モテモテ74
食事を終え、ドリンクを飲みながら休憩していた。
お腹と心の満足感にもう帰ってもいいかな? と、恍けていた俺に白石は問いかけてきた。
「茂木君」
「ーーん。どうした?」
「昨日の事なんだけど、いいかな?」
不安そうにこちらを見つめてくるので優しく諭す。
「ああ、そうか。悩み事があるんだったな」
「うん。そうなの」
「いいぜ。ドンと来いだーー」
言葉の通り胸をドンと叩く。
思いっきり叩きすぎて結構痛かった。
「それじゃあ、相談なんだけど……」
白石の顔は徐々に赤みかがっていく、息を整えてからゆっくりと続ける。
「津賀君とお出掛けがしたいの」
予想の範疇だったので驚きはしないものの。
涼太と出かけたいか……別に特別難しい相談じゃないが、あがり症をどうにかしないと無理だよな。
「わかった」
俺の言葉によって白石の表情はパッと明るくなった。
「ありがとう。手伝ってくれるって事でいいんだよね?」
「いいけど、あがり症を治さないと会ってもまともに話せないよな?」
「そこは、なんとか自分で頑張るから」
気合はあるようだからそこは任せるとして、
「そうか。じゃあ、後はどう誘うかだな」
「そうなの。そこが一番大変なの」
やはり相談を持ちかけたのは、俺から誘って欲しいとか甘い事を考えていたからだろう。
まさに愚の骨頂、浅はかなり。
涼太にそんな事をしてみろ。
きっと、あいつは疑いもせずに俺の言うことを聞くだろう。だからこそ俺が誘う訳にはいかねぇ。
こういうのは自分の力で勝ち取らないと意味がないんだ。
決して妬ましいからではない。
心を鬼にして口を開いた。
「俺が誘うのもおかしいから自分で誘う方がいいよな?」
「やっぱりそうだよね。自分で誘うしかないよね」
少しはわかっているみたいだが。なら俺に相談した意味とは?
「本人に直接会って誘うか、電話やメールで誘うかだな」
「直接はハードルが高いからメールにしたいんだけど……」
こちらに熱い視線を送っているのは、何かに気付いて欲しいからだろう。
そして空気が読める俺はそれを容易に読み取った。
「もしかして連絡先知らないのか?」
「うん」
こちらをチワワのような瞳で見つめてくるので、教えてやってもいい。
だけど、俺はそんなに安い男ではない。
勿体付けた表情で、
「それは残念だなぁ」
と言った後に白石の出方を伺う。
「教えてもらえないかな?」
瞬時に食らいついた大物は、前のめりになり俺の手をガッチリと両手で掴んでいる。
上目遣いで見詰めつつ小首を傾げた。
前までの俺だったらアホみたいに騒いでいたに違いない。悪いが今の俺は違う。
この程度で勘違いなどはしていないし、動揺もしない。
だって、白石ちゃんは俺の事なんてなんとも思ってねぇからだ。
だからこそこんなに積極的になれる。
平然とした面持ちで、「でもなぁ」とはぐらかす。
すると、身を乗り出した白石は「お願い」とハチミツのような甘い声でおねだりしてきた。
俺の鋼の意思をいとも簡単に砕くとは、なんという破壊力。わかっていても抗えない。
これが可愛い女の子だけに許された特別な力だというのか。
危なく天に誘われる所だった俺は息を整えてから一言。
「教えるよ」
「お、教えてもらえるんどすか?」
いきなり京弁になる辺り、嬉しさのあまり舞い上がっているのだろう。
此方も良い体験させてもらったし、おあいこだ。
「ああ、いいよ」
「で、でも。私なんかに勝手に教えたら、津賀君怒るんじゃないかな?」
「いや、平気だろ。同中だし。知らん仲でもないんだから。もし気になるなら聞いてみるけど」
今頃になって怖気付くのが、白石ちゃんらしいっちゃらしいな。
彼女はしどろもどろなりながら答える。
「……聞いて貰えるのは有り難いよ。でも、もし好きだってバレたら……」
徐々に小声になり弱気なのが見て取れた。
そんな彼女に向かって喝を入れる。
「バレるかはわからない。でも涼太の連絡先知りたいんだろ?」
「知りたい」
「なら、腹括ろうぜ」
「そうだね。私弱気になってた」
強く頷いた白石の瞳は揺るがない。
「それじゃ、聞くぜ」
スマホを取り出し素早く涼太にメッセージを送ると、ものの数秒で返信が来た。
「早いな」
「も、もう。返ってきたの? 心の準備してないよ」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だって」
あたふたしている白石に優しく声をかけた俺は内容をチェックした後、間髪入れずに口を開いた。
「いいってよ」
「本当に!」
飛び跳ねそうな勢いで前のめりになるので、少し引き気味で答える。
「ーーほんとだよ。そしたら送るな」
どれだけ嬉しいのかは言わずもがな。
俺もここ最近女の子の連絡先をゲットしたから気持ちは痛い程わかる。
でも一歩引いた所で見ていると、多少引くな。少しばかり飾霧の気持ちが理解できてしまった。
なんだろう。この微妙な胸のざわめき。
スマホを操作し、白石に涼太の連絡先を送信した。
白石はピロンという音と共にスマホの画面を確認しながら歓喜の声を上げる。
「と、届いた。ついに夢が叶った。私のスマホの中に、満を持して津賀君の分身が……」
言葉にならないのだろう。両手で大事に握り締められているスマホがそれを物語っていた。
何よりも嬉しそうで、教えた甲斐がある。
彼女の表情を見ていると俺まで幸せな気分になるな。とかは全く思わない。
こんなに愛されるイケメンを今すぐにでも抹殺したい。
邪悪な心境に苛まれながらも本題に入る。
「ーーよかったな。これで、心置きなく誘えるな?」
幸せから一転、憂鬱な雰囲気が漂う。白石はゆっくりと口を開いた。
「……そう簡単にはいかないかなぁ」
指を弄りながらうじうじしているので、呆れ気味の俺は、
「この先が思いやられる……」
と溜息を吐いた。




