モテモテ89
販売店に到着し人数分の飲み物を購入した。
俺が三つで日野が二つ持っている。
飲み物を溢さないように慎重に運んでいるので、行きより更に会話が減った。
日野はバツが悪そうにそっぽを向いている。
俺のせいで彼女から笑顔を奪っているのだと思うと申し訳なくて、詭弁を言う気にすらならない。
でも、このまま黙り込んでいても埒が明かない。
ここで仲直りできないのなら、今後死ぬまで無理な気がする。
ただ今がラストチャンスだと思えば、なんだって出来るような気がしてきた。
欺瞞に満ちた殻を打ち破り、俺は本心から思っている事を包み隠さずに伝える。
「日野。聞いてくれ」
「……いいけど」
先程より幾分かマシな反応に活路を見出した俺は、より一層真剣な表情になる。
「今更おこがましいかもしれないが。君と仲直りがしたいんだ」
「ちょ、直球だねーー」
と動揺したのも束の間、眉を顰めながら続ける。
「だからって許してもらえると思うの?」
「それは俺が決める事じゃないから……」
軽く俯き瞼を閉じ、「でも」と区切ってから顔を上げ日野の顔をしっかり見つめると、示し合わせたかのように視線が交差する。
そのタイミングで思いの丈を大声でぶつけた。
「君を失いたくない」
「っ! ーーキャ」
驚いた日野は、一歩後ずさった時にバランスを崩し足を滑らせた。
俺の身体は反射的に動いていた。
「大丈夫か?」
抱き寄せるように支えれば、もっとラッキースケベな展開になったかもしれないが、腕を掴んだだけというシンプルな助け方になってしまった。
だが、そういう所が脇役らしくて、俺らしい。
「う、うん。ありがとう」
恥ずかしそうに耳まで赤くしていた彼女の体勢を立て直し、柔肌から自然と手を離す。
にしても飲み物が無事だとは思わなかった。
流石は陸上部。運動神経は抜群のようだ。
因みに俺は飲み物を二つ落としてしまった。
いくらなんでも三つ持ちながら支えるのは無理がある。
まぁ、一つ残っただけ上出来だと納得するしかないだろう。
落とした飲み物を片付けながら口を開く。
「落としちまったからまた買ってくるわ」
「あ、ごめん。私のせいだ」
しゃがんで手伝おうとしてくれた日野がしょんぼりしているので、穏やかな声で返事をする。
「いや、俺が急にでかい声出したから。それより怪我が無くてよかったな」
「うん。ってそうじゃなくて、私が買いに行くから」
「また躓かれたら溜まったもんじゃないから俺が行くよ」
片付けが終わり二人で立ち上がると、日野は不満そうに唇を尖らせる。
「優しさで言ってるとしてもムカつく」
「……すまん」
「別にいいけど、私もついて行くから」
「わかった」
ここで断るのも悪いと思い二人とも踵を返した。
日野が言いづらそうにもぢもぢしながら、
「……というか、いきなり変なこと言わないでよ」
「アレも本心だから仕方ない」
日野は頬を赤らめつつ「ふーん」と言った後に小首を傾げる。
「そんなに仲直りしたい?」
「滅茶苦茶したいね」
「どれだけ必死なの」
「俺にとっては死活問題なんだよ」
必死な表情を見て、日野ははにかむように笑った。
「いいよ」
「へっ?」
欲していた言葉が軽く飛んできたもんだから間抜けな声を上げてしまった。
「だからいいよって」
「どうして急に心変わりを?」
「別にそんな大袈裟なモノじゃないよ。そもそも私が怒ってたのは隠れてこそこそしてた事に対してだから」
まさかのそっち?
確かに裏でよろしくやってたのは認めるけど……結局の所。本心をぶち撒けた俺の勝利って事か?
……案外、正直者って報われるんだな。
「じゃあみんなに手を貸した事に関しては怒ってないのか?」
「……いい気はしないけど。怒るほどではないかな」
「マジかよ。なら最初から正直に言えばよかったわ」
「それはそれで嫌だけど」
日野は苦笑いを浮かべる。
「どういう事だよ。訳がわからん」
「乙女心は複雑なんだぞっ」
つんつんと突かれる俺の体は崩壊寸前。そんな可愛い仕草があったなんて、知らなかった。
ーーあざと可愛い!
「……重々承知していたつもりだっだけど、俺には一生解明できそうにないわ」
「簡単に諦めたらダメだよ」
「諦めるとは言ってないけどな」
「へぇ。女の子を丸裸にするつもりなんだーー」
お茶目な仕草に心奪われそうになっている俺の耳元で「変態さん」と甘く囁いた。
「そ、その言い方は語弊があるぞ」
距離を取る俺に向かって日野は楽しそうに笑う。
「ウソウソ。とにかく許したから。全部は言う必要ないけど、あまり隠し事ばかりしていると、ツケが回ってくるから気をつけるように」
「前回の事で凄く勉強になったよ」
三人に白い目で言い寄られた時の記憶が脳裏を過る。
「多少賢くなった茂木君は、他の子とも仲直りするつもりなのかな?」
「ああ。もう黒笠とは仲直りさせてもらったよ」
「うわぁ。手が早いんだ。ちょっと引くかも」
軽蔑の瞳を向けられ、誤解を解こうと必死な形相になる。
「待てって。ただ俺は早く仲直りしたかっただけなんだ」
「へぇ。ならなんで今日まで仲直りしなかったのかな?」
「……正直にいうと普通にビビってた」
「外見に似合わず女々しいんだね」
「余計なお世話だ」
「ごめんごめん。じゃあ残りは白石ちゃんか。仲直り出来るといいね」
「ああ。そのつもりなんだけど、どうなる事やら……」
後一人だけなのに、嫌な予感しかしない。
「もし仲直りできなかったら慰めてあげるね」
「ほ、ほんとか?」
まさかの申し出に天にも登る気持ちになった。
だって、豊満な胸を持つ彼女が慰めるって言ったらアレしか思いつかないだろ。邪な気持ちが湧くのも無理はない。
だって童貞だもん!
妄想の奴隷と化している俺に向かって、日野は可愛らしく両手を背中の後ろに回し前屈みになると、悪戯っぽい笑みで告げる。
「うん。美味しいお弁当を作ってきてあげるねっ」
「頼むから、それだけは勘弁してくれ……」
願望は呆気なく崩れ落ちた。
がっくしと肩を落としている俺を見て日野は生き生きとしている。
どこか憎めない小悪魔のような表情が妙に艶かしくて見惚れていたけど、彼女は俺の親友が好きなのだと思うだけで、血の涙が溢れそうになった。




