モテモテ82
こうして、水着を買いに来たわけだが俺の目がおかしいのだろうか?
女性用の水着しか見当たらない。店員からお客さんまで全て女性。
いくら飾霧が魔王だからって、それだけはないと思っていたのに……
叫び終わった後にビキニを指差しながら尋ねた。
「まさか、俺にこれを着用しろと?」
「発想が気持ち悪すぎて今にも嘔吐しそうだわ」
「お前がこんなところ連れてきたんだろうが!」
キレ気味の俺に呆れながらも飾霧は口を開いた。
「まず私が買うからよ。そんな事も分からないなんて可哀想な子」
「そんな哀れむような目で俺を見るな。というか最初からそうと言ってくれれば勘違いしなくて済んだのによ」
「一般的思考を持ってさえいれば、勘違いはしないと思うのだけれど」
「そこら辺の一般人とは一味違うって事だな」
「一味も二味も違う馬鹿だという事を再確認させてくれてありがとう」
皮肉だとわかっていながらも「どういたしまして」と歯軋りを立てながら返した後、落ち着いてから続ける。
「ーーここに俺は必要ないだろうからあっちで待ってるわ。買い終わったら来てくれ」
踵を返そうとすると飾霧は額を押さえ溜息を吐く。
「ーーだから馬鹿だと言っているのよ」
「どこら辺がだよ。言ってみろ」
「何も考えずに私がここに連れて来るとでも思ったのかしら?」
「確かに」
思わず頷いていた。飾霧は自信満々に腕を組むと言い放った。
「貴方がこれから起こりうるであろうイベントを先取りするの。これは女の子と服を買いに来た時の予行演習なの」
「そう言われたらぐうの音もでないが。いきなりハードル高くね?」
「愚問ね。私と水着を選ぶ事で、服ごときでは動揺しなくなるわ」
その自信を少し分けて貰いたい。
確かに水着に比べれば服は布地の面積が多いから、見ただけで動揺するということは無くなる可能性は高い。
でも、服には服の良さがあるんだ。
女の子が身に纏った瞬間に別物になるんだよ。
それはもう服という名のパンツだ。
閃いた俺は飾霧に尋ねる。
「もし、下着を買いに行った場合はどうすればいい?」
「その想像が瞬時に出てくるのが、とても気持ち悪いのだけれど」
「男ならこれが普通なんだよ」
そう。パンツ出てくんだよ!
「今はそういう事にしておくわ。因みに、現実で下着を一緒に買いに行く状況には基本起こり得ないので安心しなさい」
「ま、まじか」
そんな馬鹿なことがあるのか?
「落胆の色を隠せない所悪いのだけど、もうそろそろ選んでいいかしら」
「ああ。好きに選んでくれ」
店内を飾霧が黙々と歩いていくので、俺も離されないよう周りの水着を吟味していた。
ここで俯いていると逆に変質者だと思われるからだ。
俺は血走った目で出来るだけ布地の面積が少ない水着を探していた。
このフリルが多めの水着を飾霧が試着したとしたらどうなるだろう?
俺は今から妄想の限界を超える。
黒色のフレアビキニが大事な部分を程よく隠している。
チラチラと見え隠れする白磁のような肌の胸とお尻。フリフリとした生地がスレンダーな彼女に女の子らしさプラスさせた。
風に靡くフリルが幼さと可愛らしさを演出させ、偶にしか見えない背徳感が男心を擽る。
悪くはないが、飾霧にはもっと似合う代物があるかもしれない。
次は、このシンプルな水着でどうだ?
青色の三角ビキニが夏らしさを一層引き立たせる。面積の少ない水着ならではの露出感。
整った形の胸に引き締まったウエスト。ヒップからすらっと伸びた脚は絹のように滑らかな質感。
振り向き気味の後姿を下から上へスクロールさせていくのを想像するだけで興奮を抑えきれない。
スタイルがいいので布地が少ない方が綺麗に見えるのかもしれない。
出来れば太ももならぬ細ももに挟まれたい。
これはこれで似合うだろうが、まだ上がありそうだ。
次に、あのとんでもない水着はどうだろう?
身につけた赤色のマイクロビキニは飾霧の局部だけを的確に隠している。
少し動いただけで致命傷になりかねない程に脆く、今にも見えてはいけない物が…………これ以上の妄想は命に関わる。
男子高校生には少しばかり刺激が強すぎたので、ここらでお開きにしよう。
決して、俺のムスコが公共の場でレッツパーリーするからではない。
一通り妄想を終えた俺に大人しく水着を選んでいた飾霧が、なんの前触れもなく声を掛けてきた。
「因みに好みとかあるのかしら?」
「お、俺か?」
自分に親指を向けて周囲を確認するが、周りには俺と飾霧しかいない。
「貴方以外に誰が居るというのかしら?」
「だよな。好みか……」
再度、棚に飾ってある様々な水着に視線を移す。
やはり種類は豊富なようだ。
フリフリしたものからワンピースのようなものまで。それに際どいモノも多々ある。
だけど、俺はアレがいい。
一際輝く水着を自信に満ちた表情で指差した。
「あの。ビキニとかどうだ?」
飾霧は水着を見つめた後に口を開く。
「貴方にしてはまともなモノを選んだようね」
「語弊がある言い方をするな。俺は常にまともだ」
その通り俺はまともである。
思春期真っ盛りであるお年頃の男子は、基本エロい事を考えている。
脳内の八割がエロで、二割は人によって個人差がある。異論は認めない。
それぐらいエロに犯されてしまっている虚しき男子高校生に幸あれ。
ということで、本当はあの紐にしか見えない水着とは思えない代物を選ぼうとした。
けど、脳内に【死】の文字がくっきりと浮かんだのでやめた。
飾霧は水着を手に取り、
「そう。ならこれにしようかしら」
と声を弾ませた。
参考までに意見を聞いただけだと思っていたのに、まさか俺が選んだ水着を買うだなんて信じられない。
疑惑の目を向けながら「いいのか?」と尋ねずにはいられなかった。
彼女は水着をカゴに入れると、
「別にいいわよ。私は何を着ても似合うもの」
絹のような美しい銀髪をかき上げた。
「だろうな」
俺は自然と頷いていた。ご満悦な飾霧は優雅に歩き出す。
「少し待っていなさい。会計を済ませてくるわ」
「試着しなくていいのか?」
試着を強調して全力で止めに入ったが、
「平気よ」
とスルーされてしまった。
その程度で引き下がる訳にはいかない。
必死な形相で声を張り上げる。
「でも着心地とかあるだろ」
「そんなに見たいのかしら?」
そんなの聞くまでもない。見たいに決まってんだろ。
だけど、それを口にしたら俺の負けが確定する。
だから意地でも言わない。
俺は本音を抑え、白々しく言葉を紡いだ。
「いや。これは疚しい気持ちとかではなく。ただ単に心配してやっただけだ。そう。決して俺が見たいからという訳ではない」
「そう。本当のことを言えばどの水着でも試着してあげたのだけど。残念ね」
小悪魔のように微笑む飾霧から目を逸らす。
「べ、別に見たくねぇし」
紐としか思えない水着を凝視しながら血の涙を流し、唇を噛んだ。
俺の表情を堪能してから飾霧はレジへと向かった。




