大好きなキミと一緒がいい!
昼下がり、人気のない空き地でハリエットは剣の手入れをしていた。
カレッジの中で剣を持ち歩くのはやめるようにとミセス・テイワーズに注意されてから、寮室に置きっぱなしにしてしまっていたため、じっくり検める機会を逃し続けていたのだ。
昔、森で拾った古い剣。
誰も来ない森の奥の、大樹に刺さっていた不思議な剣。
持つだけでとても強くなるなんてことはないけれど、何故かすっと手に馴染むこの武器を、ハリエットは大切に大切に扱っていた。
一段落ついたところで、休憩に、清々しい夏の空を見上げていると、フェリシアが駆け寄ってくることに気がついた。
「ハリエット! 探したよ〜!!」
「どうしましたか、フェリシア」
癖っ毛を大きく揺らして息を整えていたフェリシアは、頼みごとがあるのだと座り込んだ。手には髪紐と櫛を握り締めている。
「あのね、ボクに髪の毛の縛り方を教えて欲しいの!」
「髪の毛の…………?」
確かにフェリシアは、その黒髪をずっと下ろしていて、縛っているところはまだ見たことがない。
話を聞けば、どうやらカレッジに来るまでヘアセットは侍女に任せっきりだったらしく、やり方がよく分からないのだという。
「自分でも何度かやってみたんだけどね、後ろがどうしてもモチャッてなっちゃって……。ハリエットはいつも上手に結んでるでしょ、コツとかないのかなって」
「教えるのは構いませんが……どうして急に?」
するとフェリシアは、ハリエットに顔を近づけて、ヒソヒソ耳打ちする。
「ベリアスとね、お揃いの髪型にしたいの。こっそり練習して、自分で上手く出来るようになったら見せに行くんだ」
「なるほど、お揃いと…………」
ベリアスは長い金髪を、後ろの低い位置で纏めている。それくらいだったら、すぐに出来るようになると伝えると、フェリシアは嬉しそうにはにかんだ。
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「ベリアスってさあ、フェリシアちゃんと婚約発表とかしないの」
「お互いカレッジを卒業したらするつもりだが」
いつも通り、カフェテラスで集まって駄弁っている男四人。今日は、この間の対決の罰ゲームとして、マクシミリアンとベリアスの奢りでかき氷を食べていた。夏でも涼しく、綺麗な水が豊富なウェールツディット西部では、かき氷は定番のデザートである。
食べ過ぎて頭痛に苦しみながら、マクシミリアンが尋ねた。
「でもそれ色々と可哀想じゃないか? きっと他の女の子たち、まだチャンスあると思ってるよ」
「私がどこからどう見ても完全に脈なしになったら次に囲まれるのはマクシミリアンだぞ、そっちのほうが可哀想で見ていられん。まるで屈強な騎士団に捕まえられた珍しい魔獣のようではないか」
「気遣われているのか貶されてるのか分からない」
現在のカレッジには高位貴族や王族かつ婚約していない男は少なく、それゆえ人気が集中しがちなのである。
そんな玉の輿を狙う肉食系女子に囲まれて、マクシミリアンが自力でどうにか出来る訳がないとベリアスは言っているのだった。
「それにこの件はフェリシアと二人で決めたことだ。本気じゃないと周りに思わせていたほうが、向こうにも迷惑はかからん」
「あー、まあ本格的に決まるとなれば文句言う人は出るからねえ」
分かる分かる、とかき氷を頬張るヴァスト。つまり、王城勤めの偉い人を敵に回すよりは、カレッジ内の競合女子を相手にしているほうがフェリシアにしてもまだ楽だということだ。
「でもよベリアス、いくらお前がフェリシアにゾッコンでも、卒業まで待ってたらそれこそお前のライバルが増えんじゃねーの」
「馬鹿を言え、私以上に良い物件がどこにいる」
「うわ、すっげー自信」
呆れた顔で笑うアール。そんな彼の肩越しに、フェリシアが拗ねた顔で現れた。
「アール!! ボクがベリアス以外に惚れる訳ないでしょ!」
「うわあ!!急に大声出すな!!」
アールは思わずスプーンを取り落としそうになる。そんな彼を睨みつけているフェリシアの格好が、いつもとは少し違うことにベリアスは気がついた。
「今日はいつもと違うオシャレだな」
「!! そうなの、そうなんだベリアス! 見て、キミとお揃いにしたの!!」
くるりと回って、結んだ髪の毛を見せるフェリシア。制服のスカートと一緒に綺麗な黒髪が跳ねた。一瞬きょとんとしたベリアスは直ぐに口元を緩め、席を立ち上がる。
「ふん、お揃いというには足りないものがあるだろう。ほら、じっとしていろ」
そう言って、ポケットから何かを取り出すと、彼女の髪に結びつけた。不思議そうな顔でそれを触っていたフェリシアだったが、それがベリアスとお揃いの青いリボンだということに気がつくと、にやつきの抑えきれない顔で遠巻きに見ていたハリエットのところへ走り去ってしまった。
「ベリアスはすごいなあ」
「熱烈〜」
「貴族の会話すんな、訳分かんねーだろ」
マクシミリアンとヴァストは目の前で起きた光景の意味を悟り、まるで初等課程の生徒並の感想しか出てこない。貴族ではないアールには、その意味が分からなかった。
アールの抗議に、ヴァストは見ているこっちが照れ臭いと言わんばかりに答える。
「ベリアスのあのリボン、エルリンテン=ウェールツディット家の紋章が織り込まれてるんだよ」
「つまり?」
「端的に言えば『コイツはオレの』ってこと」
ベリアスは、そっぽを向きながら、すっかり溶けてしまった、かき氷だった甘い水を黙って啜った。




