モテモテ67
どうにか追いつき飾霧と共に校舎を出た。
そこまではいいのだが、女子と二人きりで下校をしたのは小学生以来だった事もあり、何も言葉を交わさないままかれこれ一五分が経過していた。
このままでは、一言も喋らないまま帰宅してしまう。
そんなの一人で帰るのと、何も変わらないじゃねぇか。
夕日が沈み、辺りは暗闇に包まれていく中。僅かな勇気を振り絞り声を掛ける。
「あのー」
「何かしら?」
飾霧はいつもとなんら変わらぬ様子なのに、俺の頭は真っ白になっていく。
思考が上手く働かないので、思いついた事を片っ端から言葉に変える。
「飾霧って、家こっちなのか?」
「ええ。電車で来ているもの」
「リムジンじゃねぇのか」
「基本は雨の日だけよ」
「そうなのか……なぁ、この道暗いよな」
「そうね」
無意識に空を見上げると星々が煌めいていた。
「星が見えるな」
「綺麗ね」
思いの外食い付きが良かったので、話を盛り上げる為に大袈裟な態度を取る。
「ほんと、綺麗だな。飾霧は星好きなのか?」
「好きな方かしら」
「そうか。実は俺も結構好きでーー」
未だかつてない手応えを感じた俺は星に向かって指を差した。
「あれがデネブであれがアルタイル、そして、あれがベガ。三つを合わせて夏の大三角って言うんだぜ」
「一般常識をひけらかしたいのなら他を当たりなさい」
右のストレートより効きそうな言葉が、いともたやすく心を砕く。
魔王が放った渾身の一撃により泣きそうになりながらも反論する。
「……一度言ってみたかっただけだし。別に知ってると思ってたし」
「そう」
冷たい返事が更に心を抉る。
星へ癒しを求め空を見上げると、キラキラと輝く無数の星が美しい。
徐々に癒され、回復した俺は徐に口を開く。
「……でもやっぱり星っていいよな。なんだか楽しそうだ」
「楽しそうね。私達が今見ている星は既に消えているのかもしれないのに」
聞いたことがある逸話に耳を傾けるも、
「確かにな。それでも俺には楽しそうに見えるんだよ」
はっきりと言い切ると飾霧は口元を緩めた。
「やはり、面白いわね」
「何がだよ」
「貴方という存在が……かしら?」
小首を傾げているが、俺の方が傾げたい。
「よくわからんが、褒められてるって事だな」
「ええ。絶賛しているわ」
飾霧のまるで心の籠っていない声音に説得力は皆無。
「そうは思えないのは気のせいか?」
「気のせいじゃないわね」
「ーーどっちなんだよ!」
少し考えてしまい返事が遅れたが、こいつはとんだペテン師だ。
「さあ、どちらが本当なのかしらね」
はぐらかす彼女に向かって宣言する。
「そうやって俺を弄べるのも今のうちだぜ。近いうちにお前の度肝抜いてやるから覚悟しておけ」
「言うようになったわね」
心なしか嬉しそうに言葉を弾ませる飾霧の瞳を見つめながら、
「いつまでもお前のーー」
そこで一旦止め、溜めに溜めた俺はキメ顔で言い放つ。
「言いなりじゃねぇ!」
「そう。モテたくないのね」
「そんな事は言ってない」
さっきまでの凛々しさはかけらも無く、一瞬で縋り付いていた。
「私に勝つのは当分無理そうね」
飾霧は優位に立っている事で心の底から愉悦に浸りきっている。だが、このまま終わる俺様ではない。
「確かに当分は無理かもしれねぇが、俺がモテ男になった暁にはーー」
「奴隷ね」
遮った言葉が握った拳をいともたやすく打ち砕く。
「そう、だった……」
脱力し膝から崩れ落ちた。
絶望していた俺は地面と見つめ合う。
その姿を見て、微笑む飾霧は満点の星空よりも美しい事を、この時の俺はまだ知らない。
そして家に帰ってまた渡しそびれていた事に気付き、面と向かって渡す難しさに打ち拉がれるのだった。




