責任
トントンとレアルは学院長室のドアをノックする。
「入りたまえ」
すると、返事はすぐに返ってきた。それを確認してレアルはドアを開けて中に入る。
中に入ると、椅子に座っているオズワルドがレアルを迎えてくれた。後ろに控えているセルフィはレアルが入ってきたのを確認すると黙って会釈をした。
時間はまだ早朝、レアルはオズワルドから話があると言われてここまで連れてこられた。まだ、眠っているところを起こされたので若干不機嫌そうだ。
呼び出されたということは仕事関連の話だろう。けれど、今までなら大抵授業が終わった後に呼び出されていたのに、今日はどういった風の吹き回しなのだろうか、とレアルは考えていた。
レアルはいつも通り近くのソファに腰かけた。
「何でこんな朝っぱらから呼び出したんだよ?」
自分は今不機嫌だ、ということを隠そうともせず、オズワルドに問いかけた。
「まぁ、そんな怖い顔をせんでもええじゃろ。今日はこの後から色々と予定が詰まっておっての。今ぐらいしか話せる時間がなかったのじゃ」
「どこかに出かけたりでもするのか?」
「いや、そういうわけでもないんじゃが。行事の準備をせねばならんのじゃ。まぁ、その話は後じゃ。おぬしを読んだのは色々と報告せねばならんことがあるからじゃ」
オズワルドはセルフィに目を向ける。すると、セルフィはその視線を受けて少し前に出た。
「その報告は私からさせていただきます。一つ目ですが、先日レアル様が捕えた通り魔、クリス・カルバイドについてです。事件解決後から彼の家に軍が査察を掛けたところ、案の定レアル様が予想した通り、密売されていた薬が発見されました。薬の仕入れを行っていたのは当主であるロニー・カルバイド。かなり前から薬の取引をしていたそうです」
「どれくらい前?」
「二年ほど前だそうです」
「あれ?でも王都でその薬が流行りだしたのって結構最近じゃなかったか?」
レアルが聞いた話では王都にゴーストが出没するようになってから薬も出回るようになったはずだ。三年も前から麻薬に手を付けていたなら時期がかみ合わない。
「薬を仕入れていたロニー・カルバイドは王都ではなく、離れている街で薬を売っていたそうです。流石に王の管轄下で堂々と非合法な薬を売る勇気はなかったのでしょう」
確かに他の街よりは警備が厳重なところだ。もし、王都で薬が広まっていて問題視されるようになっていたらゴーストが現れるよりも前にロニーとかいう貴族は捕まっていたはずだ。
クリスが王都で噂になるまで薬の密売ができたのは、当主がたびたび王都から離れていたからだろう。しかし、あそこまで息子が変わっていたのにも関わらず、何も気づかない親というのはどうなのだろうか?クリスが歪んでしまった原因は学院でのいじめだけなのではないのかもしれない。
「麻薬密売の罪によりカルバイド家は爵位を剥奪。国に対して多額の賠償金が請求されています。もし、払えない場合は鉱山にて無期限労働だそうです」
鉱山と言ってもただの鉱山ではない。そこで働いている者はこの国で犯罪を犯したものばかりだ。つまり、鉱山の無期限労働というのは投獄されたのと同じことだ。
多額の賠償金というのは多分、貴族であっても楽々と出せる金額ではないのだろう。一応、救済の余地として提示している条件だが、国としてはもうカルバイド家を救うつもりはないと言っているようなものだ。
それもそのはず、国は罪を犯した貴族、という汚点を残したくないのだ。もしも、そんな貴族が存在していると他国に知れたら、エールトリスの評判はガタ落ちだ。
だから、早々に処分を決めたのだ。情報が広まらないように。
「へぇ、息子の方はどうなったんだ?」
「極刑です」
レアルの質問にセルフィは間髪入れずに答えた。罪を犯したとはいえ学院の生徒が死刑となるというのにセルフィは何も感じた様子はなかった。一方、オズワルドは少しだけ眉を動かした。彼にはまだクリスが大切な生徒であるという認識が残っていたのだろう。
「まぁ、四人も殺してるし妥当な判断だな」
