第41話
いつもありがとうございます!
「なんでですかー早く行きましょうよー」
「だ…だからダメですって…!」
私をグイグイ引っ張ってねだり始めた先輩。でも私はこれ以上先輩をその建物のところに近づけさせるわけにはいきませんでした。
おしゃれですっきりした外見は確かにいいです。私だって今日は色々あって少しくらいはゆっくり休みたいですし。ここに来る前までにずっとプールで泳いでいましたからちょうど心地よい疲れです。
でもあそこはダメです!あそこに行ったらきっと…
「みもりちゃん…♥マミーにたくさん甘えてください…♥」
っと変なシチュが起きてしまうかも知れません!っていうか先輩なら絶対ありそう!
でもここはやっぱり私が先輩を止めないと…!
「だから私達にはまだ早いですって…!」
「私達、もう大人ですからお酒屋とかのところじゃなければだいたいはオーケーです。」
「そんな問題じゃなくてですね…!」
「いいからいいから~」
もう入る気まんまんじゃん!!って
「あら。あの子達見て。」
「えー?今日やるの?頑張ってねー」
何応援しているんだ!?あの人達は!?
ダ…ダメです…!通り過ぎの人達にまで変な目で見られてきました…!一刻も早くここから離れたい…
「ってあれ…?ゆりちゃんからのメール…」
っと困っているところに来たのはゆりちゃんからのメール。
携帯を出して確認したそこには
「みもりちゃん♥私に一言も言わず先輩のところにお出かけしたんですか♥それに電話にも出てくれなくて♥色々話したいことはたくさんありますがくれぐれもホテルなんかには行かないようにしてくださいね?♥あなたのゆりはこんなに胸を焦がしてあなたのことを心配しているのにあなたは私にも知らさず先輩と楽しくてデート♥ぜひ心ゆくまでお楽しみくださいね?♥」
って半分の心配とまた半分の殺気が混じった凄まじいオーラの長文のメールが届いていました。
ってえええ!?着信がもう何十件も来ている!?先輩やゆうなさんのことで全然気が付かなかったんだ!私!っていうか地味に怖いんですけど!?
「ゆりちゃん…めっちゃ怒ってる…」
まあ…そりゃそうかも…昨日あんな目に遭ったばかりなのに勝手に一人でこんな夜中にお出かけしちゃったんですもの…寮長の紫村さんから護衛のことは教えてくれたはずですがそれでもやっぱり不安なのは仕方ないかも…後でちゃんと謝らなきゃ…
まずは「うん。ごめんね、ゆりちゃん。早く帰るから。」っと…
「って即返事!?」
今送ったばかりなのにもう返事来ている!もしかしてゆりちゃん、今ずっと携帯の前で待機しているの!?ごめんね!本当にもう…!
ってこれ、写真?どれどれ…
「あらまあ。」
「うわぁ!?怖っ!」
ゆりちゃんから送った写真を先輩の前で開いた時、私の画面をいっぱいしたのは
「愛してます♥みもりちゃん♥」
っとすごい顔で笑っているゆりちゃんの写真でした!
なにこれ!?まじで怖いんですけど!?
「ゆりちゃん、ニコニコしていますね~可愛い~」
「いや…!これ、絶対怒っているんですよ…!」
笑っているけどその笑顔の向こうに隠れている恐ろしい圧…!子供の頃からゆりちゃんとずっと一緒だった私だからこそ分かります…!これ、絶対めっちゃ怒っている顔です…!
やっぱり何も言わずにこんな時間に一人で出っちゃったのはまずかったかな…!でもゆりちゃん、生徒会の仕事でいつ終わるか分かんなかったし…!
ど…どうすれば…!
「でもゆりちゃんはただみもりちゃんのことが本当に心配になっただけですから。」
っと戸惑っている私にゆりちゃんの気持ちについて話してくれる先輩。
その時、私はこう思いました。やっぱり先輩って本当に優しいんだなって。ゆりちゃんのこともこんなに気遣ってくれて…
「だからゆりちゃんが喜んでもらえるようにみもりちゃんの気持ちをいっぱい込めて返事してあげましょうね?」
「あ…!はい…!」
ゆりちゃんに喜んでもらえるように私の気持ちを込めて…
えっと…「私も愛しているよ、ゆりちゃん。いつもありがとう。」っと…
ってなんか返事来ないんですけど!?大丈夫!?ゆりちゃん!?もしかしてなんか具合でも悪くなったり!?
「あ…多分嬉しすぎて体が追いついていないかと…」
なんで分かるんですか!?先輩!?
「まあ…ゆりちゃんって結構単純ですからね…特にみもりちゃんのことになると何を考えているのか顔に全部だだ漏れですし…」
ゆりちゃん、以外に周りから結構単純って評価されていたんですね!でもなんか分かる!
