モテモテ97
各々がポジションに着いたのを確認してから、俺は黒笠に向かって優しくボールを下から弾くアンダーサーブを使った。
「そーれっ」
ゆらゆらと揺れるボールを捉えた黒笠は両手を合わせ正面で捉えた。
「はいっ」
必死な表情でボールを高く弾いた。
因みに水着姿でのアンダーハンドって谷間が強調されて、凄いいやらしい事になっているんですよ先生っ!
このままじゃ集中できないんですけど……先生っ!
新たな刺客が送り込まれ作戦どころではない。
冷静さを取り戻そうとしている俺をよそに黒笠の打ち上げたボールは白石の元へと落ちていった。
透かさず両手を上に掲げ、ボールを包み込むようにして弾く。
「日野さん!」
「はいよー」
日野はオーバーハンドでボールを綺麗に捉えた。
さっきまでの俺は、オーバーハンドならまだどうにか意識を保てると思っていたんだ。
……でも実際はそんなに甘くはなくて、オーバーハンドは基本的に軽く上下運動をする。
しかも胸を張っているから胸元が強調されてしまうんだ。上下運動という事は、即ちめっちゃ揺れるんだよ。
正直、白石ちゃんが打った時はそうでもないと思ったんだ。
でも、日野が打った瞬間……身体に電撃が走った。
こうまでも違うものかと言葉を失っていると、日野からのボールを涼太がオーバーハンドで飾霧へとパスした。
「飾霧さん」
飾霧はしっかりとボールの軌道を捉えると、人魚のように舞い、力いっぱい腕を振り下ろした。
鋭い打球は俺の顔面に向かって一直線。咄嗟に反応し腕で弾いた。
「ーーあっぶね」
高く上がったボールはゆっくりと目の前に落ちていく。その奥で顎を上げ見下す飾霧の姿を捉えた。
「意外といい動きをするのね」
「わざと顔面狙っただろ?」
「そうよ。上の空さんに天中を」
「だれが、上の空さんだ。名前みたいに呼ぶんじゃねぇ」
「さっさとボールを拾いなさい。続きが出来ないわ」
「言われなくてもそうするわ!」
今に見てやがれ。その透かした顔を真っ青に染め上げてやるぜ。
ボールを拾い飾霧に向かってアンダーサーブを放った。
「受けてみろ!」
俺が放ったのは放物線を描くような優しい球ではなくストレート気味の球である。
仕返しの意味も込めて全力で放った。
「その程度」
と嘲笑う彼女は何事も無かったかのようにアンダーハンドを駆使して軽々とボールを上げた。
「この野郎っ」
憎しみに満ちた表情で睨みつけていると、鼻で笑われた。
余裕ぶっこきやがって、次こそ目に物見せてやる。といつもの俺ならこんな感じだろう。
だが、今はそんな事にうつつを抜かしている場合ではない。
白石の方に視線を移しタイミングを見計らう。
順調にボールを繋いでいき、みんなの意識がビーチボールに注がれた瞬間を見逃さなかった。
俺の方に緩いボールが飛んでくる。
待ってましたと言わんばかりに特大のジャンプをする。
身体を弓のようにしならせ、強烈な一撃を白石と涼太のちょうど真ん中にお見舞いした。
凄まじい勢いのボールに涼太は当然の如く反応して取りに行く。
白石も俺との約束を覚えていたのかボールに向かって飛び込んだ。
バジャンと大きく水しぶきがある。
その姿に思わずガッツポーズをしていた。
水しぶきの中から姿を現したのは、涼太が白石をお姫様抱っこしている図。
ーーそんなんなるぅ?
と、一瞬過ったものの抱きつくよりもハードルが高いような気がしなくもないので、作戦は成功という事にしてくれ。
涼太に抱えられた白石の顔は熟れたトマトのように真っ赤になり、頭からは湯気が出ていた。
水も滴るいい男は優しく声をかける。
「大丈夫? ちょっと集中しすぎて周りが見えてなくて、ごめん」
「だ、だ、だ、だい、じょうブィ!」
遠くからでもわかる。だいじょうブィでは、絶対にない。
涼太は心配そうに白石をゆっくりと下ろした。
「本当に大丈夫?」
「うんうんうんうん」
高速で頷く白石の元へ日野と黒笠が駆け寄る。
「二人とも大丈夫?」
「ああ、平気だよ」
「うんうんうんうん」
日野へ爽やかに返事を返す涼太と、また高速で頷く白石。
「本当に良かったです。見ててハラハラしました」
黒笠は心配そうに胸に手を当て安堵の声を漏らした。
「心配かけてごめんね」
「いえいえ」
黒笠は顔と手をやや左右に振る。
それを少し離れた場所で見ていた飾霧が不思議そうに問いかけてきた。
「これは作戦通りなのかしら?」
「いや、どうなんだろうな?」
確かにシュは無くなっているけども、あがり症が治ったとも言い難いし……
「曖昧なのね」
「これでよかったのか、俺にもよくわからないんだよ」
「そう」
飾霧の一言と共にビーチボールは幕を下ろした。