「それもありますが、主な理由は彼の状態でしょう。薬の長期服用によって精神が不安定になっており、過度の魔力を保持し続けていたため体にも影響が出ています。治療による回復も更生もあまり効果は見込めないのでこれ以上の存命は彼にとっても苦痛にしかならないと判断されたそうです。」
「ただ苦しめるだけならいっその事楽にしてあげよう、か?優しいねぇ、この国は」
レアルは国の判断を聞いて大いに皮肉を言った。苦しみから解放してやるというのは、クリスを生かしておく意味がなくなったということだ。
精神的に不安定で体にも障害を抱えているなら、親のように鉱山に送り込んでも役には立たないし、時間を掛けて治療する義理もない。投獄しても罪を償うことができないなら邪魔になるだけだ。
だから、手っ取り早く処分してしまおう、というわけだ。二人もこの意味については気づいているだろう。
「彼の処分については以上です。それと少しレアル様についてお聞きしたいことがあるのですが」
「何だ?」
「事件にかかわっていたあの薬ですが、出所が不明のもので何か知っていたら軍に報告してほしいとのことです」
「そんなの仕入れていた本人に聞けばいいだろ」
「わし等に情報を求めてくるということは、その本人からは大したことは得られなかったんじゃろ。向こうも期待して聞いてきているわけではない」
「だったら、無理に調べる必要もないだろ。知らないなら知らないって言っておけばよかったじゃないか」
「今回の事件はこちら側に非がない訳ではないからの。ほんの少しの罪滅ぼしにと思ったもじゃが」
クリスがゴーストとして人を襲った原因は、学院で受けたいじめのストレスから来ているが、いじめなんてどこで起きているかなんて分からないし、対処するのは難しい。もしも、学院側がクリスに対するいじめに気付いて止めることができていたとしても、今回の事件を防げていたという結果に繋がるとはかぎらない。なので、レアルは学院側にそこまで非がるとは思わなかった。
「お主は編入前まで他国におったと聞いたのじゃが、何か知っておるか?」
そう聞かれるが思い当たる節はない。そもそもあの薬の存在を知ったのはこの国でなのだ。
「悪いけど、他国にいた時でもあの薬のことは全く聞かなかったよ」
「そうか。ありがとう、軍には何もなかった、と伝えておくれ」
「かしこまりました」
そう言われてセルフィは頭を下げて了承する。そして、話は次の話題に入った。すると、オズワルドの顔が少しだけ険しくなった。
「さて、次じゃが、先日気になる話を耳にしての」
「何だ?また噂か?」
「いや、噂ではない。ウリアド共和国のことは知っておるじゃろ」
「ああ」
ウリアド共和国はエールトリスより南に位置する国だ。広大な領土を持っており、国土だけならリアトス大陸の中で一番大きな国と言われている。
広大な土地を生かした農作物の生産が盛んで、特産品も数多く存在する。この国の食糧自給率は高く、戦後の各国で食料が不足していた時期にも飢餓に苦しむ人々が少なかった。そして、ウリアドはこの時に他国に対して食糧供給を行った。その時の印象から他国に友好的な国としても有名であった。
けれど、同時に軍事力の乏しい国としても有名だった。ウリアド共和国は元々、シャイファール帝国と大陸南部に存在する五つの小国が併合されてできた国だ。
昔、シャイファールの属国であった五つの小国は、シャイファールの支配から逃れるため同盟を組み、反シャイファール同盟軍として宣戦布告した。同盟を組んだ小国とシャイファールの戦力はほとんど互角で、エールトリスとガメルデと同じように長きにわたり戦争をしていた。
その戦争も五十年前に終結した。だが、この戦争に勝者はいなかった。戦争が終結した時にはシャイファールは王を、同盟軍は指導者を失っていた。互いに疲弊しきっており、どちらも自力で国を建てなおすのは難しい状況だった。
そこでシャイファールと同盟軍は話し合いの場を設けた。その会談で両者は和解、領土を併合して新しい国を作ることとなった。それがウリアド共和国だ。
