モテモテ77
外へ出て直ぐに顔を顰める。
「説明してもらおうか?」
「……いつまで、掴んでいるの……」
今まで聞いたこともない。か弱い声に唖然とした。
それに飾霧の純白の肌が僅かに赤みがかっていき、少し潤んだ瞳が妙に艶かしくて目が離せない。
今まで見た事のない姿に胸の辺りが締め付けられ苦しくなった。正常に呼吸するのも難しいくらいに。
俺は咄嗟に手を離していた。
「わりぃ」
「ーー気にしてないわ」
まるで別人の彼女は繋がれていた指先を見つめていた。
この空気に耐えられなくなり、なりふり構わず言い放つ。
「……とういか、なんでお前がここにいるんだ」
「貴方が教えてくれたのよね?」
飾霧はいつも通りの雰囲気に戻っていた。
「教えたけど招待した覚えはねぇぞ」
まさか来るとは思っていなかったので大誤算だ。こんな事なら教えなきゃよかった。
「そうとは気付かなかったわ」
「白々しい奴だな。日野や黒笠を早めに呼んだのもお前なんだろ」
「少し違うわね。私は雫しか呼んでいないわ」
だったら日野はたまたま来ただけというわけか……だとしてもかなり合点がいく。
きっと黒笠に掛かってきた電話も飾霧の仕業に違いない。
極度の人見知りがあの場に居座るわけがないんだからな。
「まぁいい。それよりさっき時が来たとか言ってたが、これが前に言ってたハーレム作戦なんだよな?」
「ええ」
「これのどこがハーレムなんだよ?」
力強く言ったにも関わらず飾霧は小首を傾げた。
「どう見てもハーレムよね?」
「確かに。そう言われてみればそうだけどよ……」
飾霧の言う通りかもしれない。
今現在。
俺は女の子三人に囲まれている状況。それに今、飾霧も加わりこの場に美少女が四人もいる。
これをハーレムと言わずになんと言う。
だとすると俺は何を焦っていたんだ?
今までの三人と過ごした記憶が蘇っていく。すると、一つの共通点を見つけた。
ーー涼太じゃね?
彼女達は涼太が好きな事を俺に相談している。
それが万が一にでもバレる可能性があるから、焦ってたんじゃね?
話を整理したら吠えずにはいられなかった。
「ーーちげぇーわ! これは俺が求めていたハーレムじゃねぇーわ! どうすんだよこの状況!」
「今更気づいても無駄よ。貴方にはどうする事も出来ないもの」
彼女はいつになく楽しいそうに見える。
「なんだよそれ。一体どういうつもりなんだ」
「本当にモテるとはどういう事なのか、身をもって体験して貰おうと思ったのよ」
「だからって、あんまりじゃねぇか……」
大体は飾霧のやろうとしている事に察しはつく。
きっと、モテる奴にしかわからない。地獄のような体験をさせるつもりなのだろう。
要するに修羅場ってやつを……
だとしても、そこまでいい思いもしてない俺に地獄だけ体験させるっていうのは、ドS通り越して鬼畜じゃねぇか!
