲直りした。普通に会話を交わすし、その後には大きな喧嘩だって無かった。

 だが、心の奥底で皆何か思うものがあった。しこりがあった。それを、弟は分かってしまったと言うだけ。


 そんな一家の弟が、ある日姿を消した。その時弟は授業中だった筈だった。

 彼は何処へ行ったのか……





/////





 ああ


 なんか楽


 あれだっけ


 死ぬ時ってすごい量の


 快楽物質とか出るんだっけ


 ああ確かに


 いいかもしれないな


 これまでに比べれば


 というかなんで意地はってたんだ


 早く死ねばよかった


 もっと早く死ねばな


 もっと早く楽になれたのに


 随分と怠けてしまっていた


 そうだ


 この際


 最後なのだから


 さっさと死ねるように


 どうにかやってみようか


 最後くらい


 自分の力で何かしよう



 そう思い、体を走るエネルギーに触れる。

 それ自体がなんなのかはもう覚えていない。

 そもそも知らないのか。それすらも覚えてないが、とにかくその大きなエネルギーにボンヤリとした意思で触れてみる。

 体を駆け巡る奔流を操ろうと、抗ってみる。

 上手くいかない。


 というか、死ぬ元凶がこれなら抗う必要なかったな。

 そう、寧ろ受け入れるくらいの勢いで。

 コツを掴むのがが早いなんて、よく言われたものだ。このくらい朝飯前。


 ボンヤリした意識の中で、死ぬ寸前にそんな事を思っていた。

 なんだか分からないけど、身体中に何かが這い回っている感覚があったから、それを受け入れようとした。

 すると、



 ――パキャッ



 何か音がした。

 と同時に、途端に湧き上がる全能感。


 意識がギュンッ、と一気に加速し、形作られていく。

 ボンヤリとしていた意識が、ハッキリと、ピントが合うように戻っていく。



 ――違うだろう

 昇り道一本とか言ってたじゃないか

 アイツに後悔させると誓ったじゃないか

 かぐやたちも待っているじゃないか



 早く――


 ―――戻るぞ、俺





/////




 

 目を、開く。

 これまでの人生の中で、こんなことがあっただろうかという程、気分が清々しい。

 視界が明瞭になり、体も気だるくない。


 体を起こす過程で、体も驚くほど軽い事に気づく。

 自分の肌を見ると、乙女の柔肌のように繊細で、白い。


 ふと長い前髪が顔にかかる。


 あ――白い。

 自分でも惚れ惚れするような、綺麗な髪。

 それだけじゃない。心も、憑き物が取れたように軽い。

 久々に、爽快感を感じた。



 その後の事はよく覚えていない。

 ただ、なぜだか公爵がやってきて、「凄い!」とかなんとか喚いていた事は覚えている。

 どうにかして周囲には隠さねば、とかなんとか。


 興奮して随分と色々喋ってくれた。

 多分、話からして、これからも無くなるまであの肉が出され続けるんだろう。

 じゃあ、その肉が尽きたらここを出よう。


 あの肉で、最後のピースが手に入った。

 あとは他のピースを手に入れて、嵌めるだけ。


 もう百頑張り。やってやるわ。




/////




 私は、諦めない。きっと、まだ生きてる。ルイがそんな簡単に死ぬもんか。


 そうして、そう考えて――3年が経った。


 3年だ。


 その間、私は一人で足掻いた。無駄だと、コウに止められても足掻いた。

 だけど……


「全く、奴隷なんて汚らわしい……!」

「気持ち悪い……」

「ひっ……! 近寄らないでっ」



 奴隷は……なんなの?

 なんでそんな風に扱うの?

 私が……私が、おかしいの?


 毎日動く気力が、著しく落ちていく。毎日ポロポロと涙が溢れる。

 自分の座っている中庭の地面に、涙の跡がじんわりと残る。


 もう、二十歳になった。


 大人になった。


 普通だったら、ルイとの約束を果たしている頃。



「なんで……私だけ……?」



 自分が苦しむのが耐えられなくなってきた。けど、そんな時はいつも――



「……私は、ルイの事が大好き」



 そう呟くと、やはりほんのりと口の中に甘みが広がる。

 でも少し虚しい。


 私はルイを助けたかっただけ。ルイと一緒の時間を過ごしたかっただけ。

 そんな私が――


 ――彼を助けられない、と知った今、どうすればいいの?

 ルイが死んでしまった事を、何年も掛けて、どうしようもなく知ってしまった私は、どうすればいいの?

 調べれば調べるほど現実を突きつけられて……



『待っている』



 不意に、コウが言った言葉を思い出した。

『待っている』そう言っていた。


 ――つらい。


 もう、ルイには二度と会えない。

 そんな風に考えてしまう。


 もしかしたらと、一度くらい拠り所を求めても、良いよね? と。

 そう、一度だけ。

 それだけ。


 ふと顔を上げると目の前にコウがいた。

 あれ、いつの間に、

 とか思う前に、体が勝手に前に進み始めた。

 

 そして私は、朦朧とした意識の中。


 ふらふらと、覚束ない足取りで何かを探るように、


 コウに、抱きついた。

 ここまで読んで頂き、有難うございます。

 拡散、ブクマしていただけると有難いです。

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