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モテモテ90




 再度購入した飲み物を届け、みんなで仲良く飲んでいたけれど白石ちゃんとは上手く話せなかった。


 怖気付いた訳ではなくて、ああ人数が多いと話し辛い。

 このまま一緒に居ても話は進まなそうなので、リセットの意味も込めて今日初となるプールへと向かった。


 因みにジャンケンで負けた白石ちゃんと涼太が荷物番をしている。

 即ち、涼太がジャンケンを操っている件に関しては一旦保留にしよう。


 俺と黒笠と日野の三人で訪れたのは流れるプール。

 流れに身を任せグルグルと回る最高のアトラクションだ。


 既に、二人と仲直りしたのだからいい方に考えよう。

 そう自分に言い聞かせ、一足先にプールの中へ飛び込んだ。


「気持ちいいっ」


 火照った体が水によって冷まされていく、その感覚が堪らなく癖になる。


 やっとの思いでプールに入れた俺は浮かれていた。その背後から忍び寄る影。


「順調のようね?」


「ーービビったぁ」


 突然の声に驚き振り向くと、浮き輪でぷかぷかと浮く飾霧が目に入った。


「なんだ飾霧か……脅かすんじゃねぇよ」


 実は浮き輪を使っている事に一番驚いた。


「間抜けな顔をしている姿が見たかったのよ。実に滑稽だったわ」


 水の上を揺蕩う美少女の筈なのに、表情は魔王そのもの。


 二人で気の向くままに流されて行く。


「プールに来てまでなんて悪趣味な遊びしてんだよ」


「どこで何をしようと私の勝手よね?」


「そうですね」


 何を言っても聞く耳を持たないので適当に相槌を打つ。

 少し遅れてプールへと入った黒笠と日野が近づいて来た。


「あっ。先生こんな所にいたんですか」


 振り返る俺は立ち止まり、飾霧は浮き輪から降りる。

 日野の言葉に誰よりも早く黒笠が反応していた。


「先生って、どういうことですか?」


「どうしたの? そんな怖い顔して」


 黒笠の仏頂面に、日野は状況が把握できていないようで反応に困っていた。


「飾霧先輩は私の先生なんです」


「そうだったの? でもこの前私も料理を教えて貰ったんだけど」


 飾霧を置いてきぼりにして話は進んでいくが、当人は興味が無さそうに見ているので問題はないだろう。


「なら、日野さんは二番目の生徒さんですね」


「それでもいいけど、先かどうかなんてどうでもいいよね?」


「そんな事言って、悔しいのですか?」


「どうしてそうなるの?」


 二人は距離を詰めていく。


「違うのですか?」


「違いますけど?」


 目と鼻の先まで近付くと、水着を押し上げるふたつの膨らみがぶつかり、目も当てられない程に揺れ動く。


 水に濡れた小麦色の肌と色白な肌がぶつかる度に柔らかく波打つ。

 水しぶきと言う名の聖水がキラキラと舞う。


 その間にある意味割って入りたい。と熱い視線を送る俺を横目に、飾霧は揉めている二人に背を向けた。


「行くわよ」


 冷たく響く声に、キャットファイトを観戦したまま返事をする。


「あの二人、あのままでいいのか?」


「飽きたらやめるわよ」


 流れていく飾霧の後を、名残惜しそうに彼女達から視線を逸らし追いかけた。


「冷たいな。一応お前の事で喧嘩してるのに」


「頼んだ覚えはないもの」


「それもそうだけどな」


 横を見ると満足げな飾霧が、浮き輪で浮かびながら流れに身を任せゆらゆらと漂っている。


「思ったよりもプール楽しんでるのな」


 飾霧は咄嗟に睨みつけると、不愉快そうに鼻で笑った。


「ーー楽しむ? 笑わせないでもらえるかしら? 有象無象が入った液体に浸っていると思うだけで鳥肌が立つわ。でも、私が入る事により穢れが浄化できるの。だから仕方がなく入ってあげているのだけれど」


