モテモテ99
「ふー。こっちの方もスッキリスッキリ」
イメージ的には一リットルぐらい出た気分だ。
清々しい気持ちでトイレを後にする。
外に出て最初に目に入ったのは、佇む美少女の姿。
しかも、あろうことか彼女には見覚えがあった。
オレンジ色の三角ビキニ姿の彼女は、目鼻立ちは勿論整っているし、スタイルもいい。それと純白の濡れた肌が艶かしい。
「す、スーパーの君」
思わず声が漏れていた。
すると、「ん?」と此方に視線を向けてきた彼女の目付きが鋭くなる。
「誰がスーパーの君だっ!」
「すまない。名前知らなかったから、つい。カレーの君の方がよかったか?」
「どっちも嫌に決まってるんだけど! それに名前知らないとか、なにとぼけてんの?」
「いや、本当に知らないんだけど……」
「はぁ?」
正直に言っただけなのにどうやら凄く怒っている。
確か、スーパーで会った時も俺に見覚えがあるような口振りだった。
あの時は彼女の勘違いだと片付けてしまったが、もしかして知り合いの可能性も……
だとしてもこんな美少女の友達……いたか?
小中の知り合いというのはあり得ない話でもないが、仲良い奴は全員男だったから開幕見当もつかない。
頭を悩ませていると、二人の少年の声が聞こえる。
「ゆう姉。待たせたな」
「ゆう姉ちゃん。お待たせ」
声の方に視線を向けると、小学生低学年ぐらいの少年が二人立っていた。
顔は瓜二つなので、双子で間違いなさそうだ。
美少女は二人に返事を返す。
「しっかりとトイレできた?」
「おうよ。なぁゆうた」
「そうだね。ゆうと」
「ならよかった」
どうやら名前はゆうと、ゆうたと言うらしい。それにさっき呼ばれていたし、彼女の名前はゆうと言うのだろうか?
だが、ここで俺は念の為一つだけ確かめたい事がある。もう一度言うが念の為だ。
「ちょっといいか、まさかとは思うけど姉という名のお母さんだったり?」
「はぁ? 馬鹿じゃないの! この変態。異常者!」
「いや、言い過ぎだと思う」
本当に言い過ぎだと思う。
今後の可能性があるか考慮して一応聞いただけなのに……因みに可能性とは彼女と俺が結婚する可能性である。
そんな妄想をしていると、二人の少年が俺の前へと飛び出してきた。
「おいお前! ゆう姉をいじめるな!」
「そうだ! ゆう姉ちゃんをいじめるな!」
姉を守ろうと凛々しい表情をした勇敢なちびっ子戦士達に、慈愛に満ちた表情で語り始めた。
「大丈夫だ。心配ないぞ坊主達。俺は女性をいじめたりは決してしない。何故ならリスペクトしているからだ」
「リスペクトってなんだ?」
「なんだろう?」
初めて聞く言葉に首を傾げる二人。俺は中腰になり説明を始めた。
「リスペクトって言うのはな。簡単に言うと好きって事だ」
「おお、それなら知ってる」
「僕も知ってる」
そう。『好き』は好意を伝える言葉。
この言葉を知らない人間は居ない。もはや人類に必要不可欠なモノと言えよう。
この言葉が無ければ人類は疾うに滅びていたに違いない。
そんな素敵な言葉が聞こえてしまったのだろうか、美少女が取り乱している姿が見えた。
「あ、あんた。なんてこと言ってんのよ!」
「わかりやすく例えただけだ。気にするな」
軽くいなすとゆうたとゆうとは話しを始めた。
「きっと二人は仲良しなんだな」
「そうかもしれないね」
「二人は黙ってなさい!」
姉に怒られるが反省の色は見えない。
「怒られたぞ。ゆうた」
「そうだね。ゆうと」
その風景を眺め和んでいた俺は口を開く。
「仲のいい姉弟だな」
「そうよ。文句ある?」
「文句なんてある訳ないだろ。それより、なんか引き止めて悪かったな」
「別にそれは構わないけど……何か用事とかあるわけ?」
照れ臭そうに髪の毛を弄っているのは置いておくとして。
別に用事というほどのものは無いし、どう返事をすればいいものか……
