第40話
かなり寒いですね。皆様なにとぞお体に気をつけてください。
いつもありがとうございます!
夜の夜景の中から熱くもゆる赤い髪の毛、そして大きな角と尻尾。
寒いところは苦手だと言っているような首元に巻いたボロいマフラーと「Scum」の部員だけが着ることができる黒いセーラー服はどことなくほんのりしたノスタルジアを呼び寄せる。
左には黄金の太陽、右には燃え盛る赤い月。その色違いの瞳の中に映っているのはただひたすらの静寂のみ。
腰にかかっている長い刃物は掠っただけでも大怪我をしてしまいそうにその鋭い威容を示しているだがその刃を包んだ皆を守ろうとする強い意志はとても温かくてほっとするものでした。
この学校に来る前はどうしようもない問題児として名高った彼女。今は「Scum」の副部長になってその生命を燃やして生徒達を守っている彼女の名前は「結日優気」。
学年は2年生で「Scum」の部員達を含めて魔界側の生徒達から全面的な支持を受けている彼女は正真正銘、私の傍にいるこのどうしようもない変態団長さん「結日優奈」のたった一人の妹さんです。
でも姉妹というにはあまりにもそっけない空気。二人さんの中にはそういう情の欠片もなさそうに見えていました。
何か考え事もでもあるのか静かな目で窓から街の夜景を眺めているゆうきさん。そしてその初めて見せる不安な目でそのゆうきさんを見つめるゆうなさん。
一体この姉妹さん達に何があったんでしょうか…
「あの…ゆうきちゃん?」
席から立ってそっとゆうきさんのところに向かうゆうなさん。その手の中には先輩から焼いてくれたお菓子が大切に持たれていました。
「良かったらゆうきちゃんも一つどう?」
っと慎ましく袋からお菓子を一つ取り出してゆうきさんに勧めるゆうなさん。
夜の電車はもう誰もなくて静かだったけどその合ってから初めて見る彼女の不安な姿に私の心は自分にもどうにかできないほど騒がしく走っていました。
「姉さん…」
そしてそんな彼女の見て初めて口を開けるゆうきさん。
「Dirty」という名前のガールズバンドのボーカルをやっている彼女の声は決して初めて聞くものではありません。私だって「Dirty」の大ファンですしテレビなんかで何度も彼女のことを見てましたから。
でもその声は私が知っている「Dirty」の自身に満ちたゆうきさんではなく、か弱くて小さなゆうなさんの妹さんであるゆうきさんの声だったので私は少なからず驚いてしまいました。
「み…見た目はちょっとあれだけど本当に美味しいから、これ…」
「見た目だけの問題ではないと思いますが…」
っととっさに突っ込んでくるゆうきさん!っていうかめっちゃ食べたくねぇって顔!
「ご…ごめん…お姉ちゃん、また失敗したんだ…」
珍しくすんなり謝ってしまうゆうなさん。ゆうなさんの落ち込んだ顔…なんだか心がズキッとして痛い…
性癖はちょっとあれだけどあんなに元気だったゆうなさんさんがまさかあんな顔をするなんて…
どうやら二人さんの間には私が思っていたよりもっと深い事情があるらしいですが事情も分からないのに勝手に口を挟むわけにはいかないし…
「相変わらずですね。姉さんも。」
「そ…そうかな…えへへ…」
っとぎこちなく笑っているゆうなさんに向けて口元にそっと薄い笑みを浮かべるゆうきさん。あれ?以外に仲悪かったりしないのかな。
私は「Scum」と「百花繚乱」の上層部の二人さんだからてっきりそういうものではないかと思ってたんですがどうやらそれはなかったようです。
ならどうしてあのゆうなさんがあんなにかしこまっているんでしょうか。
っていうかさすがにあのゆうなさんだって妹さんにはパンツ見せてとかは言わないんですね…良かった…
「でもいいんですか。私なんかに構っていても。」
「百花繚乱」の団長のゆうなさんと「Scum」のゆうきさんが姉妹ってことはもうよく知られている事実です。
でも聞いた話によるとゆうきさんは家の事情で今までずっと一人で暮らしていたそうです。だから姉のゆうなさんとの記憶も少なくて自分の姉にもあまり話を掛けたりはしないらしいです。
それにゆうきさんはこの学校に入学する前までは東の地区で「Twisted」という名前の暴走族を率いてたそうです。警察に世話になったことも結構多いらしくて1年生の中では結構怖い人として知られているゆうきさん。
彼女は誇り高い「百花繚乱」の団長が自分みたいなろくでなしに構ってはいけないと自分の姉にそう言っていました。
