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私たちと勇者が対面することになった日。私は身嗜みを整え、最後に大きな鏡の前に立った。動きやすい服装、よし。ポニーテール、よし。優しい微笑み、よし。
人は第一印象が重要だ。陛下は失敗したけど今回依頼対象の勇者の前では絶対に失敗しない。
ポジティブな気分で自室を出ると、ディルが壁に寄りかかって待っていた。彼も私と同じく、身嗜みを整えてきている。整えているせいか、普段とどこか違う気がして落ち着かなかった。
「アーシェ、終わったの?」
彼をじーっと見つめていた私は、ハッと我に返った。
「うん。準備なら完璧!」
見せ付けるようにポーズを決めると、ディルがクスリと笑った。どうやら受けは成功したようだ。
私たちはまたもや兵士に案内され、広い城のなかを歩く。こんな広い城の構造をきちんと覚えている兵士たちには尊敬する。こんな広さ、覚える気も出なくなる。広いうえ豪華だなんて一体どれくらいの金貨を使ったのか。廊下のシャンデリアにすら宝石がたくさん埋め込まれてるし、壁は所々金で装飾されている。大理石の床は滑らかで、汚れ一つない。廊下を歩いているうちに通り過ぎていく装飾もそれはそれは綺麗だった。
「まるで宝石の城ね」
そう呟く。
私が住んでいた公爵家とも比べ物にならないなんて。王族の財力は恐ろしい。
また少し歩き続けていると、一際大きな扉の前で歩みを止めた。この扉の先に誰がいるのかすぐにわかる。
「ディル...勇者様かショウ様、どっちで呼んだ方がいい?」
「それは僕に聞くものじゃない気がするよ?」
勇者様本人に聞けと。
扉が開くと、私たち客室とは比が違う豪華な私室の中だった。そのソファーに座っているのは、紛れもなく勇者様である。私たちに背中を向けており、顔は見えない。
「勇者様、護衛の二人が参りました」
ディルは先に前を出て軽く自己紹介をした。私も彼について自己紹介をする。
こういう貴族のしきたりはわからないが、ディルはわかるようなので彼に続けばどうにかなるだろう。
「ディルと、..........アーシェか。座れ」
勇者様は私たちを彼の正面のソファーに座ることを許可された。遠慮なくそこに座り、顔を上げ勇者様の顔を初めて見た。
「.................................は」
長い沈黙の後、私の口から出たのはそんな一言。だが、私の頭の中では言葉で埋まっていた。
どうして彼がどうして彼がどうして彼がどうして彼がどうして彼がどうして彼が....。
そんな考えを100、1000繰り返しても結論は出ない。ただ、偶然召喚されてしまったのが彼だということだ。
「お前は、アーネスト!!どうしてここに?ここは異世界だぞ。それに隣のやつ...お前も」
翔も私のことを覚えているよう。私は一瞬震えた。
「...やめる」
勇者が翔だったなんて。
金貨25枚?そんなの捨ててやるわ。彼とは死んでも一緒の空気を吸いたくない。
「なんでお前がここにいるんだ、アーネスト!!」
「...言っている意味がわかりません」
「しらばっくれるな!お前は俺と一緒の学校で、お前は俺を蹴-」
「っ!!あれはあなたが私を襲おうとするから!!」
......あ。
翔の顔がニヤッと歪む。
「やっぱりアーネストじゃねぇか。なんでお前が異世界にいる?」
「......私は元々こちらの人間よ。偶然、あなたたちの世界に飛んじゃっただけ」




