違和感
時刻は夜、先週に引き続いて講堂の中は大勢の生徒で賑わっていた。
だが、先週とは違い講堂の中にいる生徒は制服を着ていない。皆、燕尾服やドレスと言った正装で楽しそうに会話をしている。
今日はここエールトリス魔導学院の創立記念日。その祝いを兼ねて学院では生徒たちによる舞踏会が開催されていた。
この場にいる生徒のほとんどは貴族の生徒だ。参加自体は自由であるが、平民の生徒は多くが参加していない。舞踏会と言うのは貴族が集う場所だという考えを持っている生徒がおり、平民を招くことを許さない場合がある。それに平民はこういった場での礼儀作法などを知らないというのも理由の一つだ。
経済的に舞踏会のドレスコードにあった衣類を買う余裕がないという場合もある。なので自然と貴族の生徒がほとんどになってしまうのだ。
誰もが煌びやかに自分を着飾っている中で一際目立つ生徒がいた。それは赤いドレスを纏ったフレイリアだった。学院に来て一週間、これから長らく制服での生活が始まるばかり考えていたが、こうも早くドレスを着ることになるとはフレイリアも思ってはいなかった。
フレイリアが近くを通り過ぎると生徒は彼女のことを目で追った。ドレスは普段から着慣れているため、着こなしは完璧だった。
赤いドレスには所々フリルが付いており、胸のところには薔薇を模した飾りが施されている。そして、今日のフレイリアは化粧をしていて、頭には小さなティアラを乗せていた。気分も変えるために普段は降ろしている髪を頭の後ろで一つにまとめていた。他の生徒からは化粧やドレスによって普段より数倍魅力的に見えるだろう。
フレイリアは王宮で着るときなどは侍女に選ぶのを任せたりするのだが、今回は自分で選んだ。こういった催しに呼ばれるのは多い方だ。けれど、同年代の若者達だけで、というは初めてであった。編入して一週間、知り合ったものも多い。大人達の自分たちの見栄を張るだけのパーティーよりも楽しめるだろうと思っていたのだ。
それと同時にいつも以上に緊張もしていた。フレイリアと同年代生徒は自身のおしゃれと言うものに敏感だ。それはフレイリアも同じで、舞踏会に似合わないドレスを着て恥をかくのが嫌だった。そのため、何時間も悩んだ末、このドレスを選んだ。
歩いている最中、周りの視線を見て自分が浮いているわけではないことを確認してフレイリアは少しホッとした。もし、思っていたとしてもこの場でそれを表に出すものはそうそういないだろう。
「あ、お姉様!」
前方にアイシャとユーナの姿を見つけたフレイリアは二人の元へ向かった。
この二人も周りの生徒と同様に舞踏会のドレスコードと合わせて着飾っていた。アイシャは水色で統一されたスレンダーなドレス。アイシャの性格の所為か、あまり飾り気はない。頭にはフレイリアと対照的に白い薔薇の髪飾りを付けていた。飾り気のないドレスと言っても今のフレイリアと遜色ない魅力を放っている。
隣にいるユーナはオレンジを基調としたミニドレスを着ている。本人の性格の所為か肩や腕の露出はしておらず、足も丈の長いソックスで膝上まで覆っている。一見すると精巧に造られた人形のようにも見える。
「フレイ、皆の前ではお姉様は禁止よ」
「あ、ごめんなさい。でも、今は知ってる人しかいないんだからいいでしょう?」
「仕方ないわね。けど、ちゃんと使い分けはするのよ」
「分かってるわ。みんなの前では先輩って呼ぶことにするから。ユーナのことも先輩って呼ぼうかしら」
「わ、私はいつも通りで構いませんよぅ・・・」
ユーナは少し焦りながら訂正をやめさせる。気の弱いユーナは一国の王女に気を使われることが耐えられないらしい。主にユーナの精神面が、だが。
「二人ともドレスがとっても似合ってるわ」
「あ、ありがとうございますっ!」
「ありがとう。フレイのドレス姿には劣ると思うけど」
「お姉様にそう言われると何だか嫌味にしか聞こえないんだけど」
「そんなつもりはないんだけど?」
フレイリアは半眼でアイシャのことを見つめる。すると、アイシャは不思議そうに首を傾げる。自分よりもスタイルが良いというのに何を言うか、と抗議したくもなったが、アイシャのこの無頓着ぶりは今に始まったところではないのでやめた。