「そんな特殊能力を持っていた事に驚きだ」


 どうやら彼女は魔法使いのようだ。


「因みに浄化するのには力が必要なの。従って、この浮き輪を引っ張りなさい」


「ここは流れるプールだから引っ張らなくても勝手に動くだろ」


「何もわかっていないようね。私は抗いたいのよ」


「抗いたいってなんだよ?」


 魔法使いが考える事は普通の人間には到底理解できないようだ。


「要するに流れとは逆に進みたいの。そこらを漂う雑草と同じ方向に流されるのはごめんだわ」


 彼女には人が草に見えているらしい。もしかしたら魔法を使ったのかもしれないね。


 そんなメルヘン少女に俺は力強くこの言葉を送ろう。


「お前に流れるプールは向いてない」


「向いてるかどうかは私が決めるからさっさと引っ張りなさい」


「いや、そもそも逆走はルール違反だから」


「そう。なら仕方ないわね」


「潔いな」


 納得した筈の飾霧はどこか遣る瀬ない表情で、


「人間が決めたルールに従う他ない。残念ながら私達はそういう生き物なの。とても哀れね」


「一々深いんだよ。もっと気楽に楽しめよ」


「これでも抑えているつもりなのだけれど」


 飾霧が深い闇を抱えているのは前々から気付いていたが、思った以上に根深そうだ。


 だが、ここはプールだ。

 俺は作戦を遂行する為に来ているが一応遊びたい訳で、女の子とキャッキャウフフしたいのだ。


「そうか。でも今は何も考えずに遊ぼうぜ」


「あなたの言う通り、偶には羽目を外すのもいいかもしれないわね」


 何かが吹っ切れたのか、清々しい表情の飾霧に向かって親指を立てた。


「おお、その粋だ」


 まさかやる気になるとは思わなかった。


 でもせっかくのプールだし、いつもは出来ないことを沢山したい。

 可愛い水着を着てるんだし、特別にオイルでも塗ってやろう。


 ーー俺のゴッドハンドが火を噴くぜ!


 緩んだ表情で心躍らせていると、


「そんな事より上手くいっているのかしら?」


 的外れな質問が飛んできた。


 一瞬で夢から醒めた俺は、興奮が薄らぎ瞳から光が消えた。


「ああ。一応二人と仲直りしたさ……」


「貴方にしては上出来ね」


「素直に褒め言葉だと受け取っておくよ」


「念の為言っておくけれど、呉々も油断しないように」


「わかってる。最後まで何が起こるかわからないからな」


 釘を刺されて確信した。


 この後なにか起こるぜぇ?


 立ち止まった俺に反応するかのように飾霧も留まる。


「気合十分みたいね。なら、こんな所で油を売ってないでさっさと行きなさい」


 鋭く差された指の方角を見つめながら首を傾げた。


「なんで流れとは逆の方を指差してんだ?」


「命令よ。行きなさい」


「だから逆走はルール違反だってさっきも言っただろ」


 どんだけ逆走したいんだよ。子供か!


「ルールに縛られない男らしい姿を見てみたいのよ」


「今作りました感がすげぇぞ」


「一々盾突くのね。せっかく最高のご褒美をあげようと思っていたのに、残念」


 巧言令色(こうげんれいしょく)な彼女が囁いた言葉は罠だと理解はしていた。

 決して誘惑に乗ってはいけないと分かっているのに、身体がいうことを聞かない。


 既に俺はやる気満々だと言わんばかりに肩を回していた。


「それを早く言えよ」


「清々しいまでの手のひら返しね」


「男にはルールを破ってでも貫かなきゃいけない信念があるんだぜ」


「なら、その信念が如何なものか見極めてあげるわ」


「ああ。見せてやるよ」


 捨て台詞を吐き、馬車馬のようにプールを逆走し始めた。



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