騎士の約束②
「という訳でお届け物だよ、ハリエット」
事務局の応接室、ロベルトに向かい合うようにしてマクシミリアンとハリエットが座っている。
上等な覆いの掛けられたソファに腰掛け、ロベルトは大きな包みを取り出した。それを手渡されたハリエットが、恐る恐る紐を解く。すると木箱が姿を現し、その蓋を取ると、中には純白の布が収められていた。ロベルトは腕を組んで感嘆する。
「絹の繻子織だね。ツォ産かな? 凄いぞ、高級品だ」
布とは思えないほどの光沢と、柔らかく冷たい手触り。ずっしりと手にのし掛かる重みが、その価値を伝えてくる。
ツォ国の絹織物は古来より質が高く、ウェールツディットでも高値で取引されてきた。東方の玄関口であるライン領ならば入手は比較的しやすいが、それでも値が張るのは間違いないだろう。
「これは、一体どなたから……?」
「君のお父上からさ。手紙もあるよ、読むかい?」
油紙に包まれた手紙を受け取る。
相変わらずの毛虫が蠢いたような筆跡で、こういう時くらい昔のようにおねだりしてみろ、俺だってもしもの備えはしているんだ、と遠回しな言葉が綴られていた。
「なんで、舞踏会のことを知って……」
「マクシミリアンが手紙を出したのさ。元々はライン家経由で自分で生地を購入するつもりだったみたいだけどね、それを知ったウェルテ卿が送ってきたんだ」
思わず横を向くと、マクシミリアンは気恥ずかしげに説明した。
「ジルコンが教えてくれたんだよ、君が衣装の準備で気後れしてるって。だから、もし他の人と行くとしても、それくらいは僕がやるべきだと思ったんだ」
どうやら、ジルコンなりに、断られる前から最善の道を考えていてくれたらしい。それでもマクシミリアンに手間を掛けさせてしまった、と焦りが顔に出たのか、マクシミリアンは慌てて訂正してくる。
「あ、気にしないで! 楽しかったよ、予算集めのアルバイト」
「働いたんですか!?」
「流石にお小遣いは足りなかったし、うちのお金使ったら気にすると思って…………」
一週間も姿を見せなかったのはそれが理由だったらしい。一体何があったのかはまた後で説明してくれるらしいが、ハリエットとしては危険なことをしたのではないかと気が気でない。
「まあ結局こっちは使わなかったから、仕立ての料金にでも回してくれたら嬉しいな」
「は、はい、有り難く頂戴いたします!」
背筋を伸ばして返事をする。それを聞いて、マクシミリアンは少し黙り込んでから、言葉を選ぶように途切れ途切れに言葉を発した。
「それで、その……ジルコン、からのお誘いは……?」
「それは先程お断りしました」
「じゃ、じゃあ、他に誰か……」
「いえ、申し出はありません」
ぱちくりと瞬きをして彼の動きが止まった。段々と意味を理解したようで、徐々に顔が赤く染まっていく。
そんなマクシミリアンを見ながら、ハリエットは懐からそっと自分の招待状を取り出した。
「もしかして」
「ええ、マクシミリアン。私と一緒に、舞踏会へ行ってくださいますか?」
ぽす、と胸元に当てられた招待状を、自動人形のように受け取る。マクシミリアンは、恥ずかしいので隠したいがどうにも喜びが抑えきれない、という顔で頷いた。
「勿論。……連れて行くって、約束したからね」
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「ハリエットの機嫌もすっかり直ったみたいだね。良かった良かった」
「それはそれ、これはこれです。坊ちゃんが抵抗しないからと好き勝手なさるのはおやめください」
話に一区切りがつき、応接室を出た三人。からかうロベルトに、ハリエットはきつく釘を刺す。ロベルトは仕方ないなあと言いつつも、弟の肩を組んだ。
「それはそうとマクシミリアン、この後暇かな?」
「特に用はないですけど……」
「ならばどこかで話をしよう、家族水入らずだ」
「ええ…………?」
そのままグイグイと連れて行こうとするロベルトの肩を、ハリエットが一生懸命引き止める。
「言った側からお待ちください! せめて私も」
「それは駄目だなー。ライン家内密の話だからね」
パッと軽く振り払われてしまい、二人はあっという間にどこかへ行ってしまった。そうして一人残されたハリエットは、言い様のない不安感を覚え、腕の中の布地を抱き締めたのである。