「そう言えば、お姉様はもう誰と踊るか決めてるの?」
フレイリアは舞踏会での話題では定番の物で切り出した。
「いいえ、まだ決めてないけど。フレイは決めてるの?」
「私もまだ。色々とお誘いはあったんだけど、決めきれなくて」
「私もまだですよ。誘ってくれる方もいなかったので」
「それだったら、カイトと踊ってみたら?知っている仲ならさほど緊張もしないでしょうし」
「カ、カイトさんですか?でも、私なんか誘ってくれるでしょうか?」
カイトの名前を出すとユーナは少し赤くなった。ユーナの場合知っていても知らなくでも緊張することには変わりないのではないか、とフレイリアは思った。別にユーナも可愛らしい容姿をしているし、性格も悪くない。彼女が一人で佇んでいたら放ってはおかないだろう。
「カイトってこの前の?」
「そうよ」
カイトの名前を聞いてフレイリアは少し怪訝な表情する。第一印象がレアルの所為でかなり悪かったので今も少しだけ印象が悪かった。
「あれはあなたの勘違いだったのだからそんな顔しないの」
「うっ、そうだけど・・・」
「ユーナもそんな風にオドオドしなくても大丈夫よ。自信を持ちなさい」
「は、はいっ!!」
ユーナは自分を勇気づけるかのように返事をする。
「それお姉様はどうするの?」
「私は隅の方で見ていることにするわ」
「駄目よ!!せっかくの舞踏会なんだからちゃんと楽しまないと」
「去年も参加はしたけど、誰とも踊ってないのだけど」
それを聞いてフレイリアは少し頭を抱えたくなかった。舞踏会に来て踊らないとはどういうことだ、とアイシャの思考がいまいちよく分からなかった。アイシャのことだから、調子が悪いとか何とか言って誘いをあしらったのだろう。
「それに相手がいないんだから踊れないでしょう?」
フレイリアはいないのではなく、選んでいないの間違いではないか、と思ったが口に出す前に別の人物が割って入ってきた。
「それだったら僕が立候補しようかな」
「シリウス・・・」
爽やかな笑みを浮かべながらシリウスはそう申し出た。彼に続くようにシャルロットとカイトの姿もあった。三人ともきっちりと正装に着替えていていつもより男前になっている。シャルロットはどうあらわしていいか分からないが。
「やぁ、みんな集まってどうしたんだい?」
「よう」
それぞれがアイシャ達に向かって声を掛ける。ユーナはカイトが来たことによってまた少し顔が赤くなった。
「そうねそれが良いわっ!!」
フレイリアは妙案だ、と言わんばかりに頷いた。だが、アイシャはそうはいかなかった。アイシャは一度シリウスを振っている。その時からシリウスの見方がかなり変わってしまったため、接し方もぎこちなくなっているのだ。
けれど、シリウスの方は特に変化はなく、寧ろ前にもましてアイシャのことが好きだとアピールしている。それもアイシャが気まずくなる原因の一端であった。
「ん~会うたびに君のそういう顔を見ると僕も若干傷つくよ?」
「そういうわけじゃ・・・」
「あ、理由は分かっているから気にしなくていいからね。意識はしてほしいけど」
そう言ってシリウスはいつものようにアイシャを気遣う。
アイシャもシリウスが悪いわけではなくて、自分が気にし過ぎているだけだ、と言うことは分かっていた。こういう態度をいつまでの取るのはシリウスに対して失礼だと考えていたし、いいきっかけが訪れたと思い、アイシャは少しだけ楽に考えることにした。
アイシャはシリウスに対して視線を送る。シリウスはその視線の意図が分かりすぐに行動した。
「僕と一曲踊りませんか?」
「ええ、喜んで」
もう一度、アイシャに問いかけながらシリウスは手を差し出す。すると、アイシャは笑みを浮かべながらその手を取った。
「カイト」
「ん、何だ?」
アイシャはカイトが自分の方に向いたのを確認すると、今度は視線をユーナの方に誘導する。ユーナは意識している所為かカイトと目が合うと緊張してぎこちなく笑みを浮かべた。
「俺がか?」
カイトも視線を誘導した意味を理解したのかアイシャに疑問を向ける。
「ここにいるってことは踊れないわけじゃないでしょう?」
