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「一から状況を説明しろ」


翔の言動一つ一つにふつふつと怒りが芽生えた。早くこの会話をやめてこの依頼を取り消すよう言わなければ。陛下なら私のことを邪魔に思ってるだろうし、すぐ許してくれる。


「別に知らなくてもいいじゃない。どうせ私はすぐにあなたの前から消えるんだから」


隣で座っているだけのディルには申し訳ないが、もう少し待たせることになりそうだ。チラリ、と彼の方を目の端から見ると、つまらなさそうにしていると思っていた彼が、少し怖い顔で翔を見つめていた。


「は?おい、状況ぐらい教えてくれよ。...てか今お前は俺の護衛だろ?俺の命令は絶対だ。命令する、教えてくれ」


従わないと不敬罪で罪に問われてしまう。だからといっても私自身が聞く耳を持ちたくない。


「...私は王都で本を読んでたら変なポータルによりそっちの世界に記憶を封印され飛ばされた。そして隣にいるディルが連れ戻してくれた。それだけ」


「へぇ。本当に命令には従わないといけないんだな」


翔はいい案を思い付いたかのようにニヤリと口角を上げた。


何も言い返せないまま沈黙が続いた。


「じゃあ、アーシェ。お茶を持ってきてくれ。ついでに、俺を蹴ったこと、謝ってくれ」


扉を指差し、不適な笑みを浮かべながらそう言う。


「...まことに申し訳ありませんでした。翔様」


席を立ち上がり、部屋を出る。廊下に出たところで、厨房がどこかわからない時点でもう詰んでいた。こんな大きな城の中で一つしかない厨房を探すのは難しい。


とにかく歩き回ってみようと、廊下を渡ると途中に綺麗なバラの庭があった。立派に赤く咲いているバラは、よく言えばとても鮮やかで綺麗。悪く言えば鮮血のような赤色だった。そんなバラの中に、白いガゼボがあり、その中でお茶をしている女性を見つけた。その綺麗な青空色の髪の毛に海色の瞳。彼女には会ったことがある。


陛下にあったとき、陛下の隣に立っていた第一王女様だ。彼女は自身の侍女と仲良くお茶をしていた。せっかく出会ったのだし、挨拶をしようと彼女に向かおうとしたが足を止めた。私は元貴族の娘と言えど、貴族のマナーなんてものは微塵も知らない。もしもこれで勝手に挨拶をして怒られたりしたら...。


私は、気づかなかったフリをして通り過ぎることにした。


「そこの...アーシェ?こちらにいらして?」


とても上品な声が私の名前を呼ぶ。王女様に言われた通り、彼女の元へ向かった。


「なんの御用でしょうか」


できる限り明るい笑顔を王女様に向ける。


「単刀直入に言うわ。あなた、私のディルとどんな関係かしら?」


ハーブティーと思えるお茶をすすりながら質問される。


私は”私のディル”と言ったことに吹き出しそうなのを抑えた。


「ただの冒険者仲間です。あ、強いて言えば借金をしてしまって。彼に返すために仲間になったんです。まあ、話せば長くなります」


「借金...?」


王女様の顔からして、私が言ったことを理解できていないようだ。さては、借金という概念を知らないのか?


「お金を借りることです。ディルからお金を金貨1000枚借りてしまい。それを返さなければいけないのです」


私の回答に王女様は考えるように自らのコップを見つめた。そして、私の方を向く。


「もし、私がその借金をあなたの代わりに返済したら、あなたは彼から離れてくれるのかしら?」


瞬時に私の瞳が輝く。


こんな天使みたいな人がいるなんて!しかも王女様!!金貨1000枚を!!いやー、これで私も楽になれる!もう毎回借金のことを考える生活とはおさらばだ。王家にはそれほどのお金が溜まっていることも気になるけど、それよりも!


「ええ!借金を返せば今にでも!」


ギュッと王女様の両手を優しく私の手で包み込み、彼女の犬みたいに忠誠心で満ち溢れた瞳で彼女を見つめる。彼女が望むなら借金返済まで私は犬にだってなってやる。


心が弾む...はずなんだけど。


ふと、チクッとした。なぜか心が痛くなったのだ。


借金返済して嬉しいはずなのに。これで一人で悠々気ままに旅ができるというのに。どこか、嫌な気持ちが芽生える。


私は、本当にディルから離れたいの?別に彼のことを翔みたいなやつのように嫌っているわけじゃない。そりゃ、恋愛的な感情で好き.........ってわけでもない.....と思う。


だったらどうしてこんなにも自分が言った言葉を自分で抵抗したいんだろう。


色々と矛盾している感情に表情が暗くなる。


結局、私はどうしたいんだ。


「まあ!嬉しい!では、すぐに金貨1000枚、準備するわね?」


嬉しそうに手を叩き、控えているメイドにその金額を用意するよう王女様が命令した。彼女の声で私の思考が一旦停止する。


「あ、ありがとうございます...」


そして私の声は、迷いが現れていて、とても弱かった。



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