予期せぬ対面
ベルグラントの話を聞いて分かったのは、ベルグラントの身の上話とオズワルドのことをかなり信頼している、ということだった。
元々、他の協力者がオズワルドの話についてどう思っているのかを聞きに行ったのだが、何だが本来の目的よりも別のことが詳しく分かってしまった。ベルグラントが決意のようなものを熱く語ってくれたのでかなり良い話に聞こえた。
そこでレアルは少し頭を働かせて聞いた話をまとめてみることにした。
まず、ベルグラントはオズワルドの話を鵜呑みにしているわけではないが、起こりうる可能性として捉えている。現段階では危険視するというほどではなく警戒している程度。ベルグラント自身のスタンスとしてはオズワルドの意思に従う様子。行動を起こすとしたら何か事件があってからだろう。
「大体、こんな感じか」
基本的に受け身に回っている。まぁ、この先に何が起こるか分からないのだから先手を打つことはできないのだが。
オズワルドの話についてはあまり疑っているような様子は見られなかった。前にも同じようなことがあったのか、それとも信頼の表れなのかは分からないがどことなく納得しているように見えた。理由も聞いていないというのに不思議なことだ。
「何か少ないな・・・」
改めて思い返してみて出た感想はそれだった。
なんというかベルグラントはオズワルドに対してかなりの信頼を寄せている。そのため、オズワルドがやることに対して、何か思うことが少ない。それに頭で考えるのは苦手だと言って、今回のことも深く考えていなかった、とも言っていた。別段、馬鹿というわけではないが、頭の労働を他に任せているのは本当だろう。
思った以上に得られた情報が少なく、レアルは少しだけ落胆した。レアルとしては今回のことやオズワルドの話を聞いて、今後どうなるかなどの考察とかを期待していたのだが。
まぁ、そこは仕方ないだろうと思って割り切ることにした。
「他にも聞きに行こうかな・・・」
そう口にするがレアルはあまり気が進まなかった。他と言ってもレアルが知っている協力者というのは二人しかいない。
一人はエールトリス王国の二大貴族にして、この学院最強の生徒、シャルロット・イル・ウィクトアリア。もう一人は医務室で養護教諭をやっているエメリ先生こと、エメリ・ラッテラ。
何故、この二人に会いに行くのが気が進まないのかというと、シャルロットの方は今だに魔道大会の結果のことを根に持っているらしく、事あるごとに再戦を申し込んでくる。最近は会う機会も少なくなってそれほどでもないのだが、魔道大会が終わったころには結構しつこく言い寄られた記憶がある。話を聞きに行って、答える代りに、などと言われたら面倒だ。それに今会いに行けば、関わりたくない相手にも会ってしまいそうで余計に行く気になれない。
エメリの方はあののほほんとした雰囲気から何も考えてはいなさそう、と判断していたからだ。こちらも馬鹿ではないとは分かっている。そもそも、元研究者と言っていたので頭が悪い筈がない。けれど、子供っぽい言動やかなり抜けていそうなところなどから、これと言って何か考えているとは思えないのだ。それにもし何か考えがあったとしてもそれを聞きだすのに苦労しそうな気がする。
だから、一番まともなベルグラントに話を聞きに行ったというのに予想外の展開により期待外れの結果に終わった。
「さて、どうしたらいいのやら」
さっき考えたことはあくまでレアルが思っているだけで必ずしもそうであるとは限らない。もし、考えたとおりの展開になったとしてもレアルが我慢すればいいだけの話なのだが、それだと何だか損をしている気分になって、レアルは実行に移そうとは思わなかった。
「そういや、他に協力者っていないのか?」
レアルが知っているオズワルドの協力者はベルグラント、シャルロット、エメリ、セルフィ、の四人。けれど、協力者がこれで全員というわけではないだろう。これだけならいくらなんでも少なすぎる。
