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ーー大会当日
闘技場は人々の歓声や叫び声で賑わっていた。見にきている人は思っていたよりも数倍多く、こんなにも戦いを見たい人がいるのか、と怖くもなった。
「じゃあ、決勝で会おう」
ディルが最初だった。闘技場に出ると、スタジアムみたいな場所が広がる。そして反対側から相手の戦士が出てきた。ディルが出てきたとき、観客の軽蔑のような視線が彼に向けられる。
「なんでこんなところに子供がいるんだよ!」
「チビは引っ込んでろ!」
「早く帰ってママに子守唄歌ってもらいな!」
たくさんのブーイングの中、ディルは堂々と立っていた。彼は全く気にしていなかったのだ。
ディルの相手は筋肉ムキムキの戦士だった。背中には大剣がついており、いかにも重そうだった。そんな戦士の顔には余裕が浮かんでいる。
「おいガキ...運が悪かったなぁ?俺様と戦うなんてよ。瞬殺してやるわ」
首を鳴らしながら満面の不敵な笑いでディルを見下している。それに対してディルは平然と無表情だった。そして、一つため息をつく。
「おじさん、弱いよね?」
そして真っ直ぐ相手に向かって、そう言ったのだ。彼のその目には確信があった。
「っ!お前俺様を侮辱したな?!」
「侮辱も何も事実だけど?」
何が間違っているのか、と首を傾げるディル。確かに、私にも何が間違ってるかなんてわからない。だって、相手は確かに弱いんだもん。オーラからして。
「この『怪力の戦士』とも呼ばれたこの俺様を弱いだとぉ?!ふざけるな!!」
自称『怪力の戦士』の額に青筋ができる。
「プハっ」という笑い声が隣で座っているレイから出てきた。
「名前もっといいのあっただろ?」
必死に笑うのを我慢しているようだが、それは見るからに失敗している。
ピーーーっ!
すぐに試合の合図の笛が鳴り響いた。ディルも『怪力の戦士』も動かない。どちらとも相手の動きを見ている。真剣な空気に全ての人が息をのんだ。
「あ」
ディルはピタッと構える姿勢を解除した。その場にいる人々は彼が何をしたいのか理解できないまま試合を見つめる。
「別にこんなに真剣にやらなくても勝てるし...」
そう呟いたと同時に、彼は柄から剣を取り出す。その片手剣を持ってディルは地面を蹴った。
「ひゅ...」
『怪力の戦士』の目の前に一瞬で現れる。戦士は何が起きたかわからないまま驚きで体制を崩してしまった。それを見逃さず、腹に一撃を入れる。広い血飛沫が綺麗に宙に舞、勝負は決した。一瞬だった。誰も状況を理解できずにいただろう。
「しょ、勝者ディル!」
観客の誰も拍手をしなかった。だが、ポツリポツリと拍手をする人が現れ、最終的には闘技場全体が拍手に包まれた。
「「うおおぉぉぉおおおおぉ!!」」
拍手に包まれながら、ディルが戻ってくる。そしてすぐに私の方に来た。
「どうだった?」
「どうだったって?」
「僕の試合、どうだった?」
「え、ああ、普通に凄かったけど」
「我としてはもう少し真剣にやった方が良かったと思うぞ」
「君には聞いてない。で、アーシェは僕がよくできたと思う?」
レイを冷たく一瞥した後、私に笑顔を向ける。彼の表情切り替えが人間の域を超えている気がするのだが。
「よくできたと思うよ!すごいじゃん、瞬殺なんて!」
へへっ、と無邪気に笑う姿に私も自然の微笑んでしまった。
「次、アーシェ対ヴィタニー」
と、言われた瞬間、闘技場が大きな歓声に包まれた。前のと比べ物にならないほどの歓声だ。そしてそれは私に向けられたものじゃなく、ヴィタニーと名乗る人物に向けられたもの。その人物はそれほどにまで強く、有名なのか。
今更緊張なんてよくないと知っている。だが、もしも私が負けてしまったら...みんなに恥をかかせてしまう。それは、絶対に嫌だ。
ギュッと自分の服を力強く握りしめる。そして大きく深呼吸をした。
途端に、耳に暖かい空気がかかった。
「頑張って」
ディルがそう耳打ちする。ボッと私の顔は赤くなり、反射的に耳を抑える。
「なななな...あ、ありがとう」
混乱しながらも感謝の言葉は述べた。ディルは悪戯そうに微笑んだ後、私を押すように闘技場へ出した。ヴィタニーはもう出ており、私と彼が見つめ合う時間が生じる。
「へぇ、アーシェか。お前、美人だな」
「...どうも」
お世辞か?お世辞で私を嬉しくして油断したすきに叩くっていう計画か?そんなものにはかからないよ。
「どうだ、この試合で一つ賭けをしないか?」
ヴィタニーは手を前に出した。
「俺が勝てばお前は俺の女になれ。お前が勝てばお前が欲しいものをやろう。ドレスか?領土か?金か?権利か?...どれでも一つやろう」
「.........」
その賭け、私に利益のあるの一つもなくない?
ドレス、もうたくさんありすぎる。
領土、そもそも冒険者だからいらない。
お金、ありすぎてもう必要ない。
権利、そもそもなんの権利。
そしてもしも私が負けたら彼の女になれと?馬鹿馬鹿しい。
「そんな私に利点が一つもない賭けに乗るわけない」
「利点が一つもない?馬鹿を言うな、お前の願いを一つだけ叶えてあげると言っておるのだ」
「私の願いが本当に叶えられると?」
「ああ、当たり前だ。どんな願いでも受け入れよう」
そしてヴィタニーは自分の髪の毛をかき上げた。くるくるの緑色の髪の毛は、フワッと宙に浮く。
「「きゃあああぁぁああ!」」
そして観客の中から黄色い声が響いた。ヴィタニーは決めポーズをとっている。
「私の願いは一つだけ。あなた、これが終わったら私に一生近づいてこないで。それだけ、簡単な願いでしょ?いいよ、賭けに乗る」
そして笛が鳴ったのだった。




