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宿につき、部屋の扉を開けると、そこにはディルの姿があった。
「ディル?!」
彼の様子が変だ。なぜかとても疲れ切っているようで、何かを連続で呟いている。
「っ!アーシェ...」
そして私の声を聞き、私の方を見た時にはひどく安心したような顔を見せた。
「もしかして、私のことを心配してたの?」
確かに無断で出て行ったのは良くなかったが、出ていなないと息が詰まってしまうので、仕方がなかったのだ。
「...そんなことは別にいいんだ」
”そんなこと”?
「それより、なんでベッドから出たの?僕、寝ててって言ったよね?」
「ちょっと外の空気が吸いたくて...」
「それなら僕を呼んでくれれば一緒に行くのに」
「行きたいって言っても許してくれなかったじゃない」
「...」
ディルはじっと真剣な目で私を見る。
「アーシェはさ、僕からそんなに離れたいの?僕のどこが嫌?」
「だからただちょっと散歩したかっただけだって!」
そう説明してもディルは信じようとしない。
「誰か他の男性と一緒にいた?ねぇ、教えて」
「そんなことないって!少しおしゃれをしたくて服を買いに行っただけだよ。なんでそんなに私のことが気になるの?!」
流石にここまで話が通じないと自分からもイライラしてきてしまう。
すると、ピタリ、と彼の行動が止まった。
「...はぁ」
彼は酷く暗い顔と一緒に呟いた。だが、それが嘘だったかのように次の瞬間、明るい笑顔が現れる。
「ちょっと心配になりすぎてた。ごめんね?」
ぞくっと私の背筋に寒気が走った。
この変わり様はなんだ、そんな疑問が残りながらも、私は笑う。
きっと、さっきの暗い顔は私の見間違いだった。いや、そうだった。だから、気にすることはない。
半分強制的に自分を納得させると、ディルと向き合う。
「国王との謁見について話すよ」
急に出してきた言葉に目を見開かせる。謁見とは他人には基本言わないもので、自分の中に止まらせておくのだ。内容を言っていい者たちは家族か、恋人かぐらいだった。そんな重要な話を私に教えるなんて、大丈夫なのだろうか。後に国王から処刑されたり、はしないと嬉しいのだが。
「前回の事件のことを感謝された。そしてそれと同時に第一王女との婚約話もされた。”わしの娘をどうかな”って」
感謝されたまではよくわかるけど。婚約話...とまでとは思わなかった。
これでディルも将来安泰だろうな。もしかしてそれを伝えてきた理由はこれから王城に住むことになるからもう一緒に冒険はできないってこと。それならば私に伝えることに納得ができる。
微笑ましい限りである。本当に、おめでとう、ディル。
そんな心が暖かな時間を堪能していると、ディル自らがそれを崩す様な発言をした。
「それで、断ったよ。僕にはもう愛する人がいるから、ってね」
それも、初耳だった。ディルはもう好きな人がいるのか。そしたら私とこんなに仲良くしてて大丈夫なのか?あ、それか断るための口実というのもあり得る。
...というかそもそも王族の婚約話を断るなんて...Sランクともなればそんなこともできるのか?
「あと、そもそも借金が返済終わってないからね。それが終わるまでは誰にも嫁ぐ気はないよ?」
ギクっと反応する。全財産の半分を洋服に使ってしまったなんて今更言えるわけがない。言ったら地獄を見る。だめだ、決して。これは私の中で永遠の秘密として眠ろう。そして、これからは頑張って働こう。
「ギ、ギルドにちょっと行こう?」
ドアの方を指差す。
「夜だけど、今」
その指した指を力なく下ろした。
「...あぁ、ね。うん、夜...だね」
確かに洋服のお店を出る時に結構暗かった記憶が。
「で、ディルはどうしてまだここにいるの?もう自分の部屋に戻った方がいいんじゃない?」
彼の背中を押して、彼を部屋から追い出す。そして扉を閉めると、扉に寄りかかって心を落ち着かせた。
「明日、目標金貨10枚!」
グッと拳に力を入れる。
「今日は、よく寝る!」
寝る前のシャワーなどの準びを終え、私はゆっくりとベッドへと沈んでいった。
.......だが半日も眠っていたら今更眠れるわけもなく。
ーーー
「やった...我々は成功したんだ!...勇者召喚の儀式に!!」
王城の地下にて、複数の宮廷魔術師たちは歓喜の声を上げる。その場に国王も立っており、喜んでいた。
「...俺は...どこだ、ここは」
そしてその召喚された勇者、黒沢翔は周りを見渡し、呆気にとられていた。




