モテモテ57
放課後。
離れにて、ソファに座る飾霧の前で片膝を付き、全力でごまをする体勢の俺。
「という訳で先生。料理を教えてあげてくれませんか」
「何かと思えば、そんな事」
見下した瞳はより一層生き生きとしている。
「って事は」
「嫌よ」
「ですよねー」
全然。これっぽっちも期待していませんでした。わかっていました。はいはい。
と心の中でやさぐれていると、
「ーー嫌ではある。けれど、仕方ないから特別に教えてあげてもいいわ」
「どういう風の吹き回しですか」
想像の斜め上の展開に身を乗り出さずにはいられなかった。
飾霧は「近い」と脚で俺を突き放し、話を続けた。
「そうね。強いて言うなら、教えるのがあなたじゃなくて日野彩香。だからかしら」
「先生。今日のお言葉も、鋭いナイフのような切れ味ですね」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
皮肉を言ったつもりが全く効いていない。こいつに弱点があるのなら是非教えてほしい。
ーーどしどしご応募待ってまーす!
「で、いつかしら?」
と無表情な彼女。その何も動じない表情を曇らせるべく、俺は素の顔でこう答えた。
「ーー今からです」
「貴方。馬鹿なの? 普通に考えさえすれば前もって準備が必要になる事ぐらい察しがつくわよね? それと、はなから交渉する気は無かったみたいね。ーーこの駄犬」
どうやらご立腹のようだ。ざまぁねぇ。
最高の気分の俺は愉しげな声を響かせる。
「いや、それは違います。先生を信じていただけですよ」
「そう。別にいいわ。もう用意は済んでいるもの」
無表情なのにどこか見下されている雰囲気に俺は震えながら、
「意味がわからねぇ」
今さっき前もって準備がとか言っていたのに……どうして?
というか準備する時間なんていつあったんだよ。
「貴方には一生経っても理解出来ないわね」
「多分俺以外にも一生理解できねぇよ」
「かも知れないわね」
と、僅かに口元を緩めるのでもう一度この言葉を贈ろう。
「意味がわからねぇ」




