星夏の円卓
白蝋の城。実に冷たく美しい、西の都のシンボルである。この地に生まれた騎士たちは、この城の如く汚れるところなき清純の徒であるようにとさえ教えられる。
そして、その城の最上階には、王と、王より剣を賜った十二人の英傑たちのみが着くことを許される白き円卓がある。
かつては資格のないものが座っただけで死罪とされるほどの椅子であったが、今は規則も緩み、代理人が剣を預けられて出席することも珍しくはなくなった。
複雑な星の暦から開催日と規則が決定される円卓会議。ウェールツディットの名士たちが、今日のために集まった。夏の終わりの円卓は、上位六人だけが呼び出される。しかしながら、席に着いているのは五人だけであった。
凛々しい男装の女性が初めに立ち上がり、声を上げる。
「白鷲の王の命により、ここに星夏の円卓を開催することを宣言いたします。列席者の皆様はお名前を」
すると彼女の右手に座っていた、波打った黒髪に紫の目の、これ以上なく顔立ちの整った男が剣を掲げる。
「第一の剣。上位一等爵嫡子、ロベルト・ライン」
しかし、その後は空席が二つ続き、若い女性の名乗りになる。薄水色のドレスは彼女の銀髪と華やかな顔立ちによく映えていた。
「第五の剣。上位二等爵、クラメディア・メリネー」
そして隣の厳格そうな老人、さらに隣の糸目の男性と移っていく。
「第六の剣。上位二等爵、ハロック・ベゼルボード」
「第七の剣。下位一等爵、ニノ・フェッツ」
それから最後に進行役の女性が名乗り、空席の説明をする。
「今回の議長は私、第四の剣。上位二等爵が嫡女、オクセンリーシュ・フベルクデッカーターが務めさせて頂きます。また、第二の剣のカレン・アーシュライエン様は代理人選定不能で欠席、第三の剣のスフェン・ヴァヴェルスモーク卿は厄災鴉討伐の遠征中につき欠席とのことです。二名欠席時の規約に従い、招集を一人繰り上げました」
すると、老騎士のハロックが溜息をつく。
「カレン様はもう駄目だろう。さっさと息子に跡を継がせるか、せめて規則を緩めて旦那が来れるようにしたほうが良いのではないかね」
「しかし、ご子息方もまだ十五歳くらいですよ。それに貴族出身以外も座れるとなれば、あのクアルロンも呼ばねばならなくなります」
糸目を更に細めながら、ニノはそう答えた。ハロックは、それはそれで忌々しい、と提案を取り下げる。
「カレン様は外に出られぬ身ですから、仕方ありますまい。ともかくふざけているのは鏖殺卿のほうではございませんか」
「一度も出席しない、代理人も寄越さない、何考えてるか分からない、ついでに報告書も人任せ。あいつは本当に戦い以外はトンチンカンだねえ」
クラメディアが文句をつけ、それにロベルトが茶化しながら付け足した。
胃痛がしてきたオクセンリーシュは、どうにか軌道修正を図る。円卓に選ばれた彼らは功績こそ確かであるが、それ以上に癖がある。気を抜けば話は脱線するし、普段の議会とは違って剣を持ち込む円卓会議は、紛糾し過ぎれば流血沙汰に発展しかねない。
「スフェン卿は魔獣討伐の功に限って言えば皆様の中にも比肩する者はいないでしょう。どうかお目溢しを」
「主の元に帰ってこない猟犬は駄犬でありましょう。円卓の招集は王命ですのに」
それでも尚きつく詰めるクラメディアに、ロベルトが更に返した。
「とは言え、だ。クラメディア嬢。騎士の本懐は土地の守護。あまりとやかく口を出すと、ならば自分でやってみろという話になってしまう」
「騎士になれない女には騎士へ口を出す資格はない、とでも? ロベルト卿」
「まさか! 何、厄災鴉の相手なんて騎士だから出来るというものでもない。ただ単に、アレはああいう兵器なのだと割り切ってしまえ、という話です」
ハロックが咳払いをする。それで流石に雑談が過ぎたと気づいたクラメディアは、小さく「異常者め」と呟いて、それきり黙った。
ロベルトはそれが聞こえていたのかいないのか、綺麗な顔に優しげな笑みを浮かべているばかりである。
「それでは、本題に移りましょう。本日の最初の議題は、『王位継承者の選定』です」
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「継承者? 誰も彼もベリアスを王にするつもりだと思っていたが」
「ええ。議会の主流派はそうですし、世論も同じでしょう。しかし、ハロック卿、何事にも少数派はおります」
オクセンリーシュがそう言うと、クラメディアがその意図を確かめる。
「三代続けてエルリンテン家から出すのは良くない……と考える層がいるということですね」
「はい」
「そもそも二代同じ家が続いたのが事故のようなものだったのだ。せめてアーシュライエンの内乱さえなければ……」
連合王国を名乗るウェールツディットは、五十年前の盟約で、三王国の旧王家から最も相応しい人物が連合王国の代表を務めるものと決めた。更に、王になる者は「旧冠の当主でない者」「円卓の騎士でない者」「議会によって継承候補と認められた者」という条件をつけた。
しかし二十年前、北方下級貴族の反乱に端を発した内乱で、アーシュライエン家は末娘のカレンと若い従騎士一人を遺して壊滅した。
それ以来、心に癒えぬ傷を負ったカレンは、爵位を継いだものの王都に構えた屋敷に引き籠もり、夫になった従騎士だけを頼りに生きているのである。
また、もう一方の旧冠であるライン家はすでに当主を一人息子へ交代しており、先代の王が亡くなった時には、玉座につける条件を満たす人物がいなかった。
「とは言ってもなあ、他に誰がいる? アーシュライエンの双子に、ロベルトの弟二人、ジルコン・フベルクデッカーターも無理ではないが、母親が王妹では意味がない」
ニノが腕組みをして唸る。
「年齢的に妥当なのはライン家のオースティンだが」
「弟は王には向いてないですよ、それに本人も研究に集中したいんじゃないかな」
「マクシミリアンの方はどうだい」
「あはは、あいつを王にしたら国が滅びます。やはり、ベリアス王子が良いでしょう」
そんな風にのらりくらりと答えるロベルトに、クラメディアが噛み付いた。
「実弟に随分な仰りようだこと。余程嵌められるのが怖いと見えますが、やはり噂を気にしておいでのようですね」
「噂? 何のことだか」
「ベリアス王子を立太子したくない派閥は、マクシミリアンを王に担ぎ出そうとしているらしいではありませんか。下手に動けばそれこそライン家ごと取り潰されますもの、ロベルト卿が火消しに走るのも当然でございますね」
ロベルトの微笑みが消え、議場の空気が一気に冷える。それまで控えていたオクセンリーシュは、声を張り上げて場を戻そうと努める。
「しかしながら! 現時点でベリアス様に瑕疵がない以上、次の王に最も相応しいのは彼です。皆様もご不満はないようですね。陽秋の円卓で残りの方々の意見を伺い、特に問題がなければ議会の方にも『意見なし』と申しましょう。それでは次の題に移りたいと思います」
彼女のよく通る声によって不穏な空気は収まったが、それでもロベルトの表情に柔らかさが戻ることはなかった。
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星は移ろい、鳥は渡る。
涼しかった夏が終わり、瞬きのような秋が来る。
もう一度、恋に落ちるときがやってきた。