「そうだけど、他に相手は?」
「ユーナはあなたがいいそうよ」
「ア、アイシャ様っ!?」
アイシャの言った言葉を聞いてユーナはとうとう顔を真っ赤にした。カイトも少し驚いたように目を丸くしていた。
「あ~よし、分かった。この後、一曲どうだ?」
「あ、は、はい。よ、よろしくお願いします・・・・」
カイトは若干気恥ずかしそうにユーナを踊りに誘った。けれど、悪い気はしていないだろう。ユーナは顔を赤くしたままその誘いを受けた。
「良かったわね、ユーナ」
「・・・はい」
そんなユーナを見てフレイリアが声を掛ける。ユーナは嬉しそうに返事をした。
「ところでフレイはどうするのかしら?」
「え、あ・・・」
アイシャに言われて自分だけ相手が決まっていないことに気付いた。あと少ししたら曲が流れ始めてダンスの時間が始まってしまう。そうなれば一人だけ取り残されてしまうことになる。
「ど、どうしよう・・・」
「今の時間だともうみんなほとんど相手を決めてるんじゃない?」
「先輩と踊ればいいんじゃないか?」
そう言って皆の視線がシャルロットの方に向く。男同士で踊ることはマナー違反とされているが、女同士なら問題はない。
それにシャルロットは普通の男子よりは男前だ。相手としては申し分ない。
「僕かい?あまり得意ではないけど、姫が望むと言うのであれば、僕と一曲踊っていただけますか?」
シャルロットは周りの期待に応えようとするかのごとく、爽やかな笑みを浮かべて歯の浮くようなセリフを言った。
けれど、フレイリアの方はあまり乗り気ではなさそうだった。銃後になったとはいえ、未だに恋愛小説に憧れる可憐な乙女なのだ。舞踏会は男女で踊るものと考えが固まっている。
それにいくら女同士で踊ることがマナー違反でなくても実際に女同士で踊る人はあまりいない。もしも、女同士で踊っているのを見かけたなら、周りの人はそういう趣味の人なのだろうと認識してしまう。フレイリアはそういったことになるのは御免こうむりたかった。
「そう言えば、レアルはいないのかい?」
すると、シリウスが思い出したように呟いた。
「私、あの人となんて嫌よっ!!」
自分の兄が何を意図してレアルの名前を出したのかすぐに理解したフレイリアは考えを言われる前に否定した。
「まだ、何も言ってないんだけど。それでアイシャ、彼は?」
「レアルだったら今頃図書館にでもいるんじゃないかしら」
「ここにはいないのかい?」
「こういったことには興味がないらしいわ」
それを聞いたフレイリアはホッと胸を撫で下ろした気分になった。けれど、次のシャルロットの言葉によって驚愕することになる。
「え、でも僕さっき彼のこと見かけたよ?」
その言葉に驚愕したのはシリウスを除いたアイシャ達三人も同じだった。シリウスは三人が何に驚いているのか分からないといった感じだ。
「それって本当ですか?先輩」
「うん。何なら呼ぼうか?」
「お願いします」
お願いされてシャルロットは大勢の生徒がいる方へと目を向ける。そして、シャルロットは魔法を使用した。風属性の小さな魔方陣が彼女の目の前に現れる。その魔方陣に何か何かを呟くと魔方陣は消えてしまった。
「今のは?」
「特定の相手に音を届ける魔法だよ。多分すぐ来ると思うから」
すると、大勢の生徒の中から一人こちらに向かってきている人物がいた。近づいてくるにつれて顔がはっきりと見えてきてそれがレアルだと分かった。こちらに来るときにかなり嫌そうな表情が一瞬浮かんだが、その後すぐに無表情になった。
「わざわざ、魔法で呼ばれなくても近くにいるものに要件を言えばよろしかったのでは?」
「君に用があったんだよ」
呼び出されたレアルは面倒そうに敬語でシャルロットに抗議した。レアルの服装はカイトたちのような正装ではなかった。黒いズボンに白いシャツ。その上には黒く薄いベストを着て、きっちりとネクタイまで締めている。所謂、給仕服を着ている。これもある意味では正装だと言えるだろう。
レアルが敬語を使っているという事実を目のあたりにしてアイシャ達はさらに驚いた。
「お前、何やってるんだよ」
「見て分かりませんか?給仕です」
「いや、何で給仕?お前生徒だろ」