……いやね。確かに美少女三人に囲まれた時は悪い気はしなかったよ。
でもさ、パーセンテージが悪い方に偏りすぎてる気がする。
いくらなんでもこんな仕打ち、あまりだろ……
これから起きる最悪を考え絶望に浸っていると、その根源である彼女が優しく囁いた。
「そう悲観的になるのはまだ早いのではないかしら?」
「どういう意味だよ」
「今からでも私なら挽回できるという事よ」
「よくこれから地獄に叩き落とそうとしてる奴がそんなセリフ吐けるな」
強気な態度で応戦すると、飾霧は冷え切った瞳を向けてきた。
「そう。ならお望み通り落としてあげるわね。深い闇の中へ」
「ごめんなさい。助けて下さい」
のっぴきならない状況に反射的に頭を下げていた。
「素直で宜しい」
ご満悦な彼女を真っ直ぐに見据える俺はシリアスな雰囲気を漂わせる。
「本当に信じていいんだよな」
「私はどちらでも構わない。どちらにしろ面白そうだものね。信じるか信じないかは、あなた次第」
試しているかのような口ぶりに動揺はしなかったのは、もう答えを決めていたからだ。
初めて飾霧に会った時からずっとそうだったように、
「俺は、お前を信じてる」
「当然ね」
俺達はファミレスという名の戦場へと舞い戻る。
二人して席の前に着くと、三人の視線がこちらに吸い寄せられる。
飾霧は堂々とした態度で切り出す。
「先程は失礼したわね。既に貴女達は知っているかもしれないのだけれど自己紹介させてもらうわ。私は茂木直の知り合いで、飾霧ノアといいます。ここに皆が集まっているのは他でもない。彼に頼まれたからよ」
「そうだったの?」
「へぇー」
「そうなのですね」
「そうだったのか?」
白石、日野、黒笠の疑問はいいとして、俺も首を傾げているけど大丈夫なのだろうか。
不安で胸いっぱいの俺を放置して、飾霧は目を見開いた。
「では、単刀直入に言うわね。これから茂木直は、何があっても貴方達を平等に手伝う事を誓うわ」
三人はまだ何も理解していないようで真剣に聞いていた。
そう俺を除いては……
確かに飾霧が言うように俺はいつだって皆に平等に接してきた。
涼太を好きなみんなの為に………いや待てよ?
これって言っちゃダメなやつじゃねぇ?
嫌な汗が全身から吹き出した俺は、
「一番言っちゃだめなやつじゃねぇか!」
と叫びながら右手を出したが、それをひらりと交わす飾霧。
「そう、あなた達が好きなーー」
「待ってくれえええええ」
必死の叫び声も飾霧には届かなかった。
そして、ついに彼女は禁断の言葉を口にする。
「彼の親友。津賀涼太と付き合えるように」
鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情の美女三人。俺は一人青ざめていた。
終わった……せっかくできた女友達をあっさりと失ってしまった。
飾霧なんかに縋ったせいで……いや自業自得か。
思えば、疚しい心から彼女達の恋愛を手伝おうとしていたのだから。
そんな俺にお似合いの末路か……
暫くして理解したのだろう。我に返った三人は各々不満を声にした。
「茂木君これはどういうこと?」
「ほんと! 説明してもらえるんだよね?」
「先輩酷いです!」
白石、日野、黒笠から言い寄られ、
「えーっと。これはなんというか……」
とは言ったもののどう説明をしていいものか。
これが本家本元の修羅場ってやつなのかもしれない。モテる男の性。
今少しだけモテる男の気持ちがわかったような気がする。
そして、今すぐここから逃げ出したい。
悩んだ末、極悪の根源である飾霧に再度縋ろうと熱い視線を送り助けを求める。
「では、茂木直から一言あるようです」
完全に見捨てられ、プチっと何かが切れる音が聞こえた。
何を済ました顔で俺を見てやがる。
元はと言えばてめぇのせいじゃねぇか!
それになんだこの女どもは、全て俺のせいだとでも言いたいのか?
ーー冗談じゃねぇ
ひとり悪者にされてたまるか!
これでもかと眉根に力を込めてから見苦しく吠えた。
「ーー言わせてもらうけどな。おめぇ達いつまでも人に頼るんじゃねぇ。好きなら自分の力でどうにかしてみろ。じゃなきゃ諦めやがれ。本当に好きならそのくらいの意地を見せてみろや!」
唖然とした三人は開いた口が塞がらない。飾霧は一人楽し気に笑いを堪えていた。
思いの丈をぶつけた後にゆっくりと続ける。
「……それでも助けが必要ってんなら手伝ってやる」
「ただし」と区切ってから、
「ーーみんな平等にだ」
と爽やかに親指を立てた。
三人の瞳からは希望の二文字が強く感じられた。
そんな期待の眼差しが一瞬で冷たい瞳に変わるなんて、俺は想像もしていなかったんだ。
「信じてたのに失望した」
「自分を棚に上げて最低だよ」
「裏切られた気分です」
冷え切った言葉だけを残し、三人はその場から離れて行く。
全てを失い呆然と天井を見上げる俺の肩を叩く飾霧は、
「最高だったわ」
と今まで見たこともない笑顔を見せてくれた。
「くそがああああああああああああああああああ」
心の底から叫んだ俺は当然のように出禁になった。




