再会②
「今日からお世話になります、ハリエット・ウェルテです」
「ようこそカレッジへ、ハリエット。歓迎するわ」
カレッジの女子寮、とある部屋の前で、旅行鞄を抱えた金髪金眼の少女ハリエットがお辞儀をする。
それを出迎えた、とびきり美しく大人びた女子生徒はハリエットを中へ招き入れた。
「あたしはタリカ・ルールドルキルフ。この部屋はあたしとあなたの二人部屋になるわ、よろしくね」
「私のような一介の騎士の娘如きがルールドルキルフのご令嬢と同室なんて、身に余る光栄です。タリカ嬢」
「ふふ、あなた、騎士みたいなことを仰るのね。だけど、折角カレッジにいるのだもの。あたしたち同い年だし、タリカって呼んで!」
ウェールツディット王国の貴族は、大きく一等爵、二等爵、三等爵で分けられている。実際貴族として扱われるのは二等爵までで、三等爵は領地すら持たない。細かく言えば更に上位と下位で区分が違うが、通常呼び分ける分にはこの三つである。
大貴族であり両手で数えるほどしか存在しない一等爵と、正規貴族層の大半を担う二等爵、一般騎士として他の貴族に仕える三等爵の内、ルールドルキルフ家は北方に領地を持つ二等爵、ウェルテ家はライン家配下の三等爵である。
そういった、外ではひっくり返らない立場の差を“気にしない”のがカレッジの教育方針、タリカはそう教えてくれた。
分からないことがあれば、何でも気にせず訊いてね、と微笑む彼女は、まるで童話に出てくるお姫様のようだった。
何せ、ハリエットもそれほど背の低い方ではないが、タリカはもっとすらっと伸びていて、兎にも角にもスタイルが良い。緩く巻いた亜麻色の髪も、明るく澄んだ青い瞳によく調和している。
ハリエットの故郷、ラインにも、王国一の美女とまで謳われるタリカ・ルールドルキルフの名前は届いていたが、実際目にすると頬が熱くなるのを感じる。
ぽやーっと見上げていると、どうしたのかしらと心配されてしまい、あわてて目を逸らして誤魔化した。
「ところでずっと気になっていたのだけど」
タリカが優雅な所作で首を傾げた。
「どうして剣を持っているの……?」
ハリエットは、抱えている旅行鞄の他に、背中に小型の両手剣を背負っていた。よく手入れがされているが、鞘も柄も古びた様子である。
「ああ! 実は、これが無いと夜眠れなくて」
「い、一緒に寝るの……?」
「枕にしています」
「あら、まあ…………」
一応、カレッジの女子生徒は護身用に武器の持ち込みが認められている。事務員に困惑こそされたものの特に怒られなかったらしい。
(この子、ライン家のマクシミリアンと同じモノを感じるわね…………)
要するに変人の気配である。
早速鞄を開けて、小物や衣類を備え付けの家具に片付け始めたハリエットを、タリカはよくよく観察する。
芯のある金髪はシンプルに高い位置で纏められ、飾り気のない紐で括られている。背筋は伸びて、身のこなしや仕草は流れる水のよう。高貴な女性の体幹というよりは武人のそれである。
少年を思わせる顔立ちは、彼女を本当の年よりも少し幼く見せていた。
タリカのように『本物の騎士』を見慣れた貴族でなければ、むしろ地味で粗野な女と呆れてしまうような、静まり返った美しさだった。
「そうだ、質問なのですが。タリカ」
先程よりも少し和らいだ表情で、くるりと振り返ったハリエット。彼女はそっと引き出しを戻すと、嬉しげな声色で尋ねた。
「カレッジの生徒が待ち合わせに使うという“白鷲の噴水”とは、どこにあるものでしょうか」