モテモテ56
「と、まぁこんな事があったわけだ」
離れにて、朝起きた出来事の説明をしていた。
だが、どうも終盤につれて飾霧の様子がおかしくなり額を押さえる始末。
その張本人がいつもより一層冷たい声で、
「そのにやけ顔を今すぐにやめてもらえるかしら? 目眩がするの」
「目眩がするって、どれほどだよ!」
華麗にツッコミを入れると、飾霧は不愉快そうに手鏡を向けてきた。
「これほどよ」
「あら、ほんと。じゃねーわ!」
鏡を覗いたら自分で言うのもなんだけど、少し気持ち悪かった。
ついノリツッコミまで入れてしまい、卑屈だ。
そんな俺の心をよそに飾霧は今日も絶好調のよう。
「本当に元気いっぱいのお猿さんね」
「誰がお猿さんだよ」
「ウキーウキーと、奇声を上げてもバナナはあげないわよ」
「誰も叫んどらんわ」
「あらそう? もしかして幻聴かしら? さっきのにやけ顔を見た時の副作用かしらね……」
わざとらしく再度額を押さえる。
その姿を見てこめかみをひくつかせながら真顔で答えた。
「おっけー。話しをしよう。これからの」
「いいわよ」
一呼吸してクールダウンした後ゆっくりと話し始める。
「でだ。話した通り白石ちゃんの悩みを解決するにはかなり難儀しそうなんだが。いいアイデアあるか?」
「特にないわ」
「ないのかよ」
即答だったので、考えた素振りがまるで無いように思えてならなかった。
飾霧は間を開けてからゆっくりと唇を動かす。
「一旦彼女は置いておくとして、他の子に行くのもいいかもしれないわね」
「その手があったか……」
飾霧が言うように一人に固執する必要はない。
白石ちゃんには悪いが、次の女の子にターゲットをロックオン。
直ぐに次の相手が思い浮かび宣言する。
「次は日野でいく」
「ええ。期待しているわ」
飾霧とは違う意味で期待しかない。
白石ちゃんの時もそうだが、こんなご褒美みたいな展開が待ってるのなら俄然やる気が湧いてくる。
日野を選んだ理由は言うまでもなくアレが目当てだ。
さて、次はどんなサービスが待っているのか、今からワクワクが止まらないぜ。
ーーなぁ、ワクワクさん!
翌日。
二限の休み時間に日野を見つけた俺は自然と声を掛けた。
「日野。悩み事とかないか?」
「えっ。どうしたの。急も急だね」
振り向いた瞬間、ふわっと揺らぐ軽くウェーブの掛かった明るめの茶髪は肩まである。
無邪気で明るい雰囲気を醸し出す可愛らしい顔立ちに、豊満な二つの果実がブラウスを押し上げ、露出された健康的な小麦色の谷間に自然と目が吸い寄せられてしまう。
そんな彼女も突然の言葉に瞳を丸くしていた。
胸に意識を持っていかれそうになった俺は頭を振り、正気を取り戻してから言葉を返す。
「ありそうな顔してたからさ」
「そんな顔してたかなぁ?」
「ってのは冗談で、何もなければいいんだけど」
それとなくはぐらかしてみた。
すると、日野は唸り声と共に暫し考えてからグロスが輝く唇を動かし始めた。
「……あるといえば、ある」
「本当か。もしよければ教えてもらってもいいか?」
「別にいいけど。笑わない?」
「人の悩みを笑うもんかよ」
当たり前の事をキメ顔で言う。それが茂木スタイル。
急に頬を紅潮させた日野はもじもじと指先をいじり始めた。
「なら。言っちゃうけど……私、料理下手なんだよね」
「う、うん」
流石に反応に困った。思い出したくもないサンドウィッチの記憶が蘇る。
「何その顔。確かに茂木君はもう知ってるもんね」
「よく知ってるよ。この身体が覚えてやがる」
唇を尖らせ不機嫌そうな日野より、俺の方がよっぽど不機嫌になりそうな程に酷い味だった。
思い出したら胃が悲鳴を上げ始める。
胃のあたりを抑えている俺に向かって、日野は弾んだ声で言う。
「やっぱり。好きな人には美味しいものを食べてもらいたいじゃん?」
「……この前、涼太も一緒にサンドウィッチ食べていたような……」
「あれはテストだから、いいの」
「テストねぇ」
優しさを試す為に不味いものを食わせて、その反応を見たって事ね。
俺の事も試していたようだし、意外に用心深いな。
「という訳で、料理が上手くなりたいの」
「ーーその悩み解決できるように手伝ってもいいか?」
「本当にいいの?」
「当たり前だ。友達の悩みを解決するのに手を貸さない男はいないだろ」
爽やかフェイスでそう言った。
「茂木君。かっこいいかも」
「かもは余計だけどな」
「へへ。ならお願いしちゃおうかな」
「おう。任せとけ」
これ以上の被害者を生まない為に、俺は奮い立つ。