そして、国を作ったことにより問題が発生した。シャイファールと同盟軍を併合したことにより広大な国土を獲得することができたウリアド。けれど、その国土を守るだけの力が足りなかった。六つの国を併合したとはいえ、どこの兵も疲弊しきっており、数も万全ではなかった。そして、何より南部には鉄が取れる鉱山や魔力が豊かな場所が少なかった。鉄た魔石といった資源が取れなければ、軍を強化する装備が作ることができない。
疲弊した兵と数少ない装備、これがウリアドが軍事力の乏しい国となった原因であった。
「あの国がどうしたんだ?」
「つい二週間ほど前、ウリアド国内のとある貴族の館が襲撃され、屋敷の者全てが殺されたようじゃ」
レアルはそれを聞いて目を細める。
「それで、その後は?」
「ウリアドで起こった事件はまだこれだけじゃ。ちなみに目撃者はゼロ、屋敷も燃やされて証拠らしい証拠は残っておらんかったそうじゃ」
犯行の手口としては三件目の事件に似ている。けれど、貴族狩りというのはエールトリスの貴族たちの対立によって起きた事件。他の国を標的にするなんてことはあり得ない。だから、この事件は貴族狩りとは関係がないはずだ。
「まぁ、他国のことだ。こっちの事件とは関係ないだろう。それで、あんたは俺にそれを伝えてどうしてほしいんだ?」
「特別何かしてほしいということはない。じゃが、少しだけ嫌な予感がするのでの。気をつけておいてほしいのじゃ」
「嫌な予感って、爺さんは予知能力でもあるのか?」
「いや、この歳になってくると何かと臆病になっての。まぁ、年寄りの戯言程度に心にと止めておいてくれ」
オズワルドは何があるか分からないから警戒しておいてくれ、と言いたいのだろう。辛気臭い顔で語りだすものだから何をさせられるのかと思ったが、少し拍子抜けだった。
「さて、次が最後じゃが・・・」
「まだ、あるのかよ」
「時間がないのでの。それにこれから話すことが今回呼び出した理由のようなものじゃ」
「普通はそっちを先に話すべきだろ」
時間がないんじゃなかったのか、とレアルは疑問に思うが話の妨げになるので黙っておいた。
「実は明日からこの国の王子と王女が学院に編入することになっての。これから色々忙しくなるのじゃ」
「・・・・今なんて言った?」
レアルは自分の耳を疑った。今さっきオズワルドから聞き捨てならない言葉が聞こえたからだ。レアルは聞き間違いではないかオズワルドに聞き返した。
「じゃから、王子と王女がこの学院に編入することになったのじゃ」
「マジかよ・・・」
どうやらレアルの耳は正常だったようで聞き間違いではなかった。
レアルはあからさまに馬鹿を見るような目でオズワルドを見た。
「その眼はやめてくれんかの」
「そうです、レアル様。学院長は少々ボケていますが、馬鹿と呼ばれるにはまだ早いです」
「セルフィ、それはフォローになっとらんよ」
そんな様子を見てレアルはため息をつきたくなった。オズワルドが何を考えているのかさっぱり分からない。
「てか、王子と王女が編入ってどうなってんだよ?別に王族なんだから学院に来る必要はないだろ」
「どうもこうも、お主がこの学院に来る前からあった話じゃ。二人は自分たちと同年代の人と交流を望んでおるらしい」
「あんたは貴族狩りがまだ終わってないかもしれないから、俺を雇ってるんだろ。もしかしたら生徒が襲われるかもしれない状況で、何で編入を許可したんだよ?」
いくら貴族狩りの騒動が収まっているとはいえ、まだ犯人は特定できていないのだ。犯人の目的が分かってない以上、狙われる可能性は否定できない。滅多に外に出ない王族なら特に。
「貴族狩りに対する認識は話したじゃろう?言ってみたところで断る理由にはならんよ。それに、本人たちからの要望でもあるしの。無碍にはできん」
「面倒だな。で、俺はどうしてたらいいんだ?」
「やけに聞き分けがいいのぉ?」
「一応、依頼主からの要望は出来る限りこなすようにしてるんでね。その代り報酬とかはずんでくれよ」
「分かった。お主にしてもらいたいことは、王子達が編入してしばらくは学院の警備、王子達の護衛に努めてほしいのじゃ」
「しばらくってどれくらい?」
「最低一週間は学院にいてほしいの」
「護衛は?まさか、四六時中王子達の監視しろとか言うなよ?」