「この前の騒ぎの罰当番だそうです。人手が足りないので手伝うように学院長に頼まれました」
レアルは肩を竦めるようにしてこうなった理由を説明する。
「おい、レアルが敬語使ってるぞ」
「何だかちょっと不気味ですね」
「よく似た別人なのよ」
「聞こえてますよ。三人とも」
好き放題言われていてもどんな心境の変化があったのか敬語は崩さない。
「・・・気持ち悪い」
そんなレアルを見ながらフレイリアはぽつりと呟いた。
「何かお気に召さなかったでしょうか、お転婆姫?」
「なっ!?あなたねぇっ!!」
またも馬鹿にされたと思いフレイリアは怒り出す。敬語を使われているというのに見下されていることが分かるような態度だったのでフレイリアは余計に腹が立った。
「こらこら、また喧嘩を始めるつもりかい?」
「でも、お兄様ぁ・・・」
「はいはい、レアルもあんまり妹をからかわないでくれよ」
「・・・かしこまりました」
シリウスに諭されてまたも喧嘩に発展するということにはならなかった。
「それでご用件はなんでしょう?」
「フレイのダンスパートナーを探していたんだけど、その様子だと無理そうだね」
「ダンスの相手、ですか」
そう言ってレアルはフレイリアの方を見る。そして、微かに笑った。
「あっ!今絶対馬鹿にしたでしょっ!!」
「いえいえ、そんなことは」
「もう、いいっ!!」
そう言って怒ったフレイリアはこの場を立ち去ろうとする。
「どこに行くんだい?」
「お相手を探してくるんですっ!」
シリウスに対して八つ当たり気味に答えた後、大勢の生徒の中へと消えて行った。
「流石に今のは意地悪すぎるんじゃないのかい?」
そう言ってシリウスは責めるようにレアルに視線を送る。けれど、レアルは特に気圧されたわけでもなく普通に対応した。
「給仕と踊る王女、というのは些か惨めだと思いまして」
「女性の前では紳士であるべきだと思うけど」
「まだ紳士の心構えは十分に把握出来ていませんので」
すると、講堂の中に音楽が流れ始めた。そろそろ、踊りの時間が始まるようだ。
「お時間が来たようですよ。今は舞踏会をお楽しみになられてはいかがですか?紳士ならば女性を待たせるべきではありませんよ」
「はは、口が上手いね。何だか僕も君が意地悪に見えてきた」
「ありがとうございます」
「褒めてないんだけどな。何だか君と話すのはちょっと楽しいかも」
シリウスはそう言って少し笑う。
「シリウス、そろそろ始まるわ」
「ああ、分かったよ。それじゃあ、また後で」
アイシャに呼ばれてシリウスは講堂の中心へと向かっていく。途中でアイシャの手を取りながら。
ユーナとカイトのペアもお互いに意識ているのか少し初々しい感じで手を取り合った。
「君も大変だね。あ、もう敬語は使わなくていいよ」
「・・・大変どころじゃねぇよ。もうストレス溜りまくりだって」
ダンスが開始されたのを見計らってシャルロットが話しかけてきた。敬語はいいと言われてレアルは大きく息を吐いて気を緩めた。
「邪魔にならないようにちょっと下がろうか」
そう言ってシャルロットは講堂の壁際まで移動した。レアルも休みたかったので黙ってついていった。途中、別の給仕が持っていたトレイから飲み物を二つ取ると片方をレアルに渡してきた。
「はい、お疲れ様」
「いや、一応仕事の最中なんだけど」
「今更、気にすることでもないだろう?」
それもそうだな、と納得してレアルはそれを受け取った。壁に凭れながら一口飲んだ。すると、疲れが少しだけ和らいだ。
「それにしても罰当番か。わざわざ、そんな面倒なことしなくても普通に参加したらよかったのに」
「俺が普通に来てたらそれだけで浮いて目立つんだよ。それにダンスなんて踊れないし」
レアルが給仕の手伝いをしているのはシリウスとフレイリアの護衛のためだ。罰当番と言うのは単なる口実に過ぎない。
「それにしてもかなり給仕姿が板についていたね。びっくりしたよ」
「・・・謹慎中にセルフィさんに叩き込まれてな」
レアルはその時のことを思い出してがっくりと項垂れた。メイドを務めているだけあって礼儀作法に関してはかなり厳しかった。いくら護衛のためとは言え、二つ返事で了承してしまったことを公開していた。