どうせなら、さっきベルグラントにでも聞いておけばよかった、とレアルは少しだけ後悔した。今までそんなに気にしたことはなかったので、そんなことは全く頭になかった。
「けど、もう一回聞きに行くのはなぁ・・・」
ここからまた職員室に戻ってからベルグラントに他の協力者について聞く、というのも二度手間で面倒だとレアルは思った。そもそも、今回の聞き込みは暇つぶしを兼ねたものであって、そこまで重要なものではないため、そこまでする必要はない。
そう考えてもう一度職員室に行くのはやめた。
「仕方ない。エメリ先生の所にでも行くか」
まだ時間は十分にある。なのでレアルは比較的に苦労が少なそうなエメリのところへ行くことに決めた。
「そこのあなた、ちょっといいかしら?」
するとそこで誰かに声を掛けられた。アイシャやカイトのように聞き覚えのある声ではない。
「ん?」
彼女ら以外に自分に声を掛けてくる生徒がいるとは珍しいこともあるもんだ、と思いながらレアルは声を掛けられた方に向く。
そこにいたのはレアルにとって予想外の人物であった。
腰まで伸びたストロベリーブロンドの髪に大きな赤い瞳。綺麗というよりは可愛らしいという方が似合う少女。肩には一年生であることを証明する緑色のマントを羽織っている。現在この学院の中で一番注目されている人物。フレイリア・ラス・ハーミット・エルトリィがそこにいた。
フレイリアを見て一番初めに思ったことは何故こんなところにいるのだろうという疑問だった。まぁ、ここは学院内でフレイリアがこの学院の生徒ということが分かっていれば、誰もが使うであろう廊下にフレイリアが居たとしてもおかしくはない。
いきなりフレイリアが現れたので驚いてしまい、そんな馬鹿なことを考えてしまった。
「ねぇ、聞こえてるの?」
そんなことを考えていると対応が遅れた。フレイリアは振り返っただけで何も返事をしてこなかったレアルに対して再度問いかけてきた。
「・・・ああ、聞こえてる」
「そう、ならよかったわ」
「何か用か?」
「ええ、そうよ。あなたに少し聞きたいことがあって」
一応、学年で言えばレアルの方が上なのだが、フレイリアは分かっていないのか、気にしていないのか、敬語を使わずに話してくる。レアルは別に従者でも何でもないだけどな、と思いつつもこういったことには慣れているので気にせず何も言わなかった。
聞きたいことと言っても、どうせは学院内で少し迷ってしまったとかそんなのだろう、と予想した。
「レアルという人を知っているかしら」
けれど、その予想は大いに裏切られることになった。自分の名前が出てきたことによってレアルはまたも驚いた。
いや、ちょっと待て、とレアルは一旦自分を落ち着かせる。そして、目の前の王女様が何で自分に用があるのか心当たりがないか考える。けれど、そんなものあるはずがない。
それもそうだろう。レアルはフレイリアがこの学院に編入して今が初対面なのだ。会った、話した、以前に関わり合いを持つことが初めてだ。オズワルドから護衛を頼まれたりして間接的に関わったりしているが、それは別として。
そんな関係だというのにどんな用事があるかなど分かるはずもない。
と、そこでレアルは今フレイリアに質問されていることを思い出す。フレイリアとの関係は置いておくとして何かしら答えなければならない。
けれど、レアルはここで素直に自分のだと名乗ることを戸惑った。これが普通の生徒だったなら王女に話しかけられたことに舞い上がって素直に知っていることを話していただろう。
何故、レアルが素直に名乗らなかったかというと、明らかに厄介事の気配がするためだ。それもそのはず、レアルが貴族と関わって起きた出来事は厄介事の方が多い。すでに自分と貴族という組み合わせは、自分にとって良くないことが起こるという法則みたいなものが頭の中で出来上がっていた。
それに今回の相手は貴族ではなく、王族。下手をしたらとんでもない厄介事に巻き込まれるかもしれない。
