モテモテ65
月曜日、放課後。
離れに向かおうとしていた俺は、女子生徒に捕まっていた。
「これ、この前のお礼」
いつになく厚化粧の彼女は、照れくさそうに紙袋を押し付けてきた。
「ああ、あの時のか」
昨日の出来事を振り返ると、目がパンダのようなギャルを思い出す。
みんなお分かりだと思うが、彼女は木崎である。
「そう。だから別に深い意味とかないんだからね」
「そんなのはなっから期待してないわ! お前が好きなのは涼太だもんな」
そっぽを向いた木崎を嘲笑った。
「そ、そうだけど? だからどうしたっていうの?」
動揺しながらも睨んでくるので、「別に」と興味なさ気に返事をした。
「ああそう。じゃあ用事はそれだけだから」
踵を返す彼女見て、ふとある事を思い出した俺は呟いた。
「あー。そうだ」
「なに?」
振り向いた彼女に向かって「てか、お前似合わないよな」と、主語のない言葉を口にする。
「いきなりなんなの。意味不明なんだけど」
「いや、その厚化粧」
「ーーあんたなんかに言われる筋合いないから」
一瞬言葉を詰まらせた木崎に、俺はやれやれと溜息を吐く。
「……そうだな。ーー全く黒笠とは大違いだ」
「……どうせうちは可愛くないし」
あまりの小声に聞き取れなかった俺は「なんだって?」と訊き返した。
「ーーどうせうちはあんなに可愛くないわよっ!」
叫び声に近いそれは、彼女の不平不満が詰まっていた。
だが、そんな事はお構いなしに思っている事を口にする。
「そんなの当たり前だろ。人をいじめてるようなやつが、可愛く見える訳ないだろ?」
「はぁ? そんな事言ってないんだけど、見た目の話だし」
「見た目ならお前も負けてねぇだろ。でも、肝心の中身がそれじゃ。宝の持ち腐れもいいところだけどな」
そこまで言い切ると、木崎が顔を紅潮させながら慌てて指を差した。
「さ、さっきから何言ってんの⁉︎ うちの事狙ってんの⁉︎」
息を荒げる彼女とは対照的に落ち着いた表情で答える。
「ーー誰がお前なんかと言いたい所だが、モテたい俺にとって女の子は神と同然。だから、基本的に女の子なら大歓迎だ」
木崎は「はぁ?」と唸り声を上げた後に、
「馬鹿じゃないの。誰があんたの事なんか好きになるのよ……」
ソワソワと髪の毛を指先で弄り始める。
「だよなー。その事で俺はずっと悩んできたんだよ」
今もこうして頭を抱えている。
どうすればいいのかと、全く木崎の言うことは的を射ているな。
珍しく感心していると、
「ほんと、ばっかみたい」
呆れ顔で言われたので、頭にきた俺は強めの口調で捲し立て。
「さっきからばかばか言い過ぎだろ。流石に温厚な俺でも怒るぞ!」
木崎の目の前まで歩み寄り睨みつけるようにして見下ろすと、何故か彼女は顔を上げ照れ臭そうに、
「ばか」
と言い残し走り去ってしまった。
ポツンと一人残された俺は額を押さえていた。
何、今の顔。なぜそうなる?
乙女のような表情しやがって、にしてもあの表情どこかで見た事あるんだよな。
というかここ最近何回も見ている気がするんだけど、なんだったっけ?
確かいつも大事な時に……思い出せねぇ。
「てか、あいつってあんな顔もするんだな。なかなか可愛いじゃねぇか」
木崎の表情を思い出した後、その場から立ち去ろうとした俺は違和感を覚え手元に視線を移した。
「あ、これ」
忘れ去られていた紙袋の中に手を入れ取り出す。
入っていた袋は可愛くラッピングされており、中身はこんがりと焼けたクッキーが入っていた。
「……まさか、手作りとか?」
袋を開け、徐にクッキーを取り出し頬張る。
咀嚼を繰り返し味わった後に飲み込むと、綻んだ口元から自然と言葉がこぼれ落ちる。
「悪くねぇ」




