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モテモテ95




「美味しそ〜」


 日野は瞳を輝かせて頬を緩ませる。


「さすが飾霧先輩です」


「凄い綺麗」


 黒笠は尊敬の眼差しで飾霧を見つめる。白石は料理を眺めながら瞳を輝かせていた。


「どこかで見たような気がするのは気のせいか?」


 一回食べた事があるし気のせいではない。だけどそんな事今はどうだっていいんだよ。


 一人怪訝な様子の涼太の肩を叩く。


「気のせいに決まってんだろ」


「そうか」


 どうも釈然としないといった表情の彼は放っておこう。


「腹も減ったし早速食べようぜ」


「ええ、好きなだけ貪るといいわ」


 飾霧の許しもいただいたので、全員手を合わせ「いただきます」と述べてから各々箸を伸ばす。


 唐揚げを取った俺は一口で頬張る。


「うまっ」


 何度か食べた事があるものの自然と言葉が溢れ落ちる。


 冷めているのに味が落ちるどころか増しているように錯覚する程にうまい。


 玉子焼きを掴み涼太に声を掛ける。


「おい。涼太そっちのサンドウィッチ取ってくれないか?」


「ああ、わかった」


 涼太がやや身を乗り出しサンドウィッチを取ろうとした矢先、俺は飲み物を取ろうと手を伸ばすフリをして彼に向かって軽く体当たりをかました。


「わりぃ」


 体勢を崩した涼太が隣にいる白石へと倒れ込む。


 いっけぇえええええええええっ!


 心で叫び、今か今かとその時を待つ。

 スローに感じてしまう程にその時が訪れるのが遠く感じる。

 欲すれば欲する程に、長く遠いモノだと実感してしまうのがこの世の摂理である。


「はわわ」


 倒れてくる涼太が直視できないのか、白石は頬を紅潮させ手で顔を覆った。


 待ちに待ったその瞬間がやってきた。

 涼太は覆いかぶさるようにして白石ちゃんにのしかかると思いきや、華麗に身を翻し一回転した。


「ふぅ。危なかった」


 言葉とは裏腹に平然としている彼は白石に向かって軽く手をあげた。


「ごめんね」


「ううん」


 白石は耳まで赤く染まった顔をぶんぶんと力強く振る。


 なんでお前はあそこからあんな動きができるんだよ? 完全に人知を超えた動きだったぞ。


 まさかとは思うが、この前まで異世界召喚されてました?


 涼太はサンドウィッチを取ると俺の皿へ置いた。


「はいよ。気をつけろよな」


「おう。すまねぇ」


 気をつけるのはてめぇなんだよ!


 覚えときやがれ。次こそは必ず抱きつかせてやるからな。


 男らしくサンドウィッチを頬張る。


 ふわふわなパンにレタスとトマト、それにジューシーなハムがなんとも言えなく調和されている。それを手助けしているのがこのからしマヨネーズ。

 口の中いっぱいに広がる幸せは、荒れた心を穏やかにしてくれる。


「飾霧。このサンドウィッチ最高に美味いな」


「そう。よかったわね」


 淡白な返事も一切気にならない。これが飯の力か。


 サンドウィッチに無我夢中になっていると共感する声が聞こえる。


「本当にこのサンドウィッチ美味しいです」


 黒笠は笑みを浮かべる。


「だよな。こりゃ天才だと認める他ないな」


「ですね」


 飾霧は視線を逸らしている。

 そして、後ろの影に隠れているジェイムズは何を頷いてやがる。


「このおにぎりも美味しいよ〜」


 日野はおにぎり片手に幸せそうに目を細める。


 放心状態だった白石もいくらか落ち着いたようで、


「私も食べてみようかな」


 とおにぎりに手を伸ばす。


「食べな食べな」


 日野は嬉しそうに勧める。白石はおにぎりを一口頬張り、目を見開いた。


「お、美味しい。こんなに美味しい物がこの世にあったなんて」


「だよねー」


「私も初めて食べた時、そう思いました」


 共感する日野と黒笠。


「美味しいぃ」


 白石は今にもほっぺたが落ちそうだった。


 一方その頃涼太はぶつぶつと呟いていた。


「このきんぴらごぼうは具材を太めに切ることにより心地よい食感を引き出し、濃いめの味付けは運動した後に食べる事を想定してある。それと、この深みがある味わいは、砂糖をザラメに変える事で成り立っているに違いない。となるとーー」