そんなことを考えてレアルが出した結論は・・・
「いや、知らないな」
他人のフリをするというものだった。正確には他人のふりではない。目の前にいる王女様はレアルという生徒を探しているが、そのレアルは自分のことではなく、別のレアルという生徒を探しているのだ、ととても都合のいいように解釈したのだ。
そんな解釈をしているとは思っていないフレイリアはあっさりとレアルの言葉を信じる。
「そう、分かったわ」
質問が終わったと思い、レアルは早くここから立ち去ろうとする。
「待って、まだあるの」
けれど、フレイリアの呼び止めによりそれを断念した。一瞬、無視して行ってしまおうかと考えるが、そのことに対して追及されるのも面倒なのでその場に留まった。
「アイシャ・エテオクレスと最近親しくしている生徒については知らないかしら?」
何故そこでアイシャの名前が出てくるのだろうとレアルは疑問に思う。二大貴族であるアイシャが王族のフレイリアと接点を持っていても不思議ではない。レアルはふと数週間前にアイシャに手紙を届けたことを思い出した。その時の差出人の名前はフレイ。もしかしたら、手紙の差出人はフレイリアなのかもしれない。
そう考えると、レアルはフレイリアがアイシャの身辺調査のようなことをしているのも何となく分かるような気がした。
まず、アイシャが個人的に呼び出されていたことを見ると、二人の仲は良いのだろう。愛称で呼ばれているから友人であることは確定。
で、そんな中のいい友人の居る学院に編入してみると、その友人に対して噂が流れていた。この噂というのが身辺調査をしている原因だろう。噂はレアルが学院に編入する際に流れたものだ。
その噂はレアル対する悪評でしかないのでフレイリアが聞いたとしたらアイシャのことを心配するはず。
それでアイシャを困らせているどこの馬の骨とも分からない輩を見つけてどうにかしてやろう、という感じだろう。
そういう憶測を建てながらレアルはまた知らないと答えようとしたが、少し考えた。アイシャに関する噂は瞬く間に学院中に広まった。学院中に広まっている噂を知らないというのは少しおかしい。ここは逆に知っている方が自然というものだ。
「ああ、それなら知ってるぜ」
「本当!それってどんな人?」
けれど、レアルはそこで自分がその生徒だ、と馬鹿らしくて図々しい返答はしない。レアルから見てアイシャとして親しくしている生徒は一人しかいない。
「まず、髪が茶髪だな。それで緑色の目をしてて、一見すると爽やかな好青年とも見えなくもなく、実際話してみると案外馬鹿っぽい感じがする奴だ」
レアルがその人物の説明をしてるとフレイリアは少しだけ不思議そうに首を傾げる。
「名前は分かる?」
「いや、それは知らないな」
一応、名前は伏せておくことにした。
「何だか、聞いてた話と大分違うわね・・・・」
フレイリアは考え込むような仕草をして小さな声でブツブツと呟く。
「まぁ、いいわ。色々教えてくれてありがとう。それじゃね」
考えがまとまったのかフレイリアは顔を上げてレアルに礼を言うと、すぐにどこかへ行ってしまった。
「・・・どういたしまして」
聞こえてはいないだろうがレアルは一応そう呟いてフレイリアを見送った。そして、レアルはふぅ、と息を吐く。
予想外のことが起こり少しだけ焦ったが何事もなく終わった。これでようやくエメリの所に行くことができる。そう思いレアルはエメリの居る医務室に向かった。
けれど、本当に何事もなく終わることはなかった。
◇◆◇◆◇◆
その日の夜、いつものように食堂で食事を終えたころ、それは起きた。
「見つけたぞ、レアル!」
と、食堂に入ってくるなり人のことを名指ししながらこちらに向かってきたカイト。食堂は全席が埋まっているほどではないがそれなりに生徒がいる。その生徒の視線が一瞬だけレアルに移るのだが、すぐに興味をなくし、食事や雑談に戻っていく。
