モテモテ78
全てを失った俺は昨日の出来事を思い出して絶望感に苛まれていた。
日曜日なのに全然ハッピーではない。
最悪な気分のままベッドの上でのたうち回っていた。
その音がうるさかったのか、激怒した母ちゃんにお使いを頼まれてしまった。
俺は絶対に母ちゃんには逆らわない。
何故なら、我が家での一番の権力者だからだ。触らぬ神に祟りなしである。
父ちゃんにはもう少し意地を見せてほしいものだ。
外に出た俺を待っていたのは輝く太陽。
七月も間近ということもあり今日は異様に暑い。俺の気持ちとは裏腹に空は青く澄み切っていた。
ゆっくりと空を見上げながら叫ぶ。
「お前が憎い。そんなにも晴々としやがって、降りて俺と戦え」
地球に喧嘩を売り、ひとしきり愚痴を呟いた。
程なくして冷静さを取り戻し、スーパーを目指して歩き出した。
目的地に到着したので中へ入ると、『ここは天国なのか?』と錯覚をおこす。
薄らと小学生の頃の思い出が蘇る。
夏はよくスーパーに避難していた。クーラーが効いた最高の楽園。
たまに行われている試食コーナーがあった日にはお祭り騒ぎだった。
スーパーはお金がない小学生にとっては休息の地。
「懐かしいな」
店内を探索しながら頼まれた商品をカゴに入れていく。
頼まれた最後の商品。カレールーを手に取ろうと腕を伸ばしたその刹那、同時にカレールーを掴む手が一つ。
俺の為に残っていたラスト一個のカレールーに手を出すとはいい度胸だな。
睨むようにして横を見ると、そこには明るい髪色にTシャツ短パン姿の見慣れない美少女。
ここは一旦冷静になろう。
考えてもみれば最近の俺は美少女に囲まれていた。即ち美少女耐性が備わっている。
だから、見知らぬ美少女にだって普通に接する事ができる筈だ。
意を決し、できるだけ紳士的に声を掛けた。
「こ、これ。君も欲しいのかい?」
俺をじっと見つめた彼女は目を丸くした。
「って。なんであんたがここにいんのよ?」
突然の言葉に「ん?」と首を傾げるしかなかった。
どうやら彼女は俺を知っているらしいが。まるで見覚えがない。
この俺様がこんな美少女を忘れるわけがないので、彼女の勘違いだということが証明された。
納得できる結論を導き出し、丁寧な口調で返事をする。
「すまないけど、人違いだと思う」
「は? なに言ってんの? マジでキモい」
「君。少し待とうか。いくら可愛いからって初対面の人にその口の聞き方はどうよ」
装いからは考えられない汚い言葉に落ち着いて対処ができるのも、白石ちゃんに日野に黒笠。それと一応飾霧のお陰だ。
今まで本当にありがとう。そして、さようなら。
「か、可愛いとか。マジなに考えてんの?」
呆気にとられた彼女は頬を紅潮させる。
「いや。自分をしっかりと見てみ? どう考えても可愛いから」
「……はぁ?」
一通り自分を見た後に、
「み、み、見んなああああああああああああああっ!」
と叫び始めた。
「今度は急にどうした。 情緒不安定にも程があるぞ」
「ーーい、いや。ごめん。今日の事は忘れて。それじゃ」
その場から立ち去ろうとしている彼女を咄嗟に呼び止める。
「待てよ! カレールー忘れてるって」
「もういらないから。あんたにあげる」
「ーーどうも」
謎深き美少女は俺にカレールーと異様な違和感を残し、早歩きでその場から去っていく。
この晩に食べたカレーが一味違ったのは言うまでもない。
月曜日。
登校して直ぐに涼太の元へと駆け寄った。
「聞いてくれ。一昨日全てを失った俺は、昨日のスーパーで天使と出会ったんだ」
「話が急過ぎて全然ついていける気がしない」
涼太は席に座っているだけで絵になる。
だからなのか俺からは溜息が止まらない。
「ーー常にモテるお前にはわからないだろうな。この高揚感は」
「いやだから。内容が伝わらないんだよ」
呆れ果てている涼太を無視して天井を見上げた。
「あの子に伝われ俺の思い」
「先ず、俺に伝える努力をしてくれよ」
「それは無理だ。俺はお前に話しに来たようで、そうではない」
「じゃあ何しに来た?」
待ってましたと言わんばかりのキメ顔を披露する。
「自慢に決まってんだろ!」
「そうか。なら、先にそう言えよな」
「なに笑ってやがる。ぶん殴るぞ」
爽やかに微笑するもんだから右拳を振り上げたよね。
「理不尽にも程がある」
「理不尽を首からぶら下げてるようなイカれた男になりてぇ」
「それ。ただのクズだぞ?」
「さようか。じゃあやめておく」
鋭い視線に臆したわけじゃない。親友の言う事を素直に聞くのが俺という男だ。
涼太は「それで」と話を戻した。
「全てを失ったとか、天使に出会ったとか、結局なんの話なんだ?」
「俺に興味津々ということだな?」
「もうそれでいいから、わかるように話してくれるか?」
俺は「仕方ない」と言った後に土日の出来事を洗いざらい話した。
全てを聞き終えた涼太はしみじみと呟く。
「大変だったんだな」
「かなりな。もし、お前の手が必要になったら遠慮なく借りにくるぜ」
「俺で良ければ」
「流石は我が親友」
熱い握手を交わし、親友と友情を確かめ合っている姿を遠くから見つめる一つの影があった。
それを後ろから見ていた飾霧は、
「そういう事ね」
無表情なのに、内心ではニヒルな微笑みを浮かべながらその光景を眺めるのだった。




