再会⑤
「と、いう訳であたしのルームメイトになったハリエットよ」
「ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いします」
(何で剣を持ってるんだ……?)
(何で剣を持ってんだ…………)
(何で剣を持ってるんだろう)
翌日の昼休み、いつものカフェテラスに集まった男四人──マクシミリアン、王子ベリアス、三編みのアール、鷲鼻のヴァストのところに、美しきタリカがハリエットを連れてやってきた。「あたしの新しい友達を紹介しにきたの」と言ってはいるが、どうやら、ヴァストとタリカが事前に示し合わせていたらしい。
ハリエットは今日も背中に剣を背負っており、カレッジの制服とのアンバランスさがとても目立つ。
「ハ、ハリエット……」
おずおずと話しかけたマクシミリアン。しかし、ハリエットと目が合うと、一瞬喉を詰まらせて躊躇い、言葉を飲み込みかけてしまう。即座にベリアスが素知らぬ顔で足を踏み付ける。
「昨日は……ごめん…………」
絞り出した台詞は至ってシンプル。言ってから、何について謝ったのか言えば良かった、また訳の分からないことを言ったと思われる、なんて思考がぐずぐず煮詰まっていくのはいつもの通り。
「あ、謝るのは私のほうです」
視線が右へ左へと逃げていくマクシミリアンをしっかりと見据えて、ハリエットは前のめりになってテーブルへ手をつく。
「昨日は、久しぶりにお会いした喜びのあまり、論理的思考が間に合わず! ……しかし私は! 依然変わりなく! 坊ちゃんの!! 『お友達』でございます!!! ええ、そうです、友達ですので、毎日でもお会いしましょう!!!! 友達ですので!」
横目でそっとマクシミリアンの反応を伺う他四人。特に、ヴァストから昨日の夜の話をこっそり聞いているベリアスとアールは(いや、好きな相手に友達扱いされるって結構キツくね?)と、全く心中穏やかでない。
だが、当の本人は。
「よ、良かった〜〜〜〜!!!」
(それで良いのか……)
(それで良いんだ……)
(それで良いんだろうなとは思ってたけども)
またもやまるで見たことがない、屈託なんて微塵もない満面の笑みである。昼前までの、生ける屍どころかモロに屍みたいな鬱々としたマクシミリアンは消し飛んだ。
「何か元気出たからサボってた課題出してくる!」
そう言って晴れやかな顔と足取りで走り去っていったマクシミリアンを、呆気にとられて見送っていた四人だったが、ハリエットだけは様子が違った。
「毎日……坊ちゃんの顔を……見れる……?」
彼女が、少し俯いて何かゴニョゴニョ呟いていることに気がついたタリカ。その金髪から覗く耳が、先の方まで真っ赤になっているのを見て、あらあらまあまあまあと言わんばかりに微笑んだ。
何せ、騎士の国の乙女というのは、恋の話が大好きなのである。
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「私、ライン家に仕える騎士の娘でありまして、そのご縁で坊ちゃんのお世話係を務めさせていただいていたのです」
「ああ、だから剣を背負って……いや納得出来ないな?」
カフェテラスのテーブルを二つも占拠して、ベリアスたちは興味津々にハリエットの話を聞いている。
今年で十六になるマクシミリアンより二つ年上のハリエットは、幼少期の彼の遊び相手兼お世話係として数年関わっていたらしい。ウェールツディットでは貴族の子弟にそういった相手をつけることは珍しくないが、異性の遊び相手というのは聞き馴染みがない。それを問うと、
「昔の坊ちゃんと言えばとてもとても病弱で、部屋から出るのもままならず、遊び盛りの男子よりは大人しい遊びを好む者を、と旦那様がご要望なさったので」
「あいつが病弱〜?! 全然想像つかねーけどな」
マクシミリアンの好奇心に巻き込まれることの多いアールは、まるで信じられないと三編みを揺らして肩を竦めた。ヴァストは苦笑いする。
「雑草の食べ比べが出来るくらい頑丈に育って良かったね…………」
「!? すみません、その話ちょっと詳しく」
そこへようやく戻ってきたマクシミリアンが、気恥ずかしそうに小さく咳払いをした。
「おかえりなさい、坊ちゃん」
「あの、ハリエット、その坊ちゃん……っていうの皆の前だと流石に恥ずかしいし……名前で呼んでよ」
「マクシミリアン様」
「呼び捨てでいいから…………」
呼び捨て、という単語にハリエットの動きがぴたりと止まる。高鳴る胸を押さえつけ、黄金の瞳が輝いて、愛らしい唇から音がこぼれた。
「マクシミリアン」
その途端、マクシミリアンは、まるで言い表し様のない、こそばゆい感覚に襲われた。鳩尾を何かに食い荒らされているような、それでいて不快ではない、奇妙な高揚感。
静かになってしまった彼をハリエットが不安げに見ている。
「あの、どうかなさいましたか?」
「心臓が痒い」
「心臓が痒い!?」
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内気な変わり者と、元気な変わり者、二人の恋路は再会から始まった。
これも一つのおとぎ話。
鷲と騎士の恋の伝承。
多くの恋を積み重ね、騎士なる者の国は栄えるのである。
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