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モテモテ70




 私は早朝だというのに離れへと足を運んでいた。


 昨日、焦燥していたせいで忘れてしまった小説を取りに来たのである。


 私とした事があんなに取り乱すなんて思いもしなかった。


 ーー雫が変な事を言うからだわ


 部屋の前に辿り着き、ゆっくりと扉を開く。


 すると、いつものように部屋の中は整っていた。


 使用人が片付けているので当たり前なのだけれど、机の上にはぽつんと小説が一冊だけ置かれている。

 私物には触らないように言っているから当然の事ではあるのだけれど、様子がおかしい。


 小説を捲ると、


「何かしら?」


 挟まっているモノを手に取る。


 すると、可愛らしい雪の結晶のキーホルダーが付いた金属製の栞が顔を出す。


「……なかなかいいセンスね」


 笑みを溢し栞を眺めていると、小説からひらひらと紙が落ちた。


「……手紙かしら?」


 拾い上げ中身を確認する。


『この間誕生日って言ってたからやるよ。気に食わないなら捨ててくれ』


 そう汚い字で書いてあった。

 スズメの涙ほども可愛げのない捻くれた短い文章だったのに、とても胸の中が熱くなるのを感じた。


 親以外に誕生日を祝ってもらうのはいつ振りかしら。

 随分と昔の事でもう忘れてしまったけれど、きっとこの事は一生忘れられない思い出になる。


 私にはそう思えてならなかった。


 それにしても、貰えると思っていなかったものだから少し驚いたわ。

 これがサプライズってものなのかしらね。


 彼にしては上出来ね。そんな事より……

 

「……名前ぐらい書きなさいよ」


 とても柔らかく温もりのある表情を浮かべる。


 呟いた音が静かに部屋に溶けていき、大事そうに胸の前で握られた栞は何よりも輝いていた。



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