白い庭園
レアルを王都の入り口で降ろした後、アイシャ達を乗せた馬車は街の中を進んでいた。
アイシャは連れてきたユーナのほうを見る。ユーナは馬車に乗ってからずっと寝ていて未だに起きる気配がない。今日のようなことは初めてではないのだが、そろそろ慣れてほしいというのがアイシャの心情だった。
ユーナから目を離し、アイシャは馬車の窓から外を眺める。何かあるわけではないが、今はそれぐらいしかやることがないのだ。
本来ならアイシャ達は今日王都へ来る用事などはなかった。
何故、来ることになったのかというと昨日届いた手紙が原因だ。
手紙の差出人はアイシャの個人的な知り合いでもあるのだが、家にも深くかかわりのある人物だ。しかも、本人は気にしていないが、アイシャよりも位が高い人物なので誘いを無下に扱うこともできなかったのだ。
「けど、急に呼び出すのはやめてほしかったわね」
アイシャは手紙の差出人に対して少し不満を漏らす。けれど、今日王都に来るため何か予定をつぶされたわけではない。アイシャとしてはもう少し前に伝えてほしかったのだ。
窓の外の景色が流れてアイシャの目的地の場所が目に入った。
それはこの街でもっとも巨大で、もっとも目立つ建物。街の中心の山の頂のような場所にそびえたっている。
アイシャが目指している場所は王宮だ。
つまり、アイシャを呼んだという手紙の差出人はこの国の王族ということになる。
アイシャは街の全体が見渡せる厳かな建物を見て、小さくため息をついた。
別に今から会う人物に対してついたものではない。寧ろ、今から会う人物は幼い頃からの知り合いなので会うのは楽しみにしているのだ。
けれど、この王宮にはそれとは別にアイシャの頭を悩ませる問題が一つあるのだ。
その問題は今のアイシャをどうこうできるものではないが、アイシャだけでどうこうできるものでもない。だから、頭の悩ませているのである。
アイシャは人生を適当に生きていそうなレアルを少し羨ましく思うのであった。本人の前でそんなことを言ったら何か反論がありそうだが知る由もないだろう。
「そういえば、調べ物ってなんなのかしら・・・・」
あまりにも暇だったのでアイシャはレアルが言っていたことについて考える。
レアルが前々から何か調べていることは図書館の一件で知っているが具体的には知らなかった。精々、この国の歴史を調べているくらいだ。
普段はその手のことは面倒臭がってやりもしなさそうなのに、それだけはいつも熱心に取り組んでいる。毎日の放課後はほとんど図書館にいるといってもいいくらいに。
その頑張りを少しでも授業のほうに向けてくれたらとアイシャはお節介なことを考える。
ふと、アイシャは前に暇になったときレアルに渡された本のことを思い出す。確か、この国の伝承について書かれていた本だ。
あまりそういった本は読んだことはなかったがおもしろいと感じられた。
その本はレアルが調べ物をするために積み上げられた本の中から渡されたものだった。だとしたら、レアルはただこの国の歴史について調べているのではないのかもしれない。
歴史や伝承に共通することは、どちらも古いということだ。
レアルは何か古いものを探しているのだろうか。それとも、過去に起きた出来事を探しているのか。
「・・・・今度、聞いてみようかしら」
ふと、そんなことを呟いてしまった。
「エテオクレス様、そろそろ王宮に到着します」
すると、御者が目的地に到着することを伝えてくる。
それによりアイシャは一旦思考することをやめる。そして、自分の身嗜みを確認した。
自分は王宮に招待された身なのだから、失礼な格好のままで行くわけにはいかない。朝に確認しているがもう一度念入りに確認した。
そして、アイシャはまだ寝ているユーナを起こしにかかる。
「ユーナ、起きて。もう到着するわよ」
「・・・・ん、ふぁ?あれ、アイシャ様?」
「おはよう、よく眠れたかしら。これを言うのは今日二回目なのだけど」
一回目は朝、ユーナが起きた時に言った。
「・・・・えっと、ここは?」
「馬車の中よ。それともう王宮に到着するから」
「え、王宮?・・・・ああ!?たっ!?」
