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初恋のフォークロア  作者: 遠梶満雪
初夏の段
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再会④

「わわわわたわた私は何という不始末を」

「落ち着いてハリエット、本当に……あの、落ち着いて?」

「離してくださいタリカ!! この恥、濯がずにはいられません!!!!」


 窓から身を乗り出すハリエットを、全身で引き止める様ですら絵になる美しさのタリカ。

 マクシミリアンとの再会を気まずいまま終えたハリエットは、寮の部屋に戻ってきてから自分の失言を思い出して我を失ってしまい、身悶えるだけに収まらず、今にも飛び降りんとしていたのだった。


 ここは三階、もし落ちてしまえば、当然ただでは済まない。


「恥だなんて、そんなことないわ」

「違うんです、あってはならないことなんです、私、私が、坊ちゃんにあのような顔(・)をさせるなんて……」


 あの強張ったような不自然な笑顔。小さい頃から変わらない、『困っているのを隠そうとしている』時の顔。

 言葉を続けるうちに力が抜けていき、ずるずると座り込んだハリエットは、鼻声になって小さく呟いた。


「私は、『お姉ちゃん』で『お友達』なんです、坊ちゃんは、きっと、昔みたいに毎日会えると思ってくださってたのに、私があんなこと言ったから……!」

「大丈夫、大丈夫よ! マクシミリアンはそんなことで腹を立てるような殿方ではないし、どうしても気にしてしまうなら、明日会って謝ったらいいのだもの」

「ど、どうやって会えばぁ……」


 へたり込んで、ピスピス鼻を鳴らして嗚咽するハリエット。タリカはしゃがむと、彼女の手をそっと取った。


「あたしはルールドルキルフの娘だもの、ツテなんていくらでもあるわ!」


──────────────────────


「ごめん、窓に鍵かけてつっかえ棒してくれる?」


 失意のまま、寮の部屋に戻ってきたマクシミリアンは、ルームメイトであるヴァストにそう頼んだ。いつもの奇行が出たのかと思い、ヴァストは鷲鼻をかいて尋ねる。


「良いけど何でさ」

「今日のこと、夜中に急に思い出したら飛び降りたくなっちゃうだろ」

「末恐ろしいことを言うな君は!!」


 一瞬で窓に駆け寄ると、鍵をかけた上でつっかえ棒の上からカーテンを締め、四隅に釘を打ち付け留める。こんなことで『旧冠』の令息を失っている場合ではない。


「…………僕が勘違いしてただけだったのかなあ」

「何をだい」

「何があってもずっと友達だってこと」


 ヴァストが振り返ると、マクシミリアンはとろけたように床に転がっていた。悲しげにするでもなく、怒っている訳でもなく、ただ、遠い場所を見るような、濃紫の瞳。


「マクシミリアン─────」

「いや、まああれだよね、数年ぶりに顔突き合わす相手だっていうのにこれからはこまめに会えて当然だよねみたいな態度の男ってキショいって言えばキショいしハリエットだってもう気軽に異性とつるんでくれる年でもないんだし僕が子供気分のままで全く成長出来てなかったカスっていうか哀れな勘違い野郎ってだけで…………」

「マクシミリアン」


 ヴァストは思わず遮った。それから、口から勝手に言葉が飛び出る。




「彼女のこと、好きなのか?」




 口に出してすぐ、しまった、とヴァストは思った。彼の変わり者の友人が、今までに見たことがない、辛そうな、泣き出してしまいそうな笑顔(・・)を見せたからだった。


「そんな訳ないだろ」


 昼間と同じ言葉を、苦しそうに繰り返したマクシミリアンは、寝返りを打って背を向ける。


「僕は彼女を好きにはなれない(・・・・)よ」


 ヴァストは一瞬、酷く居た堪れない、という表情をしたあと、それっきり話しかけることもなく静かに本を読み始め、マクシミリアンをそっとしておくことにした。

 ヴァスト・シュリーマンフェンスは一等爵の一人息子。れっきとした高位貴族の一員であり、それ相応の教育を受けてきた。マクシミリアンの『彼女を好きになれない』理由など、手に取るように分かるのだ。

 そして、それが自分たちにはどうしようもないことも、よく知っている。


 消灯の時間になっても、マクシミリアンはずっと床に転がったままだった。

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