「いきなり人の名前を叫ぶのはやめろ。かなり迷惑だ」
「あ、すまん。・・・じゃなくてっ!何で俺が謝ってんだよっ!」
「一々騒ぐな。それで何か用でもあるのか?俺としては何もない方が嬉しい」
「あるよ、ありまくりだ。お前王女に何吹き込みやがった?」
「王女?」
それを聞いてレアルは放課後のことを思い出す。どうやら、フレイリアはカイトに何かやったらしい。
「ああ、あれか。なんかさぁ、アイシャと親しい生徒を知らないかって聞かれたからお前だって答えておいた」
「何でだよっ!?おかしいだろ、そこっ!!お前の方が断然親しいだろうがっ!!」
「いやいや、身近にいるってだけで親しいかどうかは別だろ」
普段から他人の評価などどうでもいいと言っているレアル。それは他人のことをそれほど気にしていないということであり、他人と親しいかどうかなど深く考えたことはなかったので答えられるはずもなかった。
「それで王女様何を言われたわけ?衝撃の告白でもされたのか?」
「ある意味衝撃だったよ。何かいきなり王女が現れて、何でか俺の事お前と勘違いしてるし、いきなり俺はアイシャには相応しくないとか意味不明なこと言われるし、それを見てたやつらが変な目で見てくるわで最悪だった」
カイトはひどく落ち込んだ様子で何があったかを語りだした。もし、レアルがフレイリアに質問された時自分だと説明していたら、レアルがそうなっていたかもしれない。
「ハハハ、そりゃ大変だったな」
「お前の所為だろうがっ!!」
笑っているレアルに対してカイトが恨めしそうに怒鳴る。
「にしても、よく俺だって分かったな」
「ああ、王女に誰が俺のことを教えたのか聞いたからな。そしたら、黒目黒髪の生徒が親切に教えてくれた、って言ったんだよ。そしたらすぐにお前だって分かったよ」
貴族が多いこの学院に黒目黒髪の生徒はそんなに多くないので分かるのも当然だろう。
「お前だって分かったからそこまで対処には困らなかったけど」
「何をしたんだ?」
「別に、ただ王女の誤解を解いてあげただけだ。それはもう懇切丁寧に説明したぜ」
カイトは薄く笑みを浮かべながら、してやったと言わんばかりにそう言った。
「お前、何てことしやがった・・・!?」
フレイリアの誤解を解いたということはレアルが彼女の探している人物だということがばれてしまったことを表す。となれば、フレイリアがレアルのところに来るのも時間の問題。カイトにしたことを考えると友好的な態度はとってくれないだろう。せっかく、厄介事を回避したと思ったのに結局巻き込まれてしまった、とレアルは悟った。
「ハッ、人のこと騙すお前が悪いんだよ」
「くそっ、こんな事なら人柱なんか用意するんじゃなかった・・・」
「お前はどういうつもりで嘘ついてんだよっ!?」
カイトが声を荒げてつっこんでくるが今はそんなことは気にしていられない。今後、自分の身に降りかかるであろう不幸にどう対処するか考えなければならない。
カイトの話を聞く限り、フレイリアはレアルとアイシャの関係が気に食わないらしい。どう思っているかは分からないが、カイトに相応しくない宣言をしているあたり、好意的な感情は向けられていないのは確かだ。
そんなことを思っていると編入当初の周りの生徒みたいな感じだな、とレアルは思った。フレイリアもアイシャのファンみたいなものだったりするのだろうか、などとどうでもいいことも考える。
一番楽な対処法としてはフレイリアと出くわさないというのがあるのだが、向こうが探している以上は出会う確率も上がる。学年が違うとはいえ、共有している学院の施設もあるのだから。
「見つけたわっ!!」
対処法を模索しているレアルの思考はその一言で停止させられる。この言葉を向けられるのは今日で二度目、しかも短時間でだ。
食堂の入り口に立ってカイトと同じ台詞を言った人物はもうすでに分かっている。見てみるとそこにはレアルの方を睨んでいるフレイリアがいた。