まだ少し寝ぼけていたがアイシャの言葉を聞いて自分がなぜ馬車に乗っているのか思い出したようだ。 思い出したと同時にユーナはその場で立ち上がった。けれど、この馬車は中で人が立つことを想定して作られていない。ゴンッ、という音とともに馬車が少し揺れてユーナは天井に頭をぶつけた。
ユーナはぶつけた頭を押さえてまた座り込んだ。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫、です・・・・」
若干涙目になりながらではあまり説得力がない。
「ユーナもどこか服に乱れがないか確認しておきなさい」
「あ!そ、そうでした!?」
ユーナは慌てて身嗜みを整える。そんな様子のユーナは落ち着きのない子供のように見えてアイシャは少し笑った。
すると、馬車が停車した。しばらくしてまた馬車が動き出す。
どうやら王宮の門をくぐったようだ。
ユーナは王宮に到着したのが分かるとさらに緊張した様子で固まった。
「そう、固くなってはダメよ、ユーナ」
「で、ですが、アイシャ様・・・」
「初めて会うわけでもないでしょう。いつも通りにしていれば問題ないから」
ユーナの緊張を解すため優しい声音で言い聞かせる。少し緊張が解れたのかユーナの表情は先ほどと比べると穏やかになっていた。
そして、もう一度馬車が止まった。
「エテオクレス様、到着しました」
馬車の扉が開いて御者の声が聞こえてくる。それを聞いてアイシャ達は馬車を降りた。
馬車を降りて目に入ったのはやはり巨大な城だった。入り口の前の庭はきれいに手入れがされていて多くの花々によって彩られている。
役目を終えた御者はアイシャ達に一礼をして馬車を走らせてどこかへ行ってしまった。
すると、今度は王宮の中から執事服を着た老人が出てくる。老人といっても年老いた雰囲気はあまりせず、背筋もまっすぐ伸びている。
「ようこそいらっしゃいました。お久しぶりです、アイシャお嬢様、ユーナ様」
「久しぶりね、ヨハン」
「お久しぶりです!」
ヨハンと呼ばれた老人は丁寧にお辞儀をしてアイシャ達に挨拶をしてくる。彼は昔に今から会う人物の世話係をしていた執事だ。なのでアイシャ達とも顔なじみなのだ。
「本日のお二方も大変お美しゅうございます」
「ありがとう。ヨハンも元気そうでなによりよ」
「ハッハッハ、この爺まだまだ若いもんには負けるわけにいきませぬ。それではお部屋へご案内させていただきます」
ヨハンはどうぞ、といってアイシャ達を王宮の中へ案内した。
巨大な王宮の中だがヨハンは迷うことなく進んでいく。この国の王に何十年も仕えているので登園のことだろう。
「こちらの部屋で少々お待ちください」
案内されたのは大きな客間だった。ここに来た時にはいつもここに通される。もうしばらくすれば手紙の差出人が現れると思うのでそのまま待つことにした。
ほどなくしてその人物が現れた。
「お姉様!!」
扉が開かれると第一声が聞こえてきた。そして、その人物はアイシャに駆け寄って、彼女に抱き着いた。背丈はアイシャの方が高いので難なく抱き留める。
腰まで伸びた鮮やかなストロベリーブロンドの髪に、大きな宝石のような赤い瞳。白を基調として赤系統の色で彩られたドレスを着た美少女。
彼女の名前は、フレイリア・ラス・ハーミット・エルトリィ。このエールトリス王国の第一王女だ。
「お久しぶりです。姫様」
「そんな他人行儀な言い方はやめてよ、お姉様」
「私にも立場がありますので、そういうわけには・・・・」
フレイリアは満面の笑みから一変して怒っているのか不機嫌そうに頬を膨らませた。あまりやり過ぎると拗ねてしまうのでアイシャはからかうのをやめにした。
「分かったわ。久しぶりね、フレイ」
アイシャがいつもの愛称で呼ぶとフレイリアは嬉しそうに笑う。
そして、一度アイシャから離れると今度はユーナに抱き着いた。
「ユーナも久しぶりね、元気にしてた?」
「あ、はい。お久しぶりです。フレイリア様」
「もう、フレイでいいって言ってるのに」
フレイリアが抱き着いてくるというのもお馴染みの行為だ。
