28
一日はすぐに終わった。もう下校の時間で、これからカラオケに向かう人たちは早々に部屋を出て行った。私もそろそろ家に帰ろうとバッグを持つと、誰かに手首を握られた。
ディル、また私に関わってくるなんて。
そう思い、振り返るとディルではなくクラスメイトの黒沢翔だった。
「黒沢くん?」
彼は俯きながら、私の手首を握っている。
「ちょっと...ついてきて」
私は彼に引っ張られ、校舎裏へとついて行った。
まさか、と思う。
こんなテンプレな場所であんなテンプレなことを言うわけが。
「す、好きです。付き合ってください!」
彼は見事90度腰を曲げ、私に向かって言った。
「...あ...え、と」
くるとは薄々気付いていたものの、断れない。
だが、断らなければ。これは私の人生に関わる選択になるかもしれない。
「ごめんなさい、でも気持ちは嬉しかった」
見事、私の口からもテンプレなセリフを出す。すると、翔は驚いたかのような顔をしていた。だがすぐにつまらなさそうな顔をする。
「あー...そりゃ簡単に落ちないか。学校一の美女を彼女にしたら俺の格が上がると思ったのになぁ」
私は黙り込んだ。怒りで爆発しそうだった。とにかくこの場で彼と同じ空気を吸いたくないと戻ろうとするが、彼に肩をグイッと引っ張られ、壁に押さえつけられる。脚の間に彼の膝が割り込み、逃げられない。
「なら無理にでも俺のものにすればいいんだよ」
彼の眼差しは、気持ち悪かった。
同時に自身への危機感を感じ、必死に抵抗する。彼を強く押そうとすると手を掴まれ、上へ固定されてしまった。
顔が近づく。
「誰かっ...お願い...助け...」
いやだ、彼となんて絶対にいやだ。顔を必死に背けるが、それには限界がある。
ここは校舎裏、人がくるところではない。誰も、助けにはこない。
「.....っ!!コイツっ!!」
私は片足を使って思いっきり彼のアソコを蹴った。全ての力から解き放たれ、私は逃げる。必死に悲鳴を堪えている翔を後にして。校舎に戻った後、私は教室の自分の席に座り、上半身の体重を机に乗っけた。
怖かった。すっごく怖かった。
人がいない教室を見ていると、また恐怖が湧き上がってくる。走り疲れているにも関わらずバッグを持ち、学校から走り出る。
家へ家へと。とにかく彼から離れたい。
曲がり角に家が見えてきた。
家だ、家へたどり着ける。
自然と口角が少し上がる。すぐに玄関の扉を開けると、そこは、全く別の世界だった。
「え...」
ポトっとバッグを落とす。
ここは確かに私の家であり、私の玄関の扉だ。なのにどうして、どうして開けた先は中世的な世界なのか。
「あれ、成功したのかな」
そこからひょっこり現れたのは、私のよく知っているディルだった。
彼は今学校に...え、服装も違う。このディルは誰、あのディルは誰...。
二つの記憶が私の頭の中を渦巻く。
一体どっちの記憶が私の本当の記憶なんだ。
とんでもない情報量に私は失神してしまった。