まぁ、考えても碌なアイデアが浮かびそうにないので正直に答える事にしよう。
「いやぁ、久しぶりに再会できてテンションが上がってしまってな」
彼女は頬を紅潮させぶつぶつと呟く。
「……確かに久しぶりだけど、会おうと思えばいつでも会えるじゃん」
「えっ? 流石にいつでもは会えないだろ」
事実を述べたのに、信じられないと目を見開く彼女は力強く一歩前に踏み出してきた。
「何をバカなこと言ってんの? 同じ学校なんだからいつだって会えるでしょ! 本当にバカッ!」
バカバカ連呼されて何か思い出せそうになり、手の平を前に出した。
「……ちょっと待ってもらっていいか?」
「いいけど」
さっき同じ学校って言ってたよな。それにあの憎たらしい態度。何処かで聞いたような声。聞いた事がある名前。
俺の推理が正しければこいつの正体は……
「お前。木崎由だな」
「そうだけど、今更なに?」
首を傾げながら全力で煽られたので、全力で声を張り上げた。
「今更も何も別人じゃねぇか! 鏡見て出直してこいや!」
木崎は自分の顔を触った途端、何かに気づいたのか顔を両手で覆いしゃがみ込み、
「……あ、ああああああああああああああっ!」
と悲鳴を上げた。
その姿を目の当たりにしたゆうたとゆうとが急いで駆け寄る。
「ゆう姉。どうした?」
「ゆう姉ちゃん。どうしたの?」
「おい。大丈夫か?」
俺も近づいて声を掛けるが、
「み、見ないでっ!」
とあしらわれる。
「マジでどうした? もしかして二重人格とかなんじゃ……」
「誰が二重人格だ!」
「この鋭いツッコミを見るに、いつもとなんら変わらないように見えるが」
「当たり前でしょ。ただ化粧してないのが恥ずかしいだけなんだから」
取り乱してた理由は俺には到底理解できないもので、予想していたよりも遥かにもちんけな内容だったから溜息を吐かずにはいられなかった。
「……なんだ。そんな事かよ」
「何がそんな事よ。うちにとっては一大事なんだから!」
と覆い隠した手を外し睨みつけてきた。
再度、木崎由の顔を一瞥した俺の口からは自然と言葉が溢れていた。
「そもそも化粧してない方が全然可愛いだろ」
「は、はぁ? なに言ってーー」
顔を真っ赤にさせた木崎の言葉を遮ってゆうたとゆうとに問いかける。
「お前らもそう思うよな?」
「うん。そう思う。でも、よくわからないけどほぼ毎日妖怪に変身してるんだ」
「そうなんだ。僕達がヒーロー役だから妖怪に変身してくれてるのかな?」
「いや、違うから! それに妖怪だと思ってたの?」
弟の発言が信じられなかったのか切実な表情の木崎。
「うん。だよな。ゆうた」
「うん。そうだね。ゆうと」
二人して頷く弟を見て、頭を抱える。
「えっ。ちょっと意味がわからない。私が今までしていた事って……」
絶望の淵に追いやられた木崎があまりにも惨めなのでゆっくりと肩に手を置いた。
「その気持ち、俺にもよくわかるぞ。改めて気付けてよかったな」
そう。俺もトサカヘアーが世界一イカしてる髪型と思っていた時期があったからな。
「気安く触るな。バカッ!」
潤んだ瞳で手を払いのけられたが、今の彼女に比べたら痛くも痒くもない。
「そうだよな。まだ理解出来ていないんだろう。俺はこの辺で失礼するよ。お大事にな」
とても穏やかな表情で木崎を見下ろした。すると、彼女は震えながら立ち上がり叫ぶ。
「哀れむような目で……私を、見るなああああああっ!」
「ゆう姉。落ち着いて」
「ゆう姉ちゃん。落ち着いて」
木崎に抱きつく二人の弟に向かって俺は笑顔で親指を立てた。
「お前ら。姉ちゃんを任せたぜっ」
「「うん。まかされた」」
こくりと頷く二人に納得がいかなかったのか、
「勝手に任すなああああああああああああっ!」
と叫んだ声は空高くまで響いた。




