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モテモテ64




「負けだぁー。ぢぐそぅ」


 悔し涙を浮かべる俺はテーブルを叩いた後に突っ伏した。


「また俺の勝ちだな」


「もう一回だ。もう一回」 


 プライドを捨て涼太に追いすがる。


「そう言って、もう五ゲームも付き合ってやったろ」


「そこを何とか」


「もうやらない。疲れたしな」


 疲労に表情を歪めた涼太に向かって力強く言う。


「貧弱やろうが。それでもちんちん付いてんのか!」


「言うまでもないだろ」


「そうか。付いてないのか」


「付いてるよ!」


 立ち上がった涼太の声のボリュームに慄いた俺は、


「ーー大声出すなよ。ビビったじゃねぇか」


 と弱々しく声を出す。


「変な事言うからだろ」


「だって悔しいじゃねぇか」


「わかったから」


 何か思いついたのか、とある所を指差した。


「ーーそれなら次はゲームセンターで勝負だ。いいだろ?」


「なんだ。涼太も勝負してぇんじゃねぇか」


「俺はどちらでも構わない」


「またまたー。そうと決まればさっさと行こうぜ」


 生き生きと立ち上がった俺はゲームセンターに向かって歩き出した。涼太は立ち止まり、


「俺はトイレ寄って行くから、先に向かっててくれ」


 と逆方向に歩き出した。


「おっけー。早く来いよ」


「ああ、わかった」


 涼太と別れた俺は、久しぶりのゲームセンターと言うこともあり。店を隈なく探索していた。


「ほう。暫く来ない間にここまで進化したか」


 UHOキャッチャーを凝視していたら、奥の方で椅子に座っている女の子が二人組の男に囲まれているのを目撃してしまった。

 涼太もいないし今は一人。人数的に不利でもあるし、知らない人間を助けるなど、余程の馬鹿か奇特な奴しかいない。





「そこの彼女。かわいいねぇ。一人? 一人じゃつまらないでしょ。俺達と遊ぼうよ」


「別につまらなくないし、ほっといてよ」


 男の誘いを強気な声で断る。


「うわぁ。気が強ぇ女。俺タイプなんだよなぁ」


 もう片方の男が興奮していると、仲間の男が下卑た笑みを浮かべた。


「あああ、こいつ変なスイッチ入ると止まらねぇからなぁ」


「こっち来いよ」


 強引に女の子の腕を掴む。


「や、やめて。離してよ」


 振り解こうにも力の差は歴然。女の子の嫌がる姿に、


「すげぇ。そそるねぇー」


 とよだれを啜る音。


 すると、後ろから親しげな声が聞こえた。


「なぁ、俺も仲間に入れてくれよ」


 振り向いた二人組は険しい表情で、


「は? てめぇ誰だよ」


「なんだお前」


 当然の反応である。

 俺はこんなゴミみたいな友人は一人もいない。


 でも、誰だよと聞かれたので、礼儀正しい俺は自己紹介をする事にした。


「俺か? 俺は通りすがりのモテたいだけのただの高校生だよ」


「そんな事聞いてねぇんだよ!」


「ガキが舐めてると痛い目みるぞ?」


 確かに、思いの外強そうな二人に無策で挑んだら、俺は血祭りにあげられてしまうだろう。

 だが、俺には秘策があった。


 勝ちを確信した俺は、決め台詞を吐く。


「ーーさっさとここから消え失せな」


 渾身の作り笑いを浮かべた。


 俺の顔を見た途端。

 どこかで聞いた事のあるような台詞を二人組は大声で叫んだ。


「「ひ、人殺しいいいいい」」


 そのまま、血相を変えて逃げて行った。


 やっぱり俺の作り笑いは凶器そのものだな。


 無事に一件落着した俺は女の子へ話しかける。


「大丈夫か? お嬢ーー」


 先程まで見えていなかった姿が明らかになり、叫ばずにはいられなかった。


「ーーってお前は、あの時のいじめっ子じゃねぇか!」


 目の前で目尻を拭っている女の子は一言で言うとギャル。

 制服を着崩し、リボンの代わりにピンクゴールドのネックレス。腕にはシュシュを付け、腰にカーディガンを巻いている。

 明るめの髪は胸元まであり、毛先が内側にカールしているのが特徴的。極め付けに厚化粧。


 彼女は何を隠そう。黒笠をいじめていた主犯格の木崎由きさきゆうだった。


 木崎は不愉快そうに口を尖らせる。


「誰がいじめっ子だ」


「だって、いじめてただろ。あんな事してるからバチが当たったんだな」


「……ぢ、違うもん」


 鼻が赤くなり目尻に涙を溜める。俺は慌てて、


「おいおい。泣くなって、俺が悪いみたいだろ」


「……いじめっ子じゃない。木崎……木崎由だから」


 必死に涙を堪えていた。


「わかったから。もう泣くな」


「泣いてねぇし」


「そうだな。泣いてないな。けど、目の周り真っ黒だぞ」


「えっ! 本当だぁ」


 手鏡で確認するのにかかった時間。れいこんま一秒。


 鏡から俺に視線を移した刹那、「み、見んなしぃぃぃ」と椅子から立ち上がり走り出した。


 慌てて走り出した背中を見ながら呟く。


「助けて貰ったのにありがとうもなしかよ。全くこれだからーー」


 俺の声を遮ったのは意外にも立ち止った木崎由の声だった。


「一応、さんきゅぅ」


 こちらを向かないのは色んな意味で恥ずかしいからだろう。


「ちゃんとお礼、言えるじゃねぇか」


 走り出す前に「うるせぇ」と置き土産まで置いていく辺り、あいつはいいツンデレになると一人確信するのだった。


 木崎とすれ違うようにして、戻ってきた涼太は怪訝な表情を向けてくる。


「直なんかあったのか? 今、凄い勢いでうちの生徒走って行ったけど」


「まぁ、あれだ」


 俺は嘲けながら続けた。


「ーー見なかった事にしてやってくれ」


「なんだよそれ」


「いいから。勝負始めっぞー」


 歩き出す俺の後ろを、涼太は訝しげな表情で付いて来る。


 この後ゲームセンターでもコテンパンにされた俺は、木崎よりも泣き喚くのだった。



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