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「...あれ」


起き上がったとき、私はベッドの上にいた。


「起きた?」


横から心配そうなディルの声が聞こえる。ゆっくりと重い体を起こすと、周りを見渡した。


「私の部屋じゃない...あれ、でも...」


途端に、頭痛がして頭を押さえた。


「ここはどこ...私は学校から帰って...いや、ポータルの中に...」


わからない、もう何も。


記憶が混乱している。だが、徐々に記憶のピースが揃い始めた。


「私は...アーシェ、Sランク冒険者」


ポータルを潜ってあの、魔力のない世界へと渡った。そこで...。


偽りの告白をして無理やり私を...。


考えただけでもゾクッとする内容だった。今思い出すものではない、と頭の片隅にしまっておく。できることならこのままずっとそこにしまおう。


「どうしたの?大丈夫?顔が青いよ?」


ピタッとディルの手が私の額に当たった。私はその手を取り、握る。


「大丈夫、なんともない。ディルがいてくれて本当によかった」


あれの次の日に学校に行くなんて気まず過ぎるし、多分トラウマとして残ってしまうから。その時ちょうどにポータルがまた開いてよかった。


ただ、一つ疑うようなことがある。


「ディル...あなたポータルに何かしたの?」


疑い、というよりは確信に近い。


ディルは私に笑顔を見せた。


「うん、ちょっとね」


何をしたかは話す気がないらしい。まあ、連れ戻してきてくれただけ感謝をしなければならない。


「深く探らないよ。でも、本当にありがとう。助かった」


「...助かった?あっちで何かあったの?」


あっちの世界での出来事はディルには関係ない。それに今後もあっちの世界には行かないと思うし、伝えても心配させてしまうだけだから、私は首を振った。


「別に」


そう簡単に返す。


ディルは無表情のまま頷いただけだった。それはどういう返答なのかと思ったが、別にいいと思いベッドから出る。だが、ディルはそれすら許すまいと私を座らせた。


「まだ起きたばっかりなんだからもう少し寝てて」


なぜかディルが過保護になった。いや、私が急に消えたりしから納得はできる。


まあ色々迷惑をかけたこともあり、大人しく彼の指示に従った。


従ったのはよかったのだが、すぐにいても経ってもいられなくなってしまった。まだまだ王都を探検し終わっていないんだ。あの本屋には戻らないとして他にも色々見たいところがある。


今出てもディルが止めると思うので、ちょうどいいタイミングを待つ。寝るふりを続けていると、ディルが隣から離れるのを感じた。片目を薄く開け、ベッドの隣を確認する。誰もいないことを確認した後、勢いよくベッドから飛び降りた。簡単に服を着た後、音一つ出さないで部屋を出る。宿から出て、私は息をついた。


「さて、どこに行きますか」


とにかく周りを散歩することから始めよう。王都は流行りの中心というのは間違っていないようだ。女性には心を躍らせるものがたくさんある。私は今、とてつもなくおしゃれをしてみたい。あっちの世界でやっている女性を多々見た。昔は興味なかったが、今は少しやってみたいと思う。


早速服を売っている店に入るが、目の前で止める。


今、やってしまったら借金返済はどうなるんだ。いやもしかしたらディルはもうそのことを忘れているのかもしれない。なんせ彼といて結構な時間が経つ。その間にいろんなことが起きた。...だから忘れていても...。


.........だめ、返さなきゃいけないお金はちゃんと返さないと。


だが、目の前の誘惑にはとても勝てる気がしなかった。


そう、少しだけなら。それぐらいは許してもらえるだろう。借金返済に期限はなかった。延期ということで。


思い切ってお店の中に入る。


「「いらっしゃいませーー!」」


ビクッと途端なことに反応してしまったが、ぎこちない笑顔を浮かべる。すると、一人の女性が近づいてきた。


「お客様とても綺麗ですね。どんなお洋服を求めてらっしゃいますか?」


「えーっと、特に決まってなくて...」


メーアの街とは比べものにならないほど接客が整っていることに慣れてなく、落ち着けない。公爵家の令嬢ならそれくらいどうってことないと思うかもしれないが、令嬢として扱われたことは一度もなかった。


「お客様ならなんでも似合うと思いますよ」


と、いうとその女性店員は服を探しに店内を走り回った。そして着々と服の山ができていた。


「これくらい、試されてはどうですか?」


アレを指しながら言う。期待に満ちた顔で言われたら否定できない。渋々試着をしについて行った。


ここは本当に平民が着る服の店なのだろうか。それにしては接客が良過ぎるし、服の品質も高いような。でも、ここは王都だからそれぐらいが普通なのかもしれない。


なんてことを考えながら体を思うがままに動かされる。それにいつの間には人は一人から3人に増えており、私は身動きが取れなかった。


「「...」」


最初らへんは普通にお着替えを楽しんでいたのだが、途中から疲れを覚えてきてしまった。それでも必死に耐えていると、やっと最後の一着の試着が終わった。


「もうなんでも似合いますね!お客様は!スタイルも良くて美人なんてこれから将来苦労しないですね。ちなみに婚約者はいるんですか?」


「ここここ婚約者...?」


「あらー、いないんですかー。いてもおかしくないのに〜」


顔が赤い私に気づかないまま婚約者話を始める店員に慌てて止めを指した。


「も、もうお金を払おうかなっと...」


「はい、ではどれをお買い上げになりますか」


「......」


お気に入りのものは少なからずあった。だが、山に埋もれてその中から探すのは骨が折れる。そして見るからにどれも高級そうなものばかり。


「これ全部一体おいくらに...」


「だいたい金貨9枚です」


私の全財産のほぼ半分持っていかれるということになる。だが...洋服はどれも可愛かった。


「うぅ...」


欲しい、だが...やっぱり欲しい...でも!!


結論に辿りつかないまま、頭を混乱させていると、気づけばお店の外に出ていて、両手いっぱいの袋を握っていた。


「...あれ」


無意識、で買ってしまったらしい。そして気づく。もしや私、無駄買いをしてしまったのではないかと。冒険には使えないし、そんな服をきて過ごすとは思えない。


「......節約と自分の欲望を抑えることを覚えなきゃ」


また、ディル先生の出番かもしれない。




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