「そこまではせんでよい。護衛に関しては今まで通り有事の際の時だけでよい。その他は普段より警戒を強めておいてくれ」
王子達が来るとなると学院にいる衛兵なんかも増えるだろう。なのでレアルがすることは今までと対して変わらない。とりあえず、何が起こってもいいようにしておけということだ。
「シャルロット君にも話はしてある。まぁ、何もないことを願ってはおるが・・・」
「俺的には何かあってくれた方が色々楽だけど」
「レアル様、そういった発言はどうかと」
「別にいいだろ。爺さんだって、そういうこと少しは期待してるんじゃないか?」
「・・・・・」
レアルの問いかけにオズワルドは無言で返した。けれど、否定をしなかったことからレアルは沈黙は肯定であると受け取った。
レアルが期待していることとは、貴族狩りの犯人が何らかの行動を起こしてくれることだ。王族という立場は何かと利用できる。政治的要素が絡んでいるなら尚更だ。
もしも、王子達を狙って何らかの行動を起こしてくれたなら、かなりの収穫が得られるはずだ。
けれど、これは単なる希望的観測だ。そう都合よくはいかないだろう。さっきも言った通り王族というのは何かと利用できる立場だ。なので、何か起きたとしてもそれが貴族狩りと関係がある可能性は少ない。
「ま、言いたくないならいいや。話は今ので終わりか?」
「そうじゃな」
「じゃあ、少し聞きたいことがあるんだ。いいか?」
「構わんよ」
「あんたが俺に説明した貴族狩りの情報、何で知ってること全部話さなかったんだ?」
レアルはオズワルドの表情の変化を見ながら問いかける。だが、表情の変化は読み取れなかった。すると、オズワルドは不思議そうに首を傾げ、あたかも何も知らないようにレアルに聞き返してきた。
「はて、なんのことじゃ?」
「とぼけんなよ。俺が聞いた三つの事件より前に二つまだ事件があった。けど、あんたはそれを伝えなかった。それはなんでかって聞いてんだよ」
「わしは国からの伝令を伝えただけじゃよ」
「嘘だな」
レアルはすぐにオズワルドの言葉を否定した。
「あんたもさっき言ってただろう。この国では貴族狩りはもうそんなに問題視してないって。それなのにわざわざ、学院に事件の詳細を伝えて、警戒を促すような真似するわけないだろ。もっと言えば、爺さん、あんたは独自で貴族狩りについて調べてるはずだ」
「・・・そう考えられる理由はなんじゃ?」
少しだけ声が固くなった気がする。やはり何かあるのだな、とレアルは確信した。レアルはそう考えた理由を話し始めた。
「さっき、ウリアドで殺害された貴族の話があっただろう?あの時、俺は他国のことだから、こっちの事件とは関係ないって言ったんだ。爺さんはそれに何の意義もなく同調した。それが理由だ」
「どうしてそれが理由になるのじゃ。別段おかしくもないじゃろう?」
「いや、おかしいね。何も知らないんだったら普通は疑問に思うところだろう?」
オズワルドはそこでレアルの言葉の意味を理解したようだ。
エールトリスで起きた事件がウリアドでも起きた。何も知らない状態でそう聞いてまず考えることは、犯人がウリアドでも犯行に及んだのではないかという疑問だ。
何故かというと、エールトリスで起きた事件は貴族間の派閥の対立で起こった事件だ。なので他国に影響を及ぼすことはない。けれど、何も知らないのであれば、犯人が拠点をエールトリスからウリアドに変え、また犯行に及んだ、と考えることができる。むしろ、こう考える方が普通だ。
けれど、オズワルドはウリアドで起きた事件はエールトリスで起こった事件と関連性がないと否定した。それは事件のことを詳しく知っていないとできない。
「なるほど、してやられたの」
「そういうってことは、隠してたことは認めるんだな」
「ああ、確かに知っていた情報を伏せていたのは事実じゃ」
「何でそんなことをした?あんたの目的はなんなんだ?」
「そう、怖い顔せんでもよかろう。何もお主を陥れようとしたわけでもないのじゃから」
オズワルドは観念したかのように訳を話し始めた。
