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私たちの出場は減り、徐々に決勝へと試合が進出している。今は準決勝であり、レイとディルが対戦していた。彼らは何かと言い合っているので、少々心配である。
闘技場に顔を出すレイとディルの間に雷がぶつかる。
「レイはさ、諦めるよね?」
「何を言っている、始まったばっかりじゃないか」
「もしかしてレイ、彼女のこと好きなの?」
「お前もそうだろう?」
「...それは許さないよ」
二人は睨み合いを始めた。私は魔法で彼らが何を話しているか聞こうとすると、二人のどちらかが作った結界によって阻まれて聞こえない。
「じゃあさ、勝負しようよ」
「なんのだ?」
「もしも勝ったら、今日はアーシェと同じ部屋で寝ていいっていう。負けたら悲しく自分の部屋で寝る」
その会話に二人の目が鋭く光った。そしてため込んでいた力を解放するかのように彼らの体に力がみなぎる。
「それは、負けるわけにはいかないな」
レイはぺろっと下唇を舐めて、ニヤリと笑う。
闘技場の待合室で見ている私はとっさに危険を察知した。これは、下手したら血の雨が振る、と息を飲む。そんなことが起きないように結界を闘技場の周りに張った。ディルもレイも一応被害が出ない程度に威力を抑えてくれるといいんだけど。だって観客の中には一般人もいるし、もしかしたらどこかのお偉い貴族様も混ざっているかもしれない。
高い笛の音が会場に響く、そしてどちらも一斉に動いた。普通の人には目にも捉えられない速度で戦っている二人をじっくりと技を一つ一つ見極める。どこから見ても互角だった。これは消耗戦になるんじゃないか?
観客の方を見ると、みんなが状況を理解できずに混乱している中で一人だけ平然と面白そうに戦いを見つめていた女性がいた。彼女は朱色の髪の毛に茶色の目をしていて、私と同じ年頃だろうか、とても美し勝った。これは俗にいう、クールビューティーというものなのだろう。
彼女のことを思わずずっと見つめていると、ふと目が合ってしまった。途端に彼女は不服そうな顔をしてそっぽを向く。
私は何かしでかしてしまったのだろうか。嫌われているらしい。いや、距離は結構あった。もしかしたら恥ずかしくてそっぽを向いただけかもしれない。それか初対面で嫌われるような見た目をしているのか、私は。
その場合、これまでの目線などもディルとレイに釣り合わない女だって思われているから、とか?
強く首を振り、嫌な気持ちを封印する。そして今試合をしているレイたちに集中する。戦況は先ほどとさほど変わらない。どっちも互角で、どっちが勝つかなんて想像がつかない。このまま一生続きそうな気がする。二人とも力を制御しているということは見てわかった。だから二人ともギリギリ大丈夫な威力で戦っているのだ、だから互角になってしまい、勝ち負けがなくなってしまう。
こんな戦況がずっと続いているのを審判はどうしようかと迷っていた。だが、決意したのか笛を吹く。ディルとレイの動きはピタリと止まった。
「ちょっとうるさいよ、笛が」
ディルが笑顔で審判にそう言うと、審判は震えた。そして紐を使って首にかけてある今までお世話になった笛が同時に破裂する。
「えぇ...」
思わずそんな声が出てきてしまった。
笛の破片ともあろうものが床に散らばるのを審判は動けない体で目だけ追って見る。
「ディル、続けよう」
「...」
ディルは返答をしないままレイに攻撃を仕掛けにいく。
結局笛の意味とは、と私は心の中でため息をついた。もう一体何が彼らを止めるのか。これでは周りの人々全員に迷惑をかけてしまう。
私は大きく息を吸った。
「ちょっと止めなさい!!!!!」
魔法でさらに大きくなった声に二人が止まる。
私は審判に近寄ると、礼をして何度も謝った。
「平気です平気です。ただ僕のお気に入りの笛が壊れただけですから...」
と、審判は言うものの、彼の目には涙が溜まっていて今にも泣きそうだった。申し訳なく思ってしまい、私はさらに謝る。
というか、なぜ私が謝らなければいけないのか。それはディルとレイがするべきでは?と、いう疑問を心に抱きながらディルたちに怒りの視線を送る。
後で説教決定だ。
「...勝者は決まらなかった。よって決勝は二人で一緒に進出としよう!!」
審判ははんばやけくそにそう叫ぶ。その内容に私の体は瞬時に強張った。
「は....?」
それは決勝は2対1で挑めと。
不公平にも程があるだろう。私は決勝進出なのだ、そんな私にディルとレイ、どちらとも戦えと。無理無理無理。やればできるなんて軽いものじゃない。もう不可能だ。
混乱と不安しかない眼差しを審判に向けると、彼はグッとグッドサインを送ってきた。
もう気にしないから好きにしろ、という気持ちがグサグサと伝わってくる。




