モテモテ62
翌日。
朝方から離れに集まっていた。
「一応。これで三人の悩み事を解決はしないまでも手伝った訳だが、どうだ?」
窓際に置いてある椅子に座りながら問う。
すると、ソファに腰掛けていた飾霧が不機嫌そうに脚を組み換えた。
「何が、どうだ? よ。全て失敗しているのに、よくもそう堂々としていられるものね」
もう六月だというのに今日もより一層冷えるな。
全くなんだあの表情は、無表情で何を考えているのかさっぱりわからん。
なので、少しは表情を与えてやろう。
俺は顎を上げ、飾霧を見下した。
「お前だって、失敗してるだろ」
「ーーあ、あれは、あれよ」
表情が一瞬硬直したのがわかった。俺は透かさず、
「なんだよ」
「黙れ」
久しぶりの凍てつく一言。
とてつもない剣幕だし、瞳孔が開いていた。絶対こいつ何人か殺ってるよ。
俺が高校生になって漏らす訳にはいかないと、必死に堪えているのを余所に飾霧は言う。
「それに、成功か失敗かはどうでもいいことなの。この作戦の本懐は、女に慣れる事にあったのだから」
「ーーそんな事も言ってたな。その面に関しては成功と言ってもいい気がする。美少女と距離を縮める事で、女の子と一緒に居てもそこまで緊張しなくなってきた」
確かにあの三人は美少女揃いだけど、脈なしが確定しているから俺のモノにはならない。となると、やっぱり新しい女子が登場してもらわないと困る。
新たなヒロインの事を考えていると、飾霧がいつになく強気に言う。
「秘策があるわ」
「秘策だって!」
秘策とか言われてテンションが上がらないわけもなく、今にも踊り出しそうな俺に冷たい声が届く。
「いいから黙って聞きなさい。次はモテる為に必要不可欠な作戦をする予定なの」
「予定って事はまだ先って事か?」
「そうね。この作戦にはタイミングが重要なのよ」
「ほう。タイミングか」
「なので、作戦が始まるまでは今まで学んできた事の復習期間にするわ」
「わかった」
即座に頷き妄想を膨らませていた。
飾霧があそこまで言うからにはきっと、俺の想像もしない作戦が待っているのだろう。
今までを思い返すと多少嫌な予感もするが、ここは彼女に託すしかない。
俺は飾霧の言うとおりに、今は黙々と復習に励むしかなさそうだ。
一週間後の昼休み。
ここまで飾霧に言われたとおり、今まで教わった事を復習してきた。
身嗜みは勿論。爽やかな挨拶。そしてさりげない優しさ。
だが、女の子からモテるどころか話かけられもしない。
爽やかさと優しさの極意がまだ俺には掴めていないという事なのか。
それとも……
学食で食事を終え、机に突っ伏してた俺は休憩している涼太を気怠そうに見上げた。
「涼太。おめぇにあって俺に無いものってなんだ?」
涼太は突然の問いにも動揺せずに答える。
「品とか」
「確かにねぇな」
余りに的確な答えに頷くしかなかった。
だとすると、品はモテる為に必要不可欠な要素ということだ。これはいい事を聞いた。
「ほー。勉強になるわ」
「それはよかった」
爽やかの塊のような表情のイケメンに更に問う。
「因みにお前に無くて俺にあるものはなんだろうな?」
「そうだな…………我とか?」
「我か。そんなに俺の我は強いのか?」
怠そうに訊き返す。
「ああ。世界トップクラスだろうな」
「そんなに褒めんなよ」
世界と言う言葉に気怠さは吹き飛び、起き上がった。
「褒めたというか……確かに直の良いところではあるな」
無理やり納得しながら頷く涼太の言葉を聞き、俺は一人熟考する。
そうだよな。我が強いっていいじゃねぇか。
自分を信じてるって感じがして、凄くかっこいいじゃねぇか。まるで一匹狼だな。
そう思うのはもしかしたら間違いなのだろうか?
だから俺はいつまで経ってもモテないのだろうか?
ぼーっと遠くを見つめ、間の抜けた声を出した。
「……と、いうかよ」
「なに?」
「なんで、お前はモテるのに……俺はモテないんだよ」
心からの声が溢れ落ちた。
涼太は平然とした表情で受け止め、「そんな事。俺に言われても困る」と苦笑い。
「だって、そんなに差があるようには感じなくもないんだよな」
「どっちだよ」
トゲがまるで無いツッコミ。流石イケメンだと思う。
「とにかく。俺ってそんなにモテなそうか?」
「いや。そんな事はないと思うけど」
「だよなー」
イケメンのお墨付きだ。
やはり、俺がモテないのはこの世界がおかしいって事だ。この世界狂ってるやがるぜ。
自分の世界にどっぷりと浸かっていると、涼太は心配そうに声をかける。
「直。大丈夫か?」
「ああ」
適当に返事をすると、涼太が怪訝な瞳を向けてくる。
「ーー本当にどうした。今日はいつも以上に変だぞ」
「変だよなー」
この世界変なんだよ。俺に優しく無い世界なんていらない。
そうだ。だったらいっその事、
「ーー滅ぼすか」
思っていた感情がつい言葉になった。
「これは相当参ってるな」
「そうと決まれば、善は急げだ」
世界征服に打って出ようとする俺には、心配している涼太が全く見えていなかった。
彼はやれやれと首を振った後に、
「偶には二人で何処か行くか?」
と語り掛けてきた。俺は聞き捨てならない言葉に、やっと我に返った。
「ーーお前から誘うなんて、珍しいな。小五以来だ」
確かあれは……俺が好きな子に振られた日だったか。
「そんな事よく覚えてるな」
「あたりめぇだろ。親友との思い出をそう簡単に忘れられるか」
「そういうところが俺はかっこいいと思うんだけどな」
「イケメンに言われても嬉しくねぇよ」
余りに自然と言うもんだから、鼻がむず痒いぜ。
「そんな風には見えないけど」
爽やかに微笑むので天中。
「だまらっしゃい!」
涼太の頭に目掛けて手刀を振り下ろしたが、当たる寸前の所で華麗に真剣白刃取りをされ、
「ーーなんだよそのキャラ。とにかく今度の土曜日。どこに行く?」
と尋ねてきた。
静かに手刀を納めた俺は返事をする。
「ああ。そうと決まれば行く場所を決めねぇとな」
「場所は直が行きたいところでいいからさ」
「マジか! 俺が行きてぇ所はいっぱいあるぞ。遊園地に水族館にプラネタリウム。海と山も捨てがたいな……って全部女の子と行きてぇ」
拳を握りながら天を仰ぎ、唇を噛むと悔し涙が溢れてきた。
そんな俺を優しさで包み込むかのような暖かい声が届く。
「ーーそれなら女の子も誘えばいいだろ?」
「いいのか?」
流石に聞き返すよね。あの涼太の口から女って単語が出てくる日がやってくるなんて、一大事だ。
大袈裟な事を考えていると、涼太が全てを見透かしたかのような表情で俺の肩を叩く。
「まぁ、誘う女がいるかは別として」
「てめぇ、今すぐ死にたいようだな」
俺に冗談が通じない事をわからせる必要がありそうだ。(指ポキ)
顔を顰める俺に恐れをなしたのか、涼太は肩から手を退ける。
「と、冗談はこの辺にして、男二人ってのも悪くないもんだろ」
「確かに、悪くはねぇな」
最近は涼太と遊ぶ事も多少減ったし、親友水入らずってのも乙だな。
この後どこに行くのか決めるのに、それほど時間は掛からなかった。