「父さんが知ったら大変なことになります。「龍」はどこに行っても注目される種族だからこういう場所で私に話しかけたりするのは控えた方がいいです。それに今「百花繚乱」と「Scum」は抗争中ですから。やっぱりこういうの、良くないと思います。」
「そ…そうか…うん…そうだね。ごめん…」
ゆうなさん…また謝る…
あの自信満々で人の目を全く気にしなかったゆうなさんはあんなに低い姿勢で妹さんに謝っている…そのことは彼女達が正常の関係の姉妹ではないことを証明していてそれを見届けていた私は
「な…何か言わなきゃ…!」
っと自分を急かしていました。
でも事情も分からないくせにあの二人さんになんと言ったらいいのか…!っとそう悩んでいるうちに
「えへへ…振られちゃったね…」
いつの間にか私の隣の席に戻っていたゆうなさん。
あの時のゆうなさんは悲しい顔をしていました。
どこから間違ってしまったのかそれさえ分からなくてどうしたらいいのかっと言っているような顔…
私はそんな彼女の手を何も言わずギュッと握りしめてあげることしかできませんでした。
***
「あ。みもりちゃん。」
連絡を受けて駅から私のことを待っていた先輩。電車から降りた私を見つけてすぐこちらへ向かった先輩は
「遠かったでしょう。お疲れ様でした。」
っとそっと私の手を取ってくれました。
「えへへ。みもりちゃんの手、温かいですね。」
先輩の手…もうこんなにかちかちになって…桃色のほっぺもこんなに赤くなっちゃって…お家で待っていてくれてもいいって言ったのにわざわざ待っててくれたんですね…
「すみません、先輩…こんな時間に呼び出してしまって…」
「いえいえ。私は大丈夫ですから。みもりちゃんの手、ちょっと当てていてもいいですか。」
「あ、はい。どうぞ…」
っと私の手をその赤くなってほっぺに当てて少し体を温める先輩。
手袋の向こうから伝わってくる先輩の体温。なんという暖かさなんだろう…これはまるで芽生える春の陽気…
「えへへ…みもりちゃんの手、本当に温かくて気持ちいいですね。ずっとこうしたい…」
「もう…そういう話は恥ずかしいですから…」
「えへへ。ごめんなさいー」
っといつものように笑ってしまう先輩でしたが私には分かりました。私が来る前にもう一度先輩が泣いていたことを…だって先輩の目、腫れていましたから…
「とりあえずまずは場所をちょっと変えましょうか。ここじゃゆっくり話しできなさそうですし。」
「あ、はい!どこか体を温められる場所を…」
「ところでみもりちゃん一人ですか。」
急に私の後ろの方をきょろきょろする先輩。誰か探しているんでしょうか。
「いいえ、そういうわけじゃないんですが。ただあの紫村さんならこんな時間に生徒を無防備に行かせないと思って。」
「あ、そうだったんですね。一応護衛で「百花繚乱」のゆうなさんと「Scum」のゆうきさんが一緒に来たんですが気を使わせたくないから隠れているって言われたんです。」
別に一緒にいても構わないんですけどね…
「そうですか。ゆうなちゃんとゆうきさんが…」
っと心配そうな顔の先輩。
さすが先輩…先輩だってもう分かっていたんですね。ゆうなさんとゆうきさんのこと…
「そうですね…やっぱり気にしてしまうのですよ、お二人のこと…ゆうなちゃんは私の友達ですしゆうきさんはその妹さんですから…何か事情があるのは確かですがゆうなちゃん、妹さんのことに関しては一言も言ってくれないんです…」
優しい先輩…お友達さんのゆうなさんのことをこんなに心配しているだなんて…
先輩だって青葉さんとのことで辛いはずなのにこんなに皆のことを心配してくれる…それだけで私は先輩のその優しい気持ちのことを尊敬してしまいます。
本当は私だってなんとかしてあげたいです。でも私は二人さんのことについて何も分かっていませんから…ゆうなさんのことだって正式に挨拶したのは今日ばっかりですし…
ゆうなさんのことだけではないです。本当は先輩のことも、この学校のこともなんとかしたいです。
私はこの学校のことが本当に大好きでこの学校で活動している全てのアイドルが大好きですから。あんな戦うために活動する辛そうなアイドルは悲しくて耐えられません。
でも今一番やりたいのはただ先輩を元気づけたいってことだけです。だって先輩泣いていたんですもの…私をもう一度アイドルにさせてくれた先輩が泣いていたんですもの…
だからなんとかこの先輩の力になりたいっという気持ちだけはちゃんと伝えなければ…!