「っていうかみもりちゃんってよくこういうの、さり気なく言っちゃうんですよね…愛しているとか…まさに天然…」
そして私は案外周りから天然と思われていました。
「それにしてもそろそろ冷えてきましたね。早く入って温まりたいかも…」
ってまたこっちの話に戻った!!
ど…どうしよう…!今は知らないような様子ですが中に入ったら絶対気づきますよ…!
私、ゆりちゃんから聞いたんです!あそこに行けば絶対そういう気になるから自分以外の人とは近づかないように言われたんですから!っていうか自分はいいのか!
「私の家までは結構遠いからこの辺でなんとかしたかったんですが開いているお店があって良かったですねー」
「じゃ…じゃあ…!先輩のお家で話しましょうか…!タクシー呼んで…!」
「でも夜間の料金は高いし何よりみもりちゃんの帰りが大変になりますから。終電に間に合わないかも知れませんし。」
これもダメか…!
「私、前から一度入りたかったんですよ、ここ。おしゃれできれいなお店だなって思って。なんでこんなに大きいのかは分かりませんが上からは夜景とか見られると思って素敵だなって。前にセシリアちゃんが誘ってはくれましたがなぜかうみちゃんに阻止されて…」
っと急に言葉を曇らせる先輩。でも今…確かに青葉さんの名前が聞こえたような気が…
「あ…!ごめんなさいね…!何でもありませんから…!」
「先輩…」
そして今のことをなんとか誤魔化そうとする先輩でしたが私には分かります。だって先輩は中身もすごく素直な人ですから。
失礼ながら私は先輩のことを単純な人だと思います。でも単純だからこそこの人が何を考えているのか分かるから先輩のことが大好きです。
下心などない純粋で清い心。いつも他人のことを気に掛けてただひたすら皆と仲良くなって大好きなアイドルをやりたいっという気持ちを伝えたいと思っている人。私はそんな先輩が本当に大好きでした。
そして先輩にはいつまでも笑って欲しいと心から願っています。
「だからもし先輩に本当に好きな人ができたらあのお店に行ってください。あそこでお互いの愛を語り合ってもっと幸せになってください。私は笑っている時の先輩が本当に大好きですから。」
もしあの時が来たらその人の手を握って先輩から言ってください。大好きって、愛しているって。
先輩の大好きを伝えて、あの人の大好きを全部受け取ってください。そうやってもっと笑うようななる先輩を、幸せになる先輩を私は見届けたいです。
多分それが私にできる先輩への恩返しだと思いますから…
「みもりちゃん。」
ふと右手から感じる先輩の体温に気がついた私。振り向いたあそこにはいつもの私の先輩が私を見て微笑んでいました。
春のような温かくて優しい笑顔。その笑みには凍った手も一瞬で解きほぐれてしまうほどの温もりがいっぱい詰まっていて私の中に先輩の温かい気持ちが流れてきました。
「ならやっぱりみもりちゃんと一緒に入らなければなりませんね。」
そう言ってすごい勢いで私の腕を引き付けてその熱い胸に引き入れる先輩。ほんのりした桃の匂いとほっとする安心感に気を失われそうでしたが私は決して先輩の話を一言も聞き逃さないようになんとか自分を引き締めました。
耳がとろけそうな甘い声。まるでお花畑で舞い踊っている蝶々の羽ばたきのように私の耳元をくすぐる先輩のふんわりした声は私にこう言いました。
「だって私はみもりちゃんのことが本当に大好きですから。」
「虹森美森」。その日、私は生まれて初めてゆりちゃん以外の人から大好きって言われました。
***
「もうー結局一緒には入ってくれなかったんですね。みもりちゃん。」
「当たり前でしょ!?」
うう…やっぱりこの人って…!
結局私はなんとか先輩をあそこから引き離すことができました。あそこまで言われたのになんで行かなかったの?っと言われたらなんて言いのか迷ってしまうのですがとにかく私はなんとか自分の貞操を守りきることができたのです。
幸いまだ開いているカフェを見つけてそこでお話することになりましたがもしそのままだったら一体どうしたらいいものなのか…
「つれないですね、みもりちゃんも。何をする場所なのか知りたかったのに。」
「ダメに決まってるんじゃないですか!だってあそこは恋人同士があれをやるところですから!」
「あれって?」
いかん…!余計なことを…!
「あれってなんですか?」
「ええ…!?」
ってええ!?本当に知らないってわけ!?嘘でしょ!?
本当に何も知らないような顔…!でもその顔は今の私にとってあまりにも不利なものでした…!
