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モテモテ94




 順番が回ってきたからみんなで階段を登っていく。

 上から見た景色は絶景で人が豆粒のように見える。


 準備が整ったので日野と黒笠。飾霧と白石。涼太と俺の順に滑る事に。

 順調に二つのチームが滑り降り、ついに俺達の出番が回ってきた。


 把手(とって)を掴む腕は異様に膨れ上がっている。僧帽筋からの三角筋、そして上腕二頭筋大腿筋。踏ん張っている大腿筋からの腓腹筋。

 綺麗に鍛え上げられた二人の体は水しぶきを浴びつつ今一つの場所へと降り立った。


 先頭は俺で後ろに涼太が腰を下ろしている。浮き輪の下からは激しく水が噴き出ていた。


 涼太はしみじみと呟く。


「間近で見るといい背中してるな」


「そんなの当たり前だろ。それにお前だって負けてねぇよ」


「いや、どう見ても直(なお)の方が仕上がってるから」


「そんな褒めるなって。お前の腹筋も相当なもんだろ」


「そう言われるとむず痒いな」


「なんだ? 照れてんのか?」


「別に……」


 首から伝う汗は一際眩しく煌き、浮き輪の上で戯れ合う男子高校生。ここに花はないけど漢はある。


「……ちっげえええええええええええっ!」


 吠えずにはいられない。でないと頭がおかしくなりそうだった。


「急にどうした?」


「なんで俺が野郎とウォータースライダー滑らなきゃならねぇんだよ? 俺が滑りたいのは女の子の柔肌なんだよ!」


「落ち着け、もうそろそろスタートだ」


「おいマジかよ! 本当に男と二人でランデブゥゥウウウウウアアアアアアアアッ!!!」


 邪な思いを置き去りにして、俺達は勢いよくスタートを切った。


 想像以上に揺れ動き凄まじい水しぶきで視界が悪い。徐々にスピードも増していく。


「ま、まじでやべぇー。このままだと死ぬぞ」


「大丈夫だって」


「こんな時まで澄ましてんじゃねぇ」


「いや、普通に楽しくないか?」


 左右に振られ、今にも浮き輪から落ちそうだ。

 急カーブに差し掛かったのか遠心力で把手から手が離れ、後ろにもたれ掛かる。


 涼太はがっしりと俺の身体を抱えると爽やかに微笑む。


「大丈夫か?」


「うん」


 ときめいた俺はそのままゴールまで滑り降りていった。






 ウォータースライダーを終えた一行は昼時になった事もあり、一旦ビニールシートまで戻る事にした。


 俺から時計回りで涼太、白石、日野、黒笠、飾霧。円を描くように座っている。


「あの野郎」


 俺は胡座をかきながら顔を顰め呟いていた。


 なんで涼太にときめかなきゃならないんだよ。それもこれも飾霧のせいだ。


 ウォータースライダーを終え、水から上がった俺に飾霧は微笑みつつこう言った。


「私のおかげで二人きりになれたわね」


 まさかと思い問いただしたら、飾霧があみだくじの棒を一本書き足していた事がわかり、そこでやっと合点がいった。

 通りで涼太と白石ちゃんが同じグループにならない訳だ。


 何が神の悪戯だ! ただの魔王の悪戯じゃねぇか!


 しかも悪戯した理由が面白そうだからって小学生じゃないんだから、少しは自重しろや!


 飾霧にこれ以上邪魔をされたら洒落にならないので、一応釘は刺しておいた。


 同じミスは繰り返さないよう。出来るだけ慎重に作戦を遂行しよう。


「みんなは昼ご飯どこで食べたい?」


 全員に向かって問いかけると飾霧の透き通るような声が響く。


「あるわよ」


「あるの?」


「ええ」


「それって、ちゃんと俺の分もある?」


 俺に対してだけ高確率でドッグフードが召喚されるからしっかりと確認を取る。


「ええ。ご褒美をあげると約束したものね」


「ああ、あれか」


 どうやら逆走のご褒美はいやらしい方ではなく、お弁当だったようで少し残念である。


「私達も食べていいんだよね?」


 日野は明るい声で飾霧に尋ねる。


「当然よ」


 なんかおかしくね?


 俺はご褒美で貰えるけど、他のメンバーはタダ?


「ありがとうございます」


「飾霧さん。ありがとう」


「ありがとう。ご馳走になるよ」


 黒笠、白石、涼太が各々感謝しているが、俺は納得いかないんだが?


 みんなに感謝され満更でもない飾霧は、休めの体制で待機していた使用人であるジェイムズに命令を下した。


 彼は大きな鞄からクーラーボックスを取り出し中に入っている複数のお弁当箱を並べ始めた。


 それをここまで運んだのは俺。だから少しだけ文句を言わせていただきたい。


 鞄に、釣りとかキャンプでしかお目にかからないような特大のクーラーボックス入れんな!

 通りで重い訳だよ。


 重箱には、唐揚げ、玉子焼き、春巻き、エビフライ、きんぴらごぼうと複数のおかずからおにぎりにサンドウィッチまでもが詰められており、まるで宝石箱のように色とりどりで輝いていた。


 全て並べ終え、ジェイムズは後ろに下がった。



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