モテモテ55
「また呼び出してすまねぇな」
「ううん。大丈夫だよ」
放課後。
再度、白石ちゃんに図書室へ来てもらった。
受付の席に座る白石の隣に腰を下ろし、手っ取り早く本題に入る。
「実はな。あがり症を治せるかもしれない方法を見つけたんだ」
「ほ、本当に⁉︎」
驚くのも無理はない。
今日の昼相談を受けて、今は放課後。対応が迅速過ぎる。切実にそこらの企業に見習って欲しい。
俺が社会人になった暁には、そこら辺の改変をしてみせる予定だ。
偉大な野望を抱きながらも、目をまんまるくしている白石に対してニヒルな笑みを浮かべる。
「本当だとも。聞きたいか?」
「聞きたい」
真剣な表情もとても可愛いので合格。
「素直でよろしい。じゃあ説明するが、あがり症ってのはやっぱり恥ずかしいからあがってしまうのだと思う。だから恥ずかしさに慣れれば克服は可能であると考えた。なので、これからは常に恥ずかしい状況下で過ごしてもらう」
「そ、それって具体的には何をすればいいのかな?」
そこを考えていたのだが、俺が考える恥ずかしいと、白石ちゃんが考える恥ずかしいは『=』ではない。
だから……
「それは白石ちゃんが考えるんだ。恥ずかしいと思う事をやればいい」
自分で考えて自分が一番恥ずかしいと思う事をやればいい。因みに俺が一番恥ずかしいのはフルチン……やめておこう。
小学生の低学年が大好きそうな碌でもない事を考えてる間に、白石は「恥ずかしい事かぁ」と呟いた後に顔を真っ赤にさせ、ポツリと呟く。
「やりたくないなぁ」
その言葉を聞き逃さなかった俺は鋭い瞳を向ける。
「そう。それだよ。今思ったやりたくない事。それをあえてやる事で、恥ずかしさに慣れる。最終的には克服できるはず」
「で、でも……恥ずかしいよぅ」
白石は辛抱ならないと顔を両手で覆い隠した。でも俺は止まらない。
「だからやるんだ! あえてやるんだ!」
「でも」
渋る彼女に向かって俺は特大の釣り針を垂らした。
「一生。涼太とまともに会話できなくてもいいなら別にいいけど」
「やだよ」
即答。見事に釣り上げた。
「なら頑張ろうぜ。俺も出来る限り協力するからさ」
「わ、わかった。私頑張る」
自分の胸の前で小さな拳を二つ作り、やる気に満ち溢れているようだ。
彼女に変わってほしいと更に小さな背中を押す。
「その意気だ。白石ちゃんなら出来るよ」
「うん。まかせて」
そう言い叩いた胸は平らだったが、それそれでありだと思った。
「ん〜。朝に飲む牛乳は美味だな」
ワイングラスに牛乳を入れテイスティング。これは俺の日課である。
ーーごめん嘘ついた。
因みにこの後母ちゃんにどつかれました。
そんなこんなで朝から不機嫌な俺は競歩独特の歩き方で一人学校へと向かっていた。
通り過ぎるサラリーマンや学生に猫。みんな違ってみんな良い。とか、意味がわからない事を思いながらひたすら進む。
「それにしても今日は快晴だな」
瞼の上に手を被せながら空を見上げた。
なんと青い空なんだ。どこまでも続く青。空を見ているとなんだか心が洗われるようだ。
暫く空を見上げていた俺は、現実に戻るかのようにして前へ向き直り、大きな一歩を踏み出した。
やっとのことで校舎が見えてきた。と思いきや、校舎よりも気になるものが目に止まる。
それは異様なまでの人だかり、大勢の我が校の生徒達。側から見たら野次馬のようだ。
一体何が起きたのだろう。
まさかとは思うが、なんらかの事件が起きたに違いない。
何故なら、普段人集りなど出来たことはないのだから。
この高校に一年以上通っているが、そんな状況に出会した事もないし。結局の所凄く気になるから人集りの方へと歩み寄った。
人を掻き分け中へと進む。
そして人混みの隙間から覗き込むと、見覚えのあるようなないような。変わり果てた女の子の姿に声を上げずにはいられなかった。
「し、白石ちゃん!」
「み、見ないでぇ」
りんごのように真っ赤な顔を両手で覆い隠した彼女は別人だった。
髪はツインテールにし、極限まで短くしたスカートからは白のニーハイが顔を覗かせていた。
まさに二次元から飛び出してきたかの幼女は、当然のようにクソ可愛い訳で……堪らなく興奮する。
「ーーな、なんでそんな格好してるんだよ」
流石に動揺を隠しきれない。まさか白石ちゃんがここまでするとは思っていなかったからだ。
「だ、だって。茂木君が恥ずかしい事しろって言うから」
テンパっているのか白石はとんでもない事を口走った。
そのせいで野次馬(男子生徒達)の目の色が変わる。そして俺の学園生活が終わる。このままでは……
「待て。語弊があるだろ。確かに言ったといえば言ったが、あれは決してそういう意味ではなくて」
しどろもどろ誤解を解こうとするが、周りの男子が血の涙を流す勢いで、歯軋りをたてながら睨みつけてくる。
「じゃあ。どういう意味だったの?」
「いや、あの……そ、そういう意味でした」
追い詰められたというか。この姿を見れただけで満足した俺は頭を下げていた。
「やっぱりぃ」
とほっぺを膨らます天使。ライフルで撃ち抜かれたような衝撃に胸を押さえる。
大半の男子生徒は血を吐いて倒れたのだが、倒れた理由は俺ではなく、きっと白石ちゃんのせいだろう。
この騒動に終止符を打ったのは倒れた男子生徒でも、周りに居た他の生徒でもなく、我が校きっての有名人である高島先生だった。
四十代で焦げ茶色のズボンに白いワイシャツ、変な柄のネクタイを締めている。
白髪が混じった短髪の強面が放った。「静まれええええええええッ」たったその一言でみんなを黙らせる。その手腕には恐れ入る。
怒号の名を欲しいままにする男は一味違うと思った。けど、
ーーやっぱりうるせぇ