「ほ…本当に知らないんですか…?」
「もう…先からみもりちゃん、ずっともったいぶっちゃって…もしかして嫌がらせですか?」
「いいえ…!絶対そういうもんじゃないですが…!」
だってこんな顔見られちゃったらもう教えずに済まないから…!
ほっぺを膨らませてぷんすかしている先輩は困りながらも可愛いですけどこの人、まじで私にそれを言わせる気!?
「教えてくださいよ~マミーがこう頼みますから~」
「え…えっと…!」
ついにねだってきた先輩…!で…でもどう説明すればいいのか…!
「えっとですね…なんていうか…こう恋人同士で体を合わせて…」
「ふむふむ。」
って何傾聴しているんですか!?でもこれ以上誤魔化したら先輩もっと怒りそうだしここで止めるわけには…!
「こう…」
っと両手をピースにしてそれをお股の形で重ね合わせて精一杯今の自分の頭の映像を再現しようとする私!
そしてそのめっちゃくちゃな説明を目を光らせて聞いている先輩は褒めてあげたいくらいの優等生の目をしていました!
うわぁ…!なにこれ…!本当に私がやるの…!?
「スリスリっと擦り合って気持ちよく…」
「スリスリって…一体に何を…それに気持ちよくとは一体…」
えええ!?そこも説明しなきゃダメなの!?
でもやっぱり先輩だって知らなければならないと思います…先聞いた話によるとなんか会長さん、先輩をあそこに連れて行こうとしたようですから…
先輩にもちゃんとした判断ができるようにここは私なりにちゃんとした説明を…!
っていうかあの人、本当にいつも何しているの!?
「だからですね…?私や先輩にもあるところですよ…」
「私とみもりちゃんにもあるところ…なぞなぞでしょうか…」
全く掴んでない!この人!
やっぱりはっきり言わなきゃ分からないのかな…!でも周りに人もいるのにこれ以上自分の口からこれをいうのは抵抗感が…!っていうかもう気づいてくださいよ…!
「だからあるじゃないですか…その…女の子の大切なところが…」
「女の子の大切なところ…」
その時、なんとかピンときたような顔で何か気づいたような先輩!さすがにここまで来たら知られてしまうんでしょう…!
「あ…あ…!」
一瞬で真っ赤になった恥ずかしそうな顔!火照って言葉もうまく出ていないこの様子を見ると今自分が何を聞いていたのか気づいたようです!
でもその説明をしていた私の方がもっと恥ずかしいですから今になって恥ずかしがるのは止めてください…!
「あ…!す…すみません…!みもりちゃん…!違います…!私は決してそういうつもりで…!」
まるで壊れたラジオみたいに言葉までどもって決してその意図ではなかったということを主張する先輩。
でもそれくらいは私も知っていますから…ただやっぱりこういうの、自分の口で説明するのはちょっと苦手っていうか…
「ごめんなさい…!ごめんなさい、みもりちゃん…!私、なんてことを…!」
「いいえ…もう大丈夫ですから…」
はわわわ…!って顔で何度も私に謝る先輩でしたが私はやっと元の先輩に戻ってくれて安心しました。これからはちゃんと気をつけてくれるはずでしょう。
これで私の努力も無駄じゃないかも…
「じゃあ…!セシリアちゃんは私とセ…セックスしたかったという…!っていうかむしろ私の方からみもりちゃんを誘ったのでは…!」
「あはは…」
「わ…私ったら一体なんてことを…!恥ずかしいです…!」
良かった…先輩、元通りになってくれて。
でも今更恥ずかしがるのは却ってこっちが気難しくなっちゃいますからもう止めていただけますか…?
「うう…」
「まあまあ…もういいですから…」
思いっきり恥ずかしがっている先輩をなんとか落ち着けてそろそろ本題に入りたいと思う私。
でもどんな話題で始めたらいいのか少し迷っちゃいますね…
「あ…あのですね、みもりちゃん。」
「はい?」
っと少し考え込んでいた私を呼ぶ先輩。
頭を上げて見上げたそこにいる先輩の目は何か決心でもしたのか強い意志に満ちていました。
「まず私からみもりちゃんに大事な話があるんですがいいですか?」
「大事な…話?」
なんという決心に満ちた目…こんな先輩…初めてかも…
一口したコーヒーのコップを下ろして落ち着くためゆっくり息を吸う先輩。
閉じられた両目から感じられるその強い意志は戦場の前で覚悟を決めた戦士の目を思い出させるほど並々ならぬ重みを持っていて私の緊張感はどんどん促されてしまいました。
そしてついに腹をくくって口を開ける先輩。そのコーヒーの匂いが染み込んだ先輩の一言を聞いた時、
「私は「未来」から来ました。」
私は自分の耳を疑わざるを得ませんでした。