「まあ、一先ずちょっと歩いてみましょうか。そろそろ体も冷えるきましたから早く温かくなりたいですね。」
「あ…!そ…そうですね!気づかなくてすみません!」
「いえいえ。」
そ…そうでした!先輩、私が来る前までずっと外で待っていましたから…!早くどこか入らなければ風を引いちゃうかも知れません…!
そうやって先輩と一緒に少し周りを歩くことになりましたがやはりこの時間じゃどこも開いたりはしませんね…
居酒屋とかには入れませんしカフェも全部しまっていて中々いいところが見つかりません…
やっぱり電話の方が良かったかな…
「ふう…」
凍っている手を息を吹き入れ込む先輩。ど…どうしよう…!先輩、本当に寒そうかも…!
「先はごめんなさいね?みもりちゃん。」
「え…?」
急に私に謝りたいと話を掛けてくる先輩。でも謝りたいのはむしろこんな時間にいきなり呼び出した私の方…
「そうじゃなくてですね?先はあまり先輩らしくなかったから。部活まですっぽかしちゃって面目ないなっと思ったんです。みもりちゃん、あんなに熱心で私達と一緒にしてくれているのに。」
「そ…そんな!私は全然平気です!」
「うふっ。ありがとうございます。やっぱりいい子ですね、みもりちゃんは。」
っと急に私に腕を組んでくる先輩!せ…先輩!?いきなりどうしたんですか!?
「えへへ…もうちょっとこうさせてくれませんか?みもりちゃん、体もポカポカして本当に気持ちいいですし。」
「わ…私は別にいいんですけど…!」
でもこれは何ていうかさすがにちょっと恥ずかしくて…!っていうかこういうの、ゆりちゃんに見られたら絶対怒られちゃう…!
でも人並み以上体温が高い先輩がこんなにかちんこちんになってしまうほど私のことを待っててくれたんですから…ここはちょっと恥ずかしくても私が我慢するしか…
「えへへ…♥こうしていると何だか「恋人」みたいですね…♥」
ってちょ…!ちょっと…!急に変なこと、言わないでください…!私の方から意識しちゃいますから…!
それにしてもこう見ているとやっぱり綺麗ですね、先輩…背もすらっとしてて高いし、スタイルも抜群…それにおっぱいだってもうこんなに大きくて羨ましいって思っているところがいっぱい…
桜風に靡く薄らっぽい桃色の長い髪の毛はまるでおとぎ話から飛び出してきた桜の妖精のように華やかで不思議な雰囲気を醸し出す。
その上、星の輝を散りばめたようなその無垢な瞳はひたすらの清くて優しい視線でこの世界を見つめ、慈しんでいる。
それがどれほど愛しくて心安らがせるものなのか言葉では語り切れない…
私は初めて先輩を見た時、いかにも大きな衝撃を受けてしまったのです。
それはまるで空から舞い降りてきた桃の妖精。なんてきれいな人なんだろうって…
通り過ぎの人達をその姿を一度見かけただけで何度も後ろを振り向いて、その美しさに今自分がいる世界は幻の世界だはないかと勘違いまでされてしまう。
私から見ると先輩はそんな嘘みたいな人でした。
その先輩が今はこうやって笑ってくれている…それだけで私が今日ここに来た理由は十分足りています。
「あ!あそこならちょっと休んで行けそうですね!みもりちゃん。」
「本当ですか?どれどれ。」
っと先輩が指で指した建物を見たその瞬間、その建物の正体を実感してしまう私。
その時の私は「良かった…まだ開いている店があったんだ…」なんてことを安心してしまった自分の馬鹿らしさを心底から後悔してしまったのです。
「すっきりしてきれいなところですね。ほら、これ見てください。シャワー施設もあるらしいです。良かったんですねー私、体が冷えて早く温めたいなって思ってたんですよ。」
「ええ…!?」
こ…この人、本当にあそこがどこなのか知らないの!?
ノリノリになって早く行きましょうって私の腕を引っ張ってきた先輩!でも私は決してそこが私達みたいな生徒達が行くにはまだ早いっということをよく知っていました。
「せ…先輩…!ダメですよ…!私達にはまだ早いっていうか…!いけないっていうか…!」
「どうしてですか。」
この人、本当に知らないわけ!?
つかの間の休憩を取るにはちょうどいい場所を手頃な値段で提供してくれるその施設は最近利用者の便宜のため色んなことを備え付けています。
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当然今の私達にも支払いを済ましたという条件に限ってそのサービスを提供してもらう権利があるんですが
「ぜ…絶対ダメですから…!」
私はなぜかその中に今の私達が入ってはいけないってことをよく知っていました。




