貴人の友情④
そんなこんなでマクシミリアンとベリアスがカレッジに戻ると、アールとヴァストも丁度帰ってきていたところだった。お互い何を言うでもなく、静かに寮の厨房へ這入っていく。すでに戦いの火蓋は切られていた。
昼を少し過ぎた頃、西花とハーリの部屋に器を持った四人がやってくる。ちなみに二人は一晩寝たらすっかり回復したらしく、もはや病人食という建前すら壊れた。
机の上に置かれた料理のうち、アールとヴァストが作ってきたのはマルムドゥ風のスープだった。
「正確な原材料が分からなかったから、下手に入れ替えるよりはこっち風にアレンジしようと思ってさ、スープにしてみた」
「アールたちのめっさええ匂い! これやでこれ!」
一口飲んだハーリは満足そうに目を細める。みんなで少しずつ味見をすると、確かに美味しい。野菜自体はウェールツディットで安価に手に入るものだが、不思議な辛味と甘みのある味付けが異国情緒を香り付ける。
すると横から抗議の右手が挙がる。マクシミリアンだ。
「でも、大幅なアレンジはレギュレーション違反ではないでしょうか!」
「レシピ思いっきり無視したやつが何か言ってんな」
マクシミリアンとベリアスが作ってきたのは、自称ツォ風野草粥。麦と雑草が異様なマーブル模様を描き、何故か焼いた魚が一緒に煮込まれている。全くといって、食欲をそそられる見た目ではない。
「知らない料理だ」
西花からも拒否される。
「食わず嫌いは良くないんじゃないか、食べられないものは使ってない」
「食べても死なないは食えるとは言わん」
当然ながらどうにも匙を進める勇気が出ない西花を、意外なところから撃ってくる予想外の敵がいた。
「早く食え!! 勝敗が決まらないだろ!!」
「ええ!?」
アールが膝をぺしぺし叩いて、味を確かめるよう催促する。その横ではヴァストも頷いて急かす。
「どう見ても貴様らの勝ちではないか!?」
「ウェールツディットの騎士たるもの、正々堂々剣を交えた勝利でなければ誇ることは出来ない」
「お国柄やなあ」
戦わずして勝ち負けはない、と説かれると、西花もこの料理を胃に収めるしかなくなった。マクシミリアンとベリアスに、自分たちの敗北を認めさせるには食べた上で不味いと一蹴しなければならないのだ。
「見ていろ貴様ら、これで俺に何かあったら、『皇子兎西花、騎馬士水国の野蛮な騎士共に嵌められ毒皿に倒れる』とツォの歴史書に名前付きで載せてやるからな」
そんなことをまくし立てながら、意を決して粥を口に運ぶ。暫く口元を動かしていた西花は、訳が分からないといった顔で呟く。
「まずくない」
「まずくない!?」
他の三人が一斉に匙を突っ込み、ペロリと舐めてみる。やはり幾ばくかの間を置いて、首を傾げる。
「確かにまずくはないな」
「どっちかと言えば美味しい寄り?」
「美味しいけど喩えようのない味やね」
煮え切らない評価である。
調理に粗が目立つため、手放しで美味いとは流石に言えないものの、魚の処理や焦げつきさえ何とかすれば、かなり良い線を行っている。瑕疵があるとするならば、これは西花がもともと望んでいたものとは似ている部分のほうが少ない、という最悪の欠点のみだ。
ベリアスが自慢げに前髪を払う。
「あまり我々の舌を見くびらないでいただきたいものだな! これでも味にはうるさい方でね」
「クソ〜超高位貴族を舐めてたぜ…………」
数分の後、西花は一皿をきちんと食べ切った。丁寧に口元を拭い、そして、その上でハーリと二人で顔を見合わせてから、こう言った。
「いや、やっぱアールたちの勝ちだろう」
「そやね」
カレッジに、忖度というものは存在しないのである。




