少年よ大志を抱け③
「オレばっかじゃなくてさ、お前らの目標の話もしろよなー。不平等だぜ」
「ええ……? 聞いても面白くないと思うけど……」
アールは催促するようにマクシミリアンの背中をとんとん突く。それがこそばゆくて、降参、降参とマクシミリアンが両手を上げた。
「じゃあハリエットは?」
「マクシミリアンを守ります!」
「知ってた」
騎士になれれば一番良いんですけどねーと伸びをするハリエット。
「じゃあ、さっきは何もやりてえことねえっつったけどありゃ嘘だ、オレが議員になって女の子でも騎士になれるように決めてやんよ」
「ほんとですか!? やったー!!」
そんな風にわいわいと話していると、巻き髪の少年がひょっこりやってきた。
「お、サージェス」
「やっほー、今どんな感じ?」
彼の名はサージェス・カリオ。
アールに小遣い稼ぎと称して、ポケットラクーンの袋掃除を持ちかけた人物である。
彼は王都でも一二を争う大商家の次男で、なんと実家に借金をして自分の意思でカレッジに通っているという驚きの背景の持ち主だ。
将来は古物商になって、自分の店を持つのだと年がら年中語っているが、実際に達成しそうな行動力と実績がある辺り、彼の才能は確かなのだろう。
「結構集まったぜ。これくらいでいいだろ」
「わー、助かるー! あ、そうだ、ハリエットだっけ? タリカとフェリシアが君を探してたよ。今なら図書館の辺りにいると思う」
「そうなんですか? 教えてくれてありがとうございます!」
すみませんが行ってきます、とハリエットは名残惜しげに走り去っていった。カレッジに来て、友人も出来て楽しそうで良かった、とマクシミリアンは少し安堵する。
サージェスも重たい袋を渡されて早く目利きしたいらしくさっさと帰り、マクシミリアンとアールだけが空き地に残された。
何となく座り込んだまま、アールが尋ねてくる。
「もしハリエットが騎士になったら、マクシミリアンに仕えるのか?」
「そうしたらライン家に所属することになるんじゃないかな。僕は貴族のままでいられるか分からないし」
マクシミリアンが何の気無しにそう言うと、アールは不思議そうに彼を見た。
「勘当される予定でもあんの?」
「流石にないよ……。ただ、これから父さんや兄さんが何て言うかによって変わるから、騎士にならなきゃ貴族じゃなくなるってだけ」
ウェールツディットでは、貴族の相続には基本、騎士の身分が必要になる。また、相続しない子弟でも、貴族に籍を残すには騎士である必要がある。騎士にならなければ、成人時点で法的には平民となるのだ。
マクシミリアンの上にはロベルトとオースティンという歳の離れた二人の兄がいる。
長兄ロベルトは既にカレッジを卒業し、騎士の資格を以てライン家次期当主候補となり、今は王城で外務大臣補佐の仕事をしている。
薬草や魔獣に造詣が深く、カレッジ在籍中も研究に没頭していた次兄オースティンは騎士にはならず、それによって相続を放棄したと見做された。
現時点ではライン家の次期当主は確定しており、ウェールツディットは長子相続が一般的なため、マクシミリアンがどういう選択をしようとライン家の相続に問題は発生しない。
だが、ここに王位継承権の問題が絡まると事態はややこしくなる。
もしマクシミリアンが騎士になり、ライン家次期当主候補となると、ロベルトの代わりに当主に出来る。となると、ロベルトを円卓の騎士から降ろし、ベリアスの対抗馬として次期国王に推す、ということが出来るようになってしまう。となると、臣下の間でも意見が分かれて火種になりかねない。
しかし、マクシミリアンが騎士にならなければ、ロベルトが若くして不慮の死を遂げた場合、ライン家そのものが無くなる可能性もある。ロベルトの性格上、敵が多いのがまた難点だ。
それ以外にも色々あるから本当に難しいんだけど……、とマクシミリアンは背を丸めた。
「てことは、どっちにしろ自分で決めらんねぇってことか?」
「そう……なるかな」
アールが怪訝そうな顔をする。
「何かさあ、それって変じゃね?」
「でも、貴族にはよくあることだよ。普通だよ」
「お前は昔の王様の孫で、今はまだド偉い貴族なんだろ? オレやサージェスみたいに、平民は自分で自分のこと選べるのに、なんで偉いはずの奴が自由じゃないんだよ」
「それは……」
偉いからじゃないかな、と言いかけて、マクシミリアンは言葉を飲み込んだ。
頭の中では理屈が分かっているのに、いざ説明しようとすると、どこかにしこりが残っている。
きっと、心に押し込めていただけで、自分でも納得できていない欠片があるのだろう。アールの問いかけで、泣き疲れて眠っていた駄々っ子が目覚めたようだった。
「分かんないや」
「そんなもんか」
答えになってない答えに、アールは困ったように笑った。
それから、日の傾きかけた空き地に寝転がって、マクシミリアンは少しだけ鼻をすすった。