フレイリアがアイシャのことをお姉様と呼んでいるのは子供の頃、彼女の兄と四人で遊んでいたときの名残だ。その頃はアイシャの方が年上で本当の姉妹のようにふれあっていたためそう呼ばれるようになったのだ。
「さ、こうしているのもなんだし、あの庭園に行きましょう」
「そんなに急がなくてもいいじゃない」
「ダメ。今日はお昼までしかお姉様たちと居られないんだから」
そういってフレイリアはアイシャ達を早く部屋から出るように急かしてくる。
それを見てアイシャは仕方ないといった様子で部屋を出た。
昼までしか一緒に居られないというのは王女の務めというものがあるからだ。
王族とはこの国の頂点に立つ一族だ。そして、王族には国民の手本となって彼らを導く義務がある。それは王女とて例外ではなく、その為の知識を日夜学んでいるのである。
その所為かフレイリアには自由な時間は少ない。今日はたまたま朝の時間が開いたので彼女ははアイシャ達をお茶に誘ったのだ。
部屋を出て庭園に向かうフレイリアを追いかけるアイシャ達。まだ朝の時間帯なので王宮の廊下を行きかう人はいない。王宮には多くの使用人や貴族がいるのにとても静かに感じられる。
しばらくして中庭が見える廊下まで来た。その中庭にも綺麗な庭園がある。
けれど、フレイリアはその中庭とは逆の方向へ歩いていく。彼女が目指しているのはこの庭園ではない。
そのまま王宮の壁を伝うように歩いていき、またしばらくすると、今度は木々が生い茂っている場所が見えた。
そこに道のようなものはなかったがフレイリアは構わずその木々の中に入っていく。木が光を遮って少し暗くなる。
木々を通り抜けると開けた場所に出る。そして、ようやく目的の庭園が見えた。
そこにあったのは先ほどのものよりも少し小さいが同じくらい綺麗な庭園があった。先ほどの庭園は様々な花で彩られていたが、目の前の庭園は白い花で統一された純白の庭園だった。
王宮の中にいる人間でもこの庭園を知っているものは多くないらしい。周りから隠すように作られたためだろう。
フレイリアがこの場所を知っているのは子供のころに遊んでいたら見つけたそうだ。なのでお茶をするときはいつもここに案内される。
庭園の中心にあるテーブルにはすでにヨハンが紅茶とお菓子を用意していた。
「さぁ、お茶にしましょう」
そう言ってアイシャ達は椅子に座った。
「それにしてもこの庭園はいつみても綺麗ね」
アイシャは庭園を見まわして呟いた。それは来るたびに思うことだ。どんな時に来てもいつも白い花だけが咲いていて、枯れているものなど一つもありはしない。周りが木々に覆われているのに落ち葉もたまったこともなかったのだ。
そして、アイシャには昔から気になっていたことがった。どうしてこんなところに庭園を造ったのかということだ。
普通ならもっと人が見る場所に造るだろう。それにこんな手入れの大変そうな場所に造る必要もないと思う。それは古くから執事をしているヨハンに聞いても分からなった。
「そういえば、この庭園のことお父様が知っていたみたいなの」
「国王様が?」
それを聞いてアイシャは意外に思った。この国の国王、ガイゼル・ハド・エルトリィはあまりこういったことに興味がないと思っていた。
実際にガイゼルは仕事を重視する人間で日々身を粉にして働いている。その所為か、家族との関係が疎遠になっている部分もあるが。
「意外でしょう?」
「・・・そうね」
「それでは、この庭園は国王様がお造りになられたのですか?」
「それが、何だかよく分からないのよねぇ」
ユーナの質問にフレイリアは曖昧な返事を返す。
「何が分からないのかしら?」
「私もお父様がこの庭園を知っているって聞いたときお父様が造ったと考えたわ。お父様は花を見て楽しむような人じゃないから、きっとお母様のために造ったと思ったの。でも、何年か前にお母様をこの庭園に案内した時、お母様はこの庭園のことを初めて知ったみたいだったの」
この場所は子供のころのアイシャ達が見つけるよりもずっと前にあった庭園だ。ガイゼルが王妃のために造ったのならば知らないのはおかしい。
「お父上にこの場所を造った理由とかは聞かなかったの?」
「聞いてわみたんだけど、何だかはぐらかされてしまって・・・・」
「・・・・そう」
アイシャはガイゼルがフレイリアに示した態度に違和感を覚えた。
この庭園を造ったことなら肯定か否定をすればいいだけのはずなのに、わざわざはぐらす必要はないはずだ。
はぐらかすといことは何か隠したいことがあるという意思表示だ。アイシャはこの庭園にどんな意味があるか考える。
「お嬢様方、紅茶のお代わりはいかがですか?」
だが、考えようとしたときにヨハンがそう言ってきた。カップを見てみると紅茶はもうすでに冷めて半分以下となっていた。
「いただくわ」
「かしこまりました」
ヨハンはカップを持っていき紅茶を入れ直してくる。
「分からないことを悩むのはここまでにしましょう。それより、お姉様達の話が聞きたいわ」
せっかくの時間がもったいない、といったようにフレイリアは話題を変えてきた。アイシャ達もせっかく誘われたお茶会なのだから素直に楽しむことにした。
「何が聞きたいの?」
「お姉様が出会った素敵な殿方について」
「またそれなの」
アイシャはフレイリアの提案を聞いて少し呆れてしまいそうになった。フレイリアはこういったお茶会のたびに聞いてくるのだ。
フレイリアは恋愛小説を読むのが趣味だ。だから、他人の恋愛事情が気になってしまうのは分かる。女の子がお茶会で話す話題として相応しいことも分かる。
けれど、実際の学院生活に小説に出てくるような素敵な出会いはないのだ。そもそも他人よりそういったことに疎いアイシャにとっては話しにくい話題だった。
「もう、またそんな顔して。お姉様はせっかく出会いの多い場所にいるんだからもっと青春を謳歌するべきよ!」
「前にも言ったみたいに現実に小説みたいなことは起こらないのよ」
「それは分かってるわ。でも、お姉様は恋とかお付き合いとか全然興味なさそうなんだもの。年頃の女の子として恋愛に全く興味ないのはおかしいわ」
「おかしいって、そんな人を老成してるみたいに言わないで」
アイシャとしてもそういったことに全く興味がないわけではないが、家の問題などもあってそういったことに縁がないというのが本音だ。決して老成などはしていない。
「そうですよ、フレイ様。アイシャ様だって親しくしている殿方はいますよ」
「え!それ本当!?」
「ちょ、ユーナ」
ユーナはアイシャをフォローしたつもりだろうが、アイシャにとっては思わぬ伏兵だった。当然のごとくフレイリアは食いついた。
「それって、どんな人なの?」
「ユーナ言わなくていいわ」
ユーナが誰のことを言っているのかはっきりとは分からないが、フレイリアが明らかに勘違いしているので面倒なことにならないようにユーナの言葉を遮る。
「教えてくれたっていいじゃない」
「ユーナが言ってるのはフレイが思っているような関係の人じゃないから」
「じゃあ、そういうことにしてあげるから教えて」
「私の言ったこと理解してないでしょ」
フレイリアは完全に勘違いをしている。こうなってしまえば考えを改めさせるにはかなり時間がかかる。
「こんなところにいたのか」
すると、庭園の入り口の方から誰かの声が聞こえた。
「あ、お兄様!」
それを聞いたアイシャは少しだけ体が緊張した。
庭園の入り口からは赤い髪の男性と金髪の女性が歩いてきていた。
女性の方はシャルロットだった。彼女も王宮に呼ばれていたらしい。
フレイリアに兄と呼ばれた男性はアイシャを見るとそっと微笑みかけてきた。
髪はフレイリアとは違い燃えるように赤かった。背は高く、顔だちは整っていてどんな女性でも魅了できそうだ。瞳の色は髪と一緒で赤い。フレイリアと同様に幼馴染でこの国の第一王位継承者、シリウス・フォン・レイナード・エルトリィがそこにいた。
「二人とも久しぶりだね」
「久しぶり、シリウス」
「お久しぶりです」
フレイリアと再会したときと同じように挨拶を交わす。
「お兄様、今日はシャルロットさんを連れてるけど、どうしたの?」
フレイリアが不思議そうにシリウスに問いかけた。
シリウスは王位継承者なのですでに父であるガイゼルの補佐として王になるための勉強をしている。そのためフレイリアのように自由な時間があるのは珍しい。
フレイリアの投げかけた質問に答えたのはシャルロットだった。
「今日は珍しくシリウスに剣の稽古を頼まれたんだ」
「剣の稽古、ですか・・・」
それを聞いてフレイリアは心配そうな目でシリウスを見た。知ってのとうり、ウィクトアリア家は英雄の一族と称されるほど武に優れた家だ。教えを乞えば実力がつくことは間違いないが、その過程はただの苦行でしかない。
子供の頃、シリウスとシャルロットの稽古を見ていた側としては心配するのも無理はないだろう。
「最近、あまり体を動かしてなかったからね。体が鈍るのもいけないからちょっと手伝ってもらおうと思ったんだ」
「そうやって頼んできたくせに、いきなり訓練しないで女の子のお茶会に向かうってどうかと思うけど」
シャルロットは責めるようにシリウスの方を見る。
「愛しい人が来ているんだ。会いたいと思うのは当然さ」
シリウスが何食わぬ顔でそんなことを言ってきてアイシャは少し反応に困ってしまった。
愛しい人というのはアイシャのことで、これはふざけているのではなく本当にそう思っているのである。
シリウスがアイシャのことを好きなのは本人が言っているのでこの場にいる全員が知っている。子供の頃にだがアイシャはシリウスに告白されている。けれど、その時は恋愛感情は抱いていなかったのであっさりと断った。
それ以来、シリウスはアイシャを一途に思い、努力を重ねて、人としても、男としても、王になるものとしても、申し分ない人間になった。
最近では家の方でもシリウスとの婚姻の話が持ち上がっているほどになっている。
これがアイシャの頭を悩ませている問題だ。
自分に好意を向けてくれているシリウスに対してちゃんと答えを出さなければと考えているが、アイシャは中々その決断が下せなかった。
「ところで何の話をしていたんだい?」
アイシャが困っているのが伝わったのかシリウスは話を逸らすためにフレイリアに質問した。
「お姉様の親しくしている殿方について聞いてたの」
「へぇ、それは気になるね」
安心したのは束の間でシリウスも話に食いついてきた。
「あ、それってもしかして彼のことかな?」
シャルロットも話に便乗してきた。
「シャルは誰だが知っているのかい?」
「そりゃ、彼とアイシャの噂はすごいからね」
シャルロットはなぜか含みのある言い方をする。多分、分かってて言っているのだろう。
「シリウスも知っていると思うよ。この前の魔導大会見に来てたんでしょ?」
「学院に来られていたんですか?」
「ああ、あの時はちょっと用があってね。ついでにシャルの試合もみていこうと思って観戦もしたよ。アイシャ達は見つけられなかったけど」
「ええ~!!お兄様、学院に言ったんですか!?私も行きたかったのに・・・・」
「いや、一応仕事みたいなものだから、妹を同伴させるわけにはいかなかったんだよ」
シリウスは不満を漏らすフレイリアを宥める。アイシャはあの時、闘技場の中にシリウスがいたことに驚いた。よくバレなかったものだ。
「それより、僕が知っているってことはもしかしてシャルと対戦していた彼がそうなのかな?」
「そう、レアル君がアイシャと仲がいい男の子だよ。ね」
「・・・ええ、まぁ」
別にレアルとの関係は悪いわけではないので一応肯定しておく。
「ふむ、なるほど、彼か・・・」
シリウスは何か考えるように顎に手を当てた。アイシャはまたも勘違いされていることを悟った。
すると、そこでシャルロットが思い出したように呟く。
「っと、忘れるところだった。シリウス、もう、そろそろいいよね」
「いや、あと少し・・・」
「ダメだよ。今日は君に稽古つけるために来てるんだから。恋愛談義に花を咲かせている場合じゃないよ」
そういってシャルロットはシリウスの腕を掴んで引っ張る。すると、シリウスの体はいとも簡単に引っ張られた。
「さぁ、行こう」
「ちょっと、シャル。この引っ張り方は関節が痛いんだけど・・・」
「そういうようにしてるからね」
「分かった、歩くから手を・・・・」
二人の姿はすぐに木々に隠れてしまい見えなくなった。
そして、シリウスがいなくなったことによりアイシャは疲れを吐き出すようにため息を漏らした。




