モテモテ86
一番に入場した俺はそそくさと更衣室へ向かう。
憂鬱な雰囲気を漂わせながら着替えていると涼太が少し遅れてやって来た。
「いくら気まずいからって先に行くなよ」
「だって、俺。ああいうの耐えられねぇ」
あんな所に長時間いたら確実に廃人になる。
「泣きごと言ってる場合なのか? 仲直りするんだろ?」
「俺だってな。したいと思っていたさ。でも、既に心が折れてんだよ……」
弱気に肩を落としていると、涼太に力強く両肩を掴まれた。
「そんなの、お前らしくない」
面と向かって見た彼の表情はこの上なく真剣で、俺の事を思って言ってくれているのがひしひしと伝わってくる。
親友の言葉で目が覚めた俺の表情は清々しい程に前向きだった。
「涼太。俺、間違ってたぜ」
「ああ、分かればいい」
「おう。毎度ありがとうな」
涼太に感謝しながらも俺はビニール製の剣を膨らませる。
完成した立派なそれを握り、天高く突き上げた。
「茂木直。十六歳童貞。これより修羅に入る」
「いつも思うけど、声が大きいんだよな」
走り出した俺に涼太の溜息が届く事はなかった。
暫くしてから涼太が後を追ってきた。
今は更衣室の近くにある時計台付近に立っている。
涼太がここで待ち合わせをしていると教えてくれたからだ。
紳士的に女性陣を待っている涼太に比べ、見えないプレッシャーに押し潰され、今にも小便ちびりそう。
これが修羅道か。俺には百年早かったみたいだ。
気を紛らわす為に涼太に声を掛ける。
「おい。いい具合に仕上がってんじゃねぇか」
「直は仕上がりすぎてる気がするけどな」
綺麗に割れたシックスパッドに鍛え抜かれた大胸筋をこれ見よがしに見せつけながら笑った。
「そんなに褒めんなよ」
「別に褒めてない」
「それはそうと遅いな」
「男と違って女の子は時間が掛かるからな」
「知ったような口を聞くなよ。若僧」
「緊張してるのはわかるけど、その表情をどうにかした方がいい」
どうやら緊張のせいで、顔の表情が強張っているようだ。
「そんなに酷いか?」
「鬼みたいになってるから」
「ハンサムじゃねぇか」
「その考えがもうだいぶ参ってるよな」
「参ってるとも。俺、もう無理かも……」
決意が揺らごうとしていると一際煌く四人組がこちらに向かってくる。
徐々に全貌が露わになる。吐血寸前の俺は口を押さえた。
「待たせてごめんね」
明るい声を奏でながら小走りで近付いてくる日野はモスグリーンのホルターネックビキニ姿でセクシーさをアピール。
軽めのウェーブがかかっている明るめの茶髪は肩まであり、小麦色の肌が妙に艶かしい。
元々大きな胸が水着の形状により更に強調され、手のつけようがない核兵器を生み出した。
当然のように胸元へと視線が集まってしまう。
こぼれ落ちそうな果実は男の夢。
「そんなに待ってないから」
爽やかに返事をする涼太の元に、更に二人の美少女が歩み寄る。
恥ずかしいのか俯き気味の黒笠は、黒色のフレアビキニ姿が可愛らしい。
いつもとは違う髪型との相性は抜群。
直ぐフリルとレースが特徴的な水着は一言で言うとチャーミング。
バスト部分が広がって見えるため、相対的にウエストラインを細く見せてくれる。
それと縦にスッと長いおへそが美しく、全体的ゆるっとしたシルエットがとても愛くるしい。
その後ろに隠れて顔を真っ赤にさせている白石は、花柄のオフショルダービキニ姿だった。
ボブヘアーで幼い顔立ちの彼女と相まって相乗効果が生まれる。
フリフリとした生地が控えめな胸を隠し、はためくスカートが良く似合う。
肩を出したデザインはデコルテラインを強調させ、女性らしさをより一層引き立たせる。
ふわっとした装いは小柄な体系と相まってお人形の様。
「お待たせしました」
「お待たせしまシュ」
黒笠は俯きつつも普通に喋れていたが、白石は蒸気機関車が板に付いてきた。
「平気だよ」
涼太は微笑み、俺は唇を噛む。
三人の水着を堪能したいのは山々だが、そんな精神状態ではなく、今にも倒れそう。
疲弊している俺の前に最後の美少女が舞い降りた。
「前を向きなさい」
いつもよりも澄んだ冷たくも温もりを感じる声が耳元に届く。俺は言葉通りに前を向いていた。
視界に映ったのは髪をアップにした事により首筋が綺麗に見え、白磁のような肌を持つ碧眼美少女だった。
白色のレイヤードビキニを身につけていた飾霧は、そのプロポーションと相まってセクシーさが際立っていた。
ボトム内に、より露出度の高い水着を見えるように着用する事で、僅かにはみ出した部分に印象を与えエロスを演出させる。
一枚目のボトムの中には想像も付かない際どい水着を着用していると思うだけでパニックに陥る。
一枚の絵画のように芸術的な風貌の彼女を見て、俺は固唾を飲んで見守る。
他の人や背景は一切入り込む余地がない程に飾霧しか見えていなかった。
この空間に二人だけしかいないように思え、時が止まっているかのようにさえ感じる。
凍っていた時間が解けていくようにして、
「綺麗だ」
と俺の口からは勝手に言葉がこぼれ落ちていた。
呟くような声は飾霧にだけ届いた。
当人は徐々に顔が赤くなっていき、耳まで到達した瞬間に視線を逸らす。
「と、当然の事を言われても困るのだけれど」
限界まで速度を上げた早口は全く聞き取れなかったので、俺は曖昧に頷いた。
「お、おう」
それにしても見れば見るほど美しい。形のいい胸に引き締まったお腹。
そして、すらっと伸びた脚。この感動をどう表せばいいのだろう。
飾霧の虜になっている俺の背中から乾いた音が響く。
「行くぞ」
涼太に叩かれたお陰で我に返り、「そうだな」と頷いた。




