ロベルトとマクシミリアン②
大人というのはいつも、本当に知りたいことだけは教えてくれない。
聞いてもいないことを詰め込んでくる癖に、こちらから尋ねるとちぐはぐな答えが返ってくる。
人に避けられないで済む方法は?
信頼してもいい人を見分けるにはどうするの?
家族を、弟たちを守るには何をしたらいい?
教えてよ。分からないんだ。
知らないのなら関わらないで。
使えない人間はぼくの人生に必要ない。
でも、いつからだろうね。
自分自身が、そういう大人になっていたのさ。
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「前にも話したと思うけれど、最近、どうにもきな臭くってねえ」
「僕には分かりかねますが……兄上がそう言うならそうなんでしょうね」
マクシミリアンが連れてこられたのはロベルトの自室だった。彼の華やかさな外見とは打って変わって、地味な印象を持たせる内装。
身分に相応しい価値があり、清潔に整えられていても、趣味嗜好というものがまるで感じられないこの部屋が、部屋の主と本当にそっくりで、マクシミリアンはどうにも苦手だった。
「何を他人事のように言ってるんだい、一番危険なのはお前だよ」
「ええ……?」
「ひとつ予言をしてみせようか。仮面舞踏会でお前は──────殺されかけるよ」
予言。
昔からロベルトはよくこういう言い回しをした。
それも決まって嫌なことばかり。
事実、彼がそう言い切ったときは必ずその通りになった。マクシミリアンがどんなに抗ってみても、まるで運命かのように未来は確定していた。
そうしてマクシミリアンが膝をつくと、「ほら、言っただろ」「全部無駄なんだよ」と言わんばかりの笑顔で迎えに来るのだ。
「殺されかけるって……」
「大丈夫、痛いだけさ。死ぬまではいかないよ」
その時に私が動けるかはまだ分からないが、そうなる前に彼女が助けてくれる筈さ、とロベルトが言うと、マクシミリアンの顔色は一層悪くなった。
「ハリエットを巻き込む気ですか」
「適任じゃないか。駄目なのかい?」
駄目も何も、と頭に血が上るのを感じる。
それでも言葉は出てこない。言いたいことが思い出せない。息苦しい。恐ろしい。
────この人に逆らうのが怖い。
「全て私に任せなさい。最後にはちゃんと良くなって終わるから」
きっとその通りにすれば本当にそうなるのだろう。悪魔よりも甘い囁き。しかしながらその重みは、神の恩寵にも等しいのだから。
でも、駄目だ。
駄目だと思ってしまったのだ。
彼の支配に安寧を求めてしまったら。折角自分に叶えられる彼女の願いを見捨ててしまったら。
その瞬間、自分にはあの、地獄から伸びる手のような憂鬱しか残らない気がした。
「……ハリエットはあなたの切り札じゃない」
震えるような低い声。
怯えたような紫の瞳。
「あなたの予言は、初めて外れる」
ロベルトは目を閉じてそれを聞いていた。
何を考えているかは分からない。怒っているのか、呆れているのか。それとも両方か。
もしかすれば、この反抗ですら彼の思考の内だったのかもしれない。結局自分は、何をしても兄の予想を上回ることなど出来やしないのではないか。
そんな考えに至りマクシミリアンが動悸を覚え始めた頃、彼は静かに言った。
「…………まあ、やってみたらいい。何にせよ──きっと無理だから」
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帰り道、ハリエットは不安げにマクシミリアンを見上げた。
「あれから、何かあったのですか?」
「いや……」
マクシミリアンは口籠って目を逸らす。それはいつもと同じだったが、そうではない小さな何かをハリエットは感じた。
それは子どもの決意か、騎士の覚悟のような。
「…………そうだ、帰りに新作のお菓子を買っていきましょう! 私達、頑張りましたからね。ご褒美です!」
「あはは、そうしようか。折角だし、みんなの分も一緒にね」
兄弟がどんな会話をしたのかなどハリエットには分からない。それでも、彼の横顔に僅かな予感を見たのである。




