第4.9話 ポンヌ視点 「あなたの隣にいたいと思った、雨の夜」
雨の音が、好きになったのはいつからだったろう。
たぶん――この世界で、彼と旅をするようになってからだ。
ユズレ村を出て、甘酢の都フルーナへ向かう途中。
私たちは雨宿りに、アメル村という小さな村に立ち寄った。
林檎ベリーの甘い香りが漂う家で、囲炉裏の前。
彼――だし男は、赤い果実のスープを啜りながら、ミーナという少女の話を静かに聞いていた。
「……旅立ったあの人のこと、ずっと好きなんだね」
「……止められなかった。夢を応援したくて。……でも、本当は、ずっとそばにいてほしかった」
胸の奥に、かすかな痛み。
その言葉、まるで自分に向けられたようで。
だし男が、ゆっくりとミーナを見て言った。
「……想いって、言葉よりも、ずっと重いな」
私の心の声:
(……やめて、そんな優しい声。そんなふうに人を救わないで)
(あなたが誰かを救うたび、私は不安になる)
(……私が“ただの女神”じゃなかったら、もっと近くにいけた?)
(それとも……今の私でも、隣にいていい?)
でも私は、言えなかった。
想いを煮詰めれば煮詰めるほど、言葉にはならなくなる。
夜が明けて、雨が上がった朝。
ミーナが差し出した瓶――“伝えるための甘酢”。
だし男がそれを受け取って、言った。
「……伝えるよ。ちゃんと、いつか」
私(心の声):
(……その“いつか”が、私だったら、どれほど幸せだろう)
(だけど私は、あなたが元の世界に帰るのを、止めちゃいけない)
(だって、女神だから――)
旅の再開。
並んで歩く彼の隣は、あたたかくて、少し怖かった。
「ねぇ、だし男。想いって、どんな味がすると思う?」
「ん? ポン酢味、かな?」
「ばか。……比喩よ」
「ははっ、ごめんごめん」
あなたが笑うたび、私は少しだけ勇気を失う。
こんなにもこの人を想うようになってしまった自分が、すこし怖くなるから。
――雨上がりの空は、やけに眩しかった。
でも、それでも私は、あなたと歩きたいと思った。
たとえ、この旅が終わって、名前すら忘れられても。
その笑顔を、ひとしずくだけ、胸に残せるなら―
☆次回予告: 想像以上にツッコミどころ満載だった甘酢の都フルーナでポンヌの冷静なツッコミが響き渡る!お楽しみに!