「目を覚ませ。目を覚ますんだ。涼太!」


 心ここにあらずだったので、両肩を掴んで激しく揺らした。


「あ、直か。俺は一体なにを……」


 我に返ったが、何をしていたのか思い出せないのか頭を抱えていた。


「なんか料理研究家みたいになってたぞ」


「そうか。この前もこんな事があった気が……」


「それは気のせいだ」


「だよな……」


 涼太が考え事をしている隙に、俺は日野と白石の間に座った。


「どうしたの?」


 小首を傾げる日野から目を逸らす。


「いや、ちょっとこの春巻きが食べたくてな」


「言えば取ったのに」


「た、大量に食べたかったんだよ」


「ふーん。そっかぁ」


 春巻きを皿に装い終わった後に、立ち上がろうとした俺は体制を崩したフリをして、白石ちゃんを涼太の方へと押し倒す。


「いっけねぇ」


 白石は「きゃ」と甲高い悲鳴を上げつつ倒れる。


 どこか上の空だった涼太は反応が遅れ、懐まで残り数十センチのところで漸く手を伸ばした。


 そのままいっけぇええええええええええっ!


 食い入るような目つきで見ていると、一部始終を捉えた。


 腹を括ったのだろう。顔を赤らめた白井ちゃんは両手を広げ涼太に飛びつく。

 やっと抱き合う事が出来ると確信していた矢先、軽くのけ反った彼は彼女の肩をしっかりと掴んだ。

 抱き合うまで一歩及ばなかった。


 当然のように支え切った涼太は優しく声をかける。


「大丈夫?」


「ひゃ、ひゃい」


 白石はピシッと姿勢正しく背筋を伸ばし空を見上げた。


 そこは抱きついてくれよ。

 何、スマートに肩なんか触ってんだよ。


 男なら乳の一つや二つ揉んで見せろや!


 確かに、膨らみは僅かで慎ましいけどもね。


「なら、よかった」


 涼太は目を細め肩から手を離した。


 体勢を立て直した白石ちゃんはちんまりと体育座りをしながら誰にも聞こえないように呟く。


「ふれられちゃったでシュ」


「白石ちゃん。悪かった」


 作戦なのだが一応頭を下げた。


「き、気にしないででシュ」


「ああ」


 またもや失敗した俺は自信をなくし、ゆっくりと立ち上がり肩を落としながら自分の席に戻る。


 溜息を吐いてると、飾霧が耳元で囁いてきた。


「思ったよりも頑張っているのね」


「……お、おう。俺なりにだけどな」


 不意をつかれたせいでゾワっと鳥肌が立った。


「もし全員と仲直りする事が出来たのなら、もっと凄いご褒美ーー」


 耳元まで近づき、「あ・げ・る」と艶のある声を響かせる。


 しかも耳元で囁いた時に、胸が少し当たっていたのを右腕がしっかりと覚えてやがる。


 遮るものは水着のみで、異性の体温と生々しい感触に理性を奪われる。

 興奮のあまり居ても立ってもいられずに鼻息を荒げた。


「ど、どのようなやつでしょうか?」


 もしかしてAB、飛ばしてCですか!


「後での、お楽しみね」


 妖艶な笑みを浮かべる姿を見て心拍が上昇する。


 まだ飾霧の温もりが残っている右腕を左手で力いっぱい押さえた。


「お、落ち着け。深呼吸だ……」


 ……よく考えろ。


 今まで幾度となく踊らされてきたじゃないか。

 こいつは俺を弄ぶのが趣味なイカれたサディスティック女王だ。

 これ以上痛い目を見たくなければ信用するな。


 自問自答を済ませ、澄み切った瞳で飾霧を見据えつつゆっくりと口を開く。


「この命に変えてでも、仲直りしてみせます」


「楽しみに待っているわね」


 そう言いながら離れていく飾霧の胸元から視線が逸らせなかった。


 俺は馬鹿か?


 何を言ってるんだ……ちきしょう。


 だって、あの白くて弾むようなおっぱい……違う!

 じゃなくて、絵に描いたような美しい曲線美のおっぱいではなくって!

 マシュマロのように柔らかいおっぱいでもないっ!

 そうじゃないおっぱいでもなくてっ!

 でもあのおっぱいが、おっぱいでおっぱいだからおっぱいが、おっぱいいいいいいいいいいいいいいいっ!


 右腕に未だ残る感触が常識的な思考を妨げ、俺を無際限なおっぱいワールドへと誘う。


 その後、昼飯が終わる直前に白石ちゃんが声を掛けてくれるまでは一向に抜け出せなかった。


 決して白石ちゃんが貧乳だからそれを見て目が覚めたとかではない。


 大事な事だからはっきりさせておくが、俺はちっぱいも愛している。



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