モテモテ46
「……友達になってもらえませんか?」
意外な言葉に驚いた。だが一番驚いて取り乱していたのは飾霧だった。
「と、と、友達ーーえっ?」
「驚き過ぎだろ」
「き、気のせいよ」
飾霧を見るといつもと違い冷淡な表情ではなく、おどおどしながら目を泳がせていた。
「だ、ダメでしょうか?」
黒笠の不安そうな大きな瞳を見て即答した。
「俺はいいけど」
黒笠は俺の答えを聞くや否や、両手でテーブルを勢いよく叩き前のめりになり、「ほ、本当れすか!」と勢いよく噛んだ。
それに気付き照れる黒笠は可愛かった。これが本来の彼女なのかもしれない。
「わ、私は……別にいらないのだけれど」
俺が返事をする前に、未だに動揺している飾霧が割り込んできた。
「そうですか……」
黒笠の表情は先程とは一転し、まさに天国から地獄とはこのことだ。その表情を察したのか飾霧は尋ねる。
「ち、因みに、なぜ、友達になりたいのかかしら」
かかしらってなんだよ。どんだけ動揺してんだよ。
「それは……数日二人といてすごく楽しくて、助けてもらっただけなのは知っています。けど、それでも友達になりたくて……」
前までとは違い、もじもじせずに堂々としていた黒笠の姿を見て飾霧が優しく微笑む。
天使のような暖かさを感じ、その表情を間近で見ていた俺の胸は高鳴る。
「言うようになったわね。踏み続けたお陰かしら」
「それはどうだろうな」
一言余計なんだよ! 俺の高鳴りを返せ!
「貴方には聞いていないわ」
「そうですねぇ」
いつもの調子は戻ったみたいだ。二度と戻らなくてよかったのに。
「踏んだお陰です」
「そうだったのか?」
「そうです」
黒笠の意外過ぎる返事に首を傾げずにはいられなかった。
「ほら、また踏ませてあげなさい。友達なのだから」
急な無茶振りをする飾霧は実に楽しそうに微笑んでいた。
友達=踏ませてあげる。の定義はこの世には確実に存在しない。
「飾霧様も友達だろ」
「な、何言ってるのかかしら? 勝手に決めないでもらえる」
またかかしら出たよ。
「黒笠。勝手に友達ってことでいいよ」
俺は仕返しとばかりに話を進める。
「本当に何を言っているの?」
「ありがとうございます」
飾霧の疑問を置き去りにして、黒笠は笑顔で頭を下げる。だが、飾霧はまだ納得がいかないのか食い下がる。
「なぜ、勝手にお礼を言っているのかしら?」
「そんなわけで、めでたしめでたし」
「ですね」
あまりのしつこさに二人で締めると、その扉を力ずくでこじ開ける魔王。
「勝手に締めないでもらえる?」
「飾霧様。明日の作戦はなんですかねぇ」
「勝手に話題を変えないでもらえる?」
話題をすり替えるが飾霧はまだ諦めない。友達になりたいんじゃないのかよ。顔に書いてあったぞ。
「作戦ってなんですか?」
「この男をモテモテにする作戦よ」
黒笠の疑問に答える辺りは真面目そのもの。ついに観念したのか、マジでしつこかった。
「そうなんですか。面白そうですね」
「貴女も手伝いたいの?」
「はい!」
「仕方ないわね。特別よ」
なぜかどんどん話が進む。それにこっちは真剣なのに、面白そうってなんだよ!
「なんか勝手に決まっているんだが」
「貴方に拒否権はないもの」
「ですよねぇ……」
ため息を吐いて諦める。
「次の作戦は何かしらね?」
「いや、俺に聞かれても」
「偶には自分で考えなさい」
御尤も過ぎて言い返せない俺に、助け船を出してくれる黒笠。
「私も考えます」
黒笠は本当にいいやつだな。巨乳だし、それは関係ないか。
がっはははははははは! ーーと碌でもない事を考えていたら、
「一つ思いつきました」
黒笠は控えめだが手を上げた。
自分の意見を言おうとするなんて本当に変わった。俺が踏まれたお陰だな。もう御免だけどな。
「言ってみなさい」
言葉が怖いよ。もう少し優しく言えないのかよ。俺だったら、「なになに聞かせてよ」とか言うぜ。これはこれでキモいか。
黒笠は呼吸を整えると口を開いた。
「それじゃあ。えっと、そろそろ中間テストがあるんですけど、そこで一位を取るのはどうでしょう。一気に知名度とかも上がりそうです」
「いいわね。それ」
「一位は無理だろ」
飾霧には好感触だったらしいが俺には不評だ。
「貴方には聞いていないのだけれど」
「そこは聞いてくれよ」
「却下」
「わかったよ。やればいいんだろ。やれば」