「ていうか先輩、舞踏会でもそれなんだな」
それ、と言うのはシャルロットが男装をしていることである。燕尾服などではなく、軍服に似ている服だ。剣は帯刀していないが騎士としか言いようがない。
「似合わないかい?」
「すげぇ似合ってるんだけど・・・いや、性別が女だから似合ってない方がいいのか?」
感想を求められたがレアルはどういう反応を示せばいいのか困った。そもそも、男装は舞踏会のドレスコードに引っ掛かると思うのだが良いのだろうか、とレアルは思った。
「年下の子に女の子扱いをされたのは初めてかもしれないね」
「紛らわしい恰好してるからだろ。何でいつも男装してるんだ?男として育てられたわけでもないだろう?」
「僕も女を捨てたつもりはないよ。けど、それを抜きにしてもああいう風なひらひらした服が苦手なんだ。体を動かすのにも邪魔になるしね」
シャルロットは服をおしゃれの道具とは考えていないみたいだ。そう考えるとスカートなどの衣服に馴染みがなかったのかもしれない。
「先輩は踊らないのか?」
「もう相手がいないよ。あ、もしかして君が踊ってくれるのかい?」
「踊れないって言っただろ。他の奴から誘いもあっただろ」
「あったけど、一応、僕も護衛を頼まれてるからね。楽しんでばかりってのもどうかなって」
「そこまで気にすることでもないと思うけど」
ここ一週間護衛をしていたがシリウス達を狙う気配は一切なかった。侵入者が入ったという形跡もない。レアルははっきり言って過度な警備をしていると思っていた。
「君の期間は今日で最後だったけ。でも、あんまり気は抜かないでね。襲撃者が来るとしたら今日が一番可能性が高いから」
「分かってるよ」
こういう催しの際は人間どこか気が緩んでしまうものだ。その期を狙って来る場合もある。それに全室には多くの生徒が実家から自分の着る服や装飾品を学院に運び込んでいる。そのため外部からの侵入もたやすくなっていたのだ。襲撃者が本当にいるとしたら、もうすでにこの場に紛れ込んでいる場合もあるのだ。
「なら、よし。じゃあ、僕はその辺を見て回るよ。はい、これ」
そう言ってシャルロットはレアルから離れて行った。ちなみに渡されたのは空になったグラスだ。そして、自分が給仕あることを思い出してレアルはため息をついた。
「そこのあなた」
すると、声を掛けられたのでそちらに向く。いつの間にかそこには青紫色のドレスを着た女子生徒がいた。紺青の髪の色と合っていて見事に着こなしている。落ち着いた雰囲気と見た目から三年生だろう。無表情だがかなりの美人だ。
「喉が渇いたのですが、飲み物を持ってきてくれますか?」
「かしこまりました」
グラスを片づけに行くところだったのでちょうどよかった。レアルは一度その場から離れて食事などを用意する厨房でグラスを片づけた。そして、新しいグラスを用意して飲み物を注ぐ。それをトレイに乗せて先ほどの場所まで戻って行った。
「お待たせしました」
そこで待っていた女子生徒に飲み物を差し出す。女子生徒は無言でそれを受け取ると一気に飲み干した。意外な行動だったのでレアルは少し驚いた。
「どうも、ありがとうございます」
レアルに対して礼を述べるとグラスをトレイに戻して女子生徒は去って行った。
少し珍しいものを見たような気分になりながらまたグラスを片づけに行こうとした。すると、そこで少し違和感を感じた。
先ほどの生徒はどうしてレアルに対して礼を言ったりしたのだろうか。この場にいる生徒のほとんどは貴族の生徒だ。一々給仕に対して礼を言う習慣なんてないだろう。それに他人が見ている前で一気飲みをするというのもおかしい。
それにさっきの生徒がレアルに声を掛けてきた時、レアルは壁を背にして講堂を見ていたのに彼女の接近に気付けなかった。
「・・・まさか、気配を消していた」
レアルは思い当たる可能性を言葉にして呟いた。そして、何にためにそんなことをしていたのか考える。気配を消すということは自分の存在を気取らせないためにすることだ。もし、そんなことができるとしたら先ほどの女子生徒はただの生徒ではない。
そう考えた時にはレアルの体は動きだしていた。




