休日の二人①
静まり返ったカレッジの図書館で二人きり、ただ隣に座って本を読むだけの時間が王子ベリアスとその恋人フェリシアにとっては、かけがえのない時間だった。
思い思いに本を読んでいた最中、フェリシアが何気なく話し出す。
「ねーベリアス。今度の週末、屋敷に来てよ」
「構わないが……何かあるのか?」
ベリアスが理由を尋ねると、フェリシアは本から顔を上げ、丸っこい目をこちらに向けて、癖毛を指で弄った。
「あのね、舞踏会のコーディネートを一緒に決めてほしいの」
そろそろ衣装を一度着てみて仕立て直しをしなければいけないが、どうにもこれと決めることが出来ないのだという。
「一番似合ってるとベリアスに思ってもらえる服を着たボクが、この世で一番可愛いボクだからね!」
「なるほどな、それならば協力するしかあるまい」
にひひと笑うフェリシアに、ベリアスはしっかりと頷く。
拳をコツンと合わせる二人。彼らにとっては、そんな悪友みたいな関係性が実に心地良かったのだ。
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王都城下に構えられた内務大臣ボルドヴァル二等爵の邸宅は、一族で居住していることもあって非常に大きなものである。
三人の息子の為に剣の稽古場を造り、待望の末娘の為に東西の物語を集めた図書館を建て、折角だからとその両方を街の人々に開放している。なので、いつでも賑わっていた。
約束の時間にベリアスがやってきて、それをボルドヴァル家の使用人達が出迎えてくれる。そのまま応接室に通され、飾られている絵画について内務大臣と言葉を交わしていると、フェリシアが侍女を連れてやってきた。
「お待たせいたしました、殿下」
父や侍女の手前、よそ行き風に口調を改めながら、フェリシアはこっそり片目を瞑ってみせる。
彼女はいつもの溌剌とした振る舞いと、このような淑やかな令嬢としての振る舞いを、実に上手く使い分けることを得意にしていた。
「わざわざお呼び立てして申し訳ありませんわ。しかし初めての仮面舞踏会ですから、どうしたら殿下の御目を惹き続けられるかと不安で仕方ないのです」
「何を言う。今のままでも目移りなどしようもないのに、更に美しく着飾ったなら踊っている最中に見惚れて壁にぶつかってしまうな」
彼女に合わせて甘い台詞をつらつらと並べ立てると、後ろで侍女たちが小さな声で微笑ましがっているのが聞こえてきて、ベリアスはちょっと耳が赤くなる。
「別室に衣装の目録がありますの。まずはそれを見てくださいまし」
悪戯のように笑いかける彼女の後をついて、ベリアスは歩き出した。
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フェリシア付きの侍女たちだけを残し、他の使用人が立ち去れば、彼女はすっかり通常営業に戻る。
「こっちの緑のケープ付のほうが暖かいんだけどね、この赤いドレスならこの間に買った靴に丁度合うの」
「待て、赤い方は先の晩餐会に着ていたものではないのか」
ベリアスが図柄を指さす。
貴族の付き合いでは、持ち衣装をなるべく多く見せるというのが結構大事だったりする。同じ衣装を使い過ぎると、それだけで評判は下がるのだ。
「あ、やっぱり分かる? よく見てるね」
「当然だ。それに城の大広間はかなり冷える。頼むからきちんと着込め」
「そっか、じゃあ緑のにする」
それからフェリシアは細工の入った箱を持ってこさせると、ブローチやネックレスを広げ始めた。
「このドレスだと胸周りの飾りが少ないから、アクセサリーは結構派手なの選んでも良いよね! 色はどうしようかな、ベリアスは金と銀ならどっちが好き?」
「銀だな」
「じゃあこの氷黄石のブローチにしよう!」
波打つ深みのある暗黄色の宝石が嵌め込まれた銀細工を掲げると、身を乗り出してベリアスの顔の横に並べた。
「キミの目と同じ色だよ」
嬉しそうな目つきで見上げてくる彼女を、優しく見つめ返す。ベリアスだって、彼女の瞳を思い出すから銀の方が好きなのだ。それをわざわざ口に出すようなことはしないけれど。
「うむ、良い色だ。縁取りの銀とよく合っている」
そう言って彼女の頬に手の甲で触れると、フェリシアの顔はドレスよりも赤く染まったのである。




