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勇者召喚の情報は瞬く間に王都に広がった。次の日には私の耳にまで届くほど。
冒険者ギルドにつくなり、冒険者たちはその話で持ちきりだった。
「勇者ねー、ディルはどう思う?」
何気なくディルにそう聞くと、彼はなんとも言えない表情を返してきた。
「正直、いらないと思ってる。みんなが喜んでる理由がわからない。だって魔王なんて気が向いたらいつでも倒せるのに、勇者なんて大袈裟だと思うんだ」
魔王は簡単に倒せる、っと。
今日も私の脳内のメモは増えていく。そのメモを頭の片隅にしまい、依頼ボードを見つめる。今日はたくさん稼ぐんだ。前回ドラゴンを倒す依頼は報酬がよかった。ここにもそんな感じの依頼があれば...。
そんなことを思いながら依頼に目を通していると、ふと目立つ依頼があった。
「勇者の護衛...?」
依頼人は...王家?!
なぜ冒険者に依頼をするのかは謎だが...
私はゆっくりと報酬の金額を見る。
「報酬...金貨50枚!」
期間は一週間だ。そしてランクはAランク以上の冒険者。これは受けるしかない。これほどいい仕事が今後あるものか!
早速ディルにこの依頼をやると伝えに彼を人の中から探す。少ししたら見つかり、私は依頼の紙を持って駆けつけた。
「ディルー!私これに決めた」
そして彼の鼻の先に紙を突きつけた。彼はその紙を一通り読む。
「受けるの?これ。じゃあ、一緒に受けようか」
「...え」
「ここに二人って書いてあるでしょ?」
彼の指が差す方に視線を移動すると、確かにそれに似たことが書いてあった。
「あー...ね」
見落としていた。完全に。報酬に目が行ってしまい、他のことは割とどうでもよかったのだ。
「じゃあ、受付に行って申請してくる。あそこで待ってて」
そう言われ、私は近くにあった椅子に座った。
金貨50枚。これはとてつもない大金だ。もしも彼が一緒に来るとしたら山分けで25枚に減る。それは...結構...気分が乗らない。
パンっと自分の両頬を叩き、精神を統一する。欲張ってはいけないんだ。25枚でももらえるだけいいと思え、私!
ディルが帰ってくるのを確認すると、私は立ち上がった。
「はい、これ」
ディルは私にカード的なものを渡す。
「これは、身分証?」
「ああ、これを身につけて王城に行け、だって」
じゃあこれはなくしたらいけないやつだ。大切に保管しておこう。
なんだろう、さっきからディルのことでモヤモヤする。なんか悪い予感がして...。
王城に入ると、すぐに陛下と対面することになった。兵士に現在道を案内されているところだ。
陛下...対面?謁見...婚約?!
バッとディルの方を向く。
「こ、王女様と..婚約......来て大丈夫だった?」
最初らへんは驚きすぎて言葉がちゃんと出せなかった。
「ん、大丈夫だって。断ったんだし」
そういう問題じゃないと思うのだけれど...。
ん、待って。これって逆に私が疑われない?ディルはその婚約を断ったんだよね?”好きな人がいるから”って。じゃあ、私が彼の隣を歩いていたら...私だと誤解されるのでは??
そして...処刑...。
ゴクリと息を飲む。
それだけは絶対に起きてはならない。完璧に説得しなければ。誤解を解いて、私とディルはただの友達ということを伝えなければ。
今歩いている間に一歩一歩国王へと近づいている。そう考えると、緊張で手汗が滲んで来た。ディルはなんとも思っていないのだろうか?
「ここです」
兵士の一人が大きく豪華な扉の前で止まる。そして私たちは大きな扉を向くように立った。ゆっくりと開かれるその扉が逆に私を無駄に緊張させてしまう。
扉が完全に開き、先に見えたのはもうお年頃の国王様とその隣で立っている王女様だった。よりによって王女様までくるとは...もっと気まずくなるよ...。
「おぉ!ディルか!久しいなぁ」
「お久しぶりです、陛下」
「そんなに畏まらなくてもいいぞ」
ディルは感謝の言葉を述べると、ニッコリ微笑んだ。
「して、その隣の女性は誰じゃ?」
「っ、私はアーシェと言います。ディルの友達で、一緒に冒険をしています」
「アーシェ、冒険者ランクは?」
ディルに向けている目とは程遠く、まるで品定めするかのように冷たい視線で私を捉えていた。
「S、です」
すると、少し舌打ちが聞こえたような気がして、目だけ上を見る。すると、国王様が不満そうな顔をしていた。
「お主らはここにショウの護衛として来たのだな?」
ショウ、とは今回の勇者の名前か。よりにもよって前回私を襲おうとした翔と同じ名前だなんて。
「はい、その依頼を受けてまいりました」
私はそう答える。
「貴様には聞いておらぬ。そうなんだな、ディルよ?」
「.........そうです」
ディルの声からして、彼が不機嫌なことが伝わってくる。
「そうかそうか。期待するぞ、ディル。ちゃんとショウを守ってくれ」
「......はっ」
結局、そのあとは陛下とディルの雑談だった。たくさん喋る陛下に対して”はい”、”そうなんですか”、”すごいですね”、としか言わないディル。正直見てて、飽きてきてしまった。
「うむ、お主らの部屋は用意してある。どうじゃ、ディルよ。婚約の話、もう少し考え直してはみないか?」
「断らせていただきます。僕にはもう好きな人がいるので。それと、もうこれ以上その話をあげないでもらえますか?」
そう彼が言い残し、私たちは広間を出た。
ーー私は確実に陛下に嫌われてる。




