貴人の友情②
「絶対反対だねオレは」
アールが腕を組み、仁王立ちして他三人に相対した。部屋の隅から、何が何でも止めてくれという強烈な念を感じる。
「オレはともかく、包丁を握ったこともない貴族連中が、ましてや知らない料理を作れる訳がない。新種の魔獣を生んで終わりに決まってる」
「そんなことはない。僕は雑草の調理をしたことがある。美味しかった」
「それはそれで貴族がしていい発言じゃねーよ」
ベリアスはアールにわざわざ近づいて、彼を見下ろし、前髪を払いながら煽る。
「待ちたまえ、アール・ラステン。これは高度な外交なのだ! ツォ国の皇子にマルムドゥの秀才、言わば各国の代表たる彼らをもてなすことが君には出来ないというのかな? ん? ウェールツディット人はマズい自国料理しか提供しない、なんて噂を世界中に広められても良いと? 誇り高き王国民の一員である君はそれを許すのか?」
「いや、そこまでは言ってへんよ……」
ハーリは最後の桃を口に押し込みながら否定したが、ベリアスの挑発はてきめんだった。
アールはヴァストの腕を掴んで引き寄せると、マクシミリアンたちに向かって叫ぶ。
「そんなに言うなら勝負だボケ!! オレら二人とお前ら二人!! うまいと言わせた奴の勝ち!!」
「良いだろう! だが覚悟しておけ、負けたら罰ゲームだからな!!!!」
西花は、さっきまでとても美味しかった筈のりんごの味が急にしなくなったような気がした。
「…………病人の部屋で騒ぐな!」
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「ベリアスってよくアールにだる絡みするよな」
「人聞きが悪いぞマクシミリアン」
翌日、事務局に外出届を出して、二人で城下町へ材料を買いに行く。白い石の階段を下りながらマクシミリアンは、先を行くベリアスの長い金髪を見ていた。
「大体な、あいつは貴族に対して敬意がなさ過ぎる! 心の広い私たち以外にあんな口を利いて就職先がなくなるのが可哀想だから構ってやっているんだ」
「アールって僕たち以外の貴族には案外殊勝な態度なんだけどね」
「…………まあいい。所詮は今のうちだけだ。あいつが王城勤めを始めれば否が応でも我々に、神妙な顔で敬語を使うことになるぞ。見物だな!」
王城勤めさせるのは決定なんだなー、と内心で思うマクシミリアン。実際、アールがどこに就職するかは本人の意思次第であるが、使えると思えば無理矢理でも王城に入れかねないのがベリアスだ。
「ま、今のうちだけはね」
「ああ、今のうちだけだ」
マクシミリアンは知っている。このベリアスという派手派手しい外見の、次の国王たらんと自他共に期待する男が、実は案外寂しがりやなのだということを。
本当は、立場なんか関係なしにどつき合ってふざけたい。でも、口の減らない悪友たちと、そんな関係でいられるのは、カレッジにいる僅かな間だけ。
大人になってしまえば、王城という舞台で仮面を被って演技するしかない。王になったら、誰も隣に来てはくれない。
「実のところ、アールが飾らないで喋ってるのを聞いてると、街の人の会話とか分かるようになるから勉強になるよね」
「罵詈雑言ばっかり覚えさせられるがな」
大通りの中程まで下りてくると、右手に曲がって路地を抜ける。大通りを外れると、どうしても治安が悪くなるため、マクシミリアンは路地の奥にはあまり入ったことがない。辺りを不安げに見回しつつ、早足でベリアスに着いていった。
出た先は市場。
反対端には、馬車停留所から続く、遠回りにはなるが傾斜のゆるい馬車用路があり、そうして多方面から持ち込まれた豊富な食材や素材が所狭しと並べられているのだ。
大通りが、階段で下に行くほど庶民的になるように、市場も山頂に近いと高級料理店や腕利きな細工師の御用達、下に行くほど主婦のテリトリーと化す。
「市場は初めてか? 人や籠にぶつからないよう気をつけろ、貴重品は下着の中にでも入れておけ。あまり人と目を合わすなよ」
「う、うん」
信じられないくらい騒がしい人混みにやや気圧される。怒声、歓声、それら全て、今を生きる民たちから発せられるものだった。貴族が集まって夜会を開いているときの騒がしさとはまた質が違う。
(人がいっぱいで気疲れしそうなのは変わりないけど、こっちのほうが心地良い煩さかも)
そんな好奇心からフラフラと、気になるものを見に行ってしまうマクシミリアン。ベリアスは何回も彼を引き戻す羽目になり、どっと疲れることになる。