「確かにおぬしの言ううとおり、わしは自らの手の者を使い貴族狩りのことについて調べた。じゃが、肝心の犯人とその目的だけは分からずじまいじゃった。お主も貴族狩りがこの国の強硬派と穏健派の争いからきていることは知っておろう。何かが変わったわけでもなく、何かが起こったわけでもない、にも関わらず、貴族狩りは終わった。わしはそれが気がかりでならんのじゃ」
「じゃあ、爺さんは貴族狩りのことどう考えてるんだ?」
「・・・何かの前触れ、のように思っておる」
あれだけ大きな事件が単なる前兆だとはとてもじゃないが信じられない。だが、オズワルドにはそう思えるだけの理由があるようだ。
「そうだと思う理由は?」
「残念じゃが、それはまだ言うことはできん」
オズワルドはレアルの問いかけに答えることを拒否した。ただ信用されていないのか、それとも伝えることで何かまずいことでもあるのかは分からないが、オズワルドの今の様子では聞き出すのは難しそうだ。
「まぁ、いい。一度調べた貴族狩りをもう一度俺に調べさせたのは?」
レアルは新たに生まれた疑問について聞いた。
「それはお主の並外れた洞察力と推理力なら事件の真相を暴けるかと思っての。情報を渡さなかったのは先入観を持って事件を捜査してほしくなかったからじゃ。なるべく、調査もお主の好きなようにさせた」
「じゃあ、何で最初からそう言わないんだよ。面倒くせぇな」
「あまり気負われても困るからの。まぁ、その心配は無用じゃったが。して、お主は一体どうするつもりじゃ?」
色々と情報が隠されていたことに騙された気がしないでもないが、レアルはそのことはあまり気にしていなかった。それにまだこの依頼を続けるメリットはある。なので、最初の予定通り依頼はこなすつもりだった。
「別にどうもこうもねぇよ。俺は些細な疑問を解消しに来ただけだからな」
「なら、まだ協力してくれるということかの?」
「ああ。けど、期待通りの働きができなくても文句言うなよ」
「分かっておる」
「あと、最後に聞きたいことがある」
「何じゃ?」
「爺さんがやってることは明らかに学院長の領分を超えてると思うんだけど、どうしてそこまでする必要があるんだ?」
この国でのオズワルドの立場がどれくらいのものかはっきりとは認識していないが、オズワルドがやっていることは国の政治家共が悩むことなのだ。学院を治める老人が手を出すことではない。
何がオズワルドを動かしているのかレアルは気になった。
「ふむ、そうじゃな・・・・しいて言うのであれば、責任じゃの」
「責任?ただの学院長が何の責任を負うんだよ?」
「それは違う。わしの言う責任は平和を願ったものに対する責任じゃよ」
「何だよ、それ?」
レアルはその言葉の意味を問いかけるが、オズワルドは何も答えなかった。これ以上は話すつもりはないということだろう。
「まぁ、いいや。そろそろ時間も無くなってきたし」
壁に立てかけている時計を見ると、あと少しで生徒たちが登校してくる時間となっていた。早朝から呼び出されて二時間くらい話し込んでいたらしい。
「削られた睡眠時間はどうしてくれようか」
「いつも授業で寝ていると聞いておったが?」
「隣にいる優等生の所為でちゃんと授業受けてるんだよ」
授業中、アイシャが隣に座るようになってからはレアルがまともに眠れたためしがない。
「あ、そうそう。何か外出禁止令が出されてんだけど、学院の警備が終わるまでに何とかしといてくれ」
「まともに授業を受けんから、目を付けられるんじゃよ」
「へいへい、じゃあ、頼むからな」
レアルはそう言い残してから学院長室を後にした。
部屋の外に出たレアルは自室に戻るのも面倒なのでこのまま教室に向かうことにした。いつもなら授業が始まるぎりぎりに教室に向かう。
「それにしても、王子が来るとはねぇ」
話では王女も一緒に通うことになっている。レアルにとっては本来会うことすらない相手だ。かといって会えるからと言って嬉しいなどと思うことはない。彼らが来ることによってレアルは仕事が増えて迷惑している身なのだ。
できれば、あまり関わりたくないのが本音だった。
「・・・・面倒くせ」
レアルはこれからの一週間のことを考えて疲れたように呟いた。




