御伽話の子どもたち②
「待て、それは駄目だ、いや駄目っていうか嫌だ……嫌だと言い方が悪いな、とにかく駄目!!」
マクシミリアンは慌ててアールを制止し、身振り手振りを交えて否定の言葉をまくし立てる。
展開についていけていないジルコンは、とりあえず馬から降りるとハリエットを見た。カレッジに通うような貴族の令嬢には珍しいが、騎士の子女程度であれば護身用に武を修めたいと望む生徒もいなくはない。
彼女もそういった一人なのだろうとジルコンは判断したのだ。
「剣術に興味が? それなら確かに俺で良ければ……」
「絶対に駄目!!!!」
「君そんな大声出せたのか、マクシミリアン」
純粋に驚くジルコン。それからすぐに、腑に落ちたという顔をする。さらに、ああ合点がいったよと言わんばかりのウインク。
それで自分の言葉が「想いを寄せる相手に他の男が近寄ること」に対する拒絶反応から咄嗟に出たものである、と知られたことに気がついたマクシミリアンは、赤面してしまって動けなくなった。角度的にハリエットからはそれが見えていなかったので、どうしたものかと不安げな顔だ。
ジルコンはマクシミリアンの背中を叩いて、一歩ハリエットに近づける。
「…………そうだな! マクシミリアンに教えてもらったほうがいい。何せ一等爵の公子だ、誰も文句は言わないさ」
「文句?」
「可愛い女の子と知り合う機会なんて、みんな羨ましがるに決まってる」
「ジルコン!!」
そう軽口を叩くとマクシミリアンが真っ赤な顔で睨んでくるので、ジルコンは肩を竦め、両手を上げてみせた。それからふと片眉を上げて空を見る。日は大分傾きかけているようだ。
「おや、少し寄り道が過ぎたかな。では、また今度。…………騎士の道には愛を誓う乙女も必要さ。そうだろう、マクシミリアン」
そう言うと、颯爽と馬に跨がり直してそのままパカラパカラと去っていってしまった。
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朝の空き地に戻って、買ってきたクッキーの包みを広げる三人。済まなそうな表情を浮かべて、マクシミリアンがハリエットに言う。
「か、勝手に断っちゃってごめんなさい…………」
「いえ、構いません。主家の意向は大切ですので」
そういうことじゃないんだけどな〜、と内心思っているマクシミリアンだったが、まだ理屈をうまく説明できそうにないので諦めた。
「でも止めといて良かっただろ。アイツ、シラフで『淑女は皆美しい一輪の花』とか吐ける筋金入りの騎士野郎じゃん。もし一対一になったらそりゃもーカレッジの女子中から嫉妬の嵐だぜ」
「君がけしかけた癖に……」
「お前の目がトビウオみてーに泳ぎ回って、死にかけみたいな声しか出せてなかったから火を付けてやったんだ」
そう言われるともう、ぐうの音も出ない。アールは片手で自分の三編みを弄りながら、マクシミリアンを上目遣いに見た。
「お前、ジルコン苦手だろ。なんで?」
「うっ」
マクシミリアンがさらに目を逸らす。少しの沈黙の後、観念したように小さく答えた。
「き、気まずくて……」
「何がよ」
「ええと……彼の父君は魔猫退治の騎士だけど──実は僕の父さんも若い頃一緒にその冒険に参加していたんだ。でも、父さんはあんまりそのことを話してくれなかったから、僕はすっかり忘れていて…………」
カレッジへ入学した時、ジルコンはそれを縁に仲良くするつもりで話しかけてくれたが、気づかなかったマクシミリアンはぐいぐい来られるのが怖くて彼を避けてしまった。
「ほら、それってまるで僕が酷く家柄を気にしてるように見えるだろ」
「ジルコンの父親が三等爵だから話したくないみたいってか? アホくせえ」
「実際はどうであれ、僕は周りからそう見られても仕方ない行動をしてしまったんだ」
最終的にお互いの誤解は解けたが、その後も何かにつけ話しかけてくれるジルコンに、気後れしてしまうようになった。
善き騎士たらんとする彼が、その信念のために誰にでも優しくしようと努めているだけなのではないか、と、どうしても感じてしまうのだ。
しかしハリエットは、そんなことはない、と言う。
「先程の彼は、あなたに向けて話すことが多かった。きっと、仲良くなりたいのは変わっていないのでしょう」
「そうかな……」
「そうですとも。あなたはそれだけの魅力をお持ちなんですよ、マクシミリアン」
「そ、そうかな……」
「ええ、そうですとも」
その魅力は君に届いているのかな、そんな言葉は音にならない。
「……だとしたら、仲良くなれるといいな」
マクシミリアンは目を細めて、そう呟いた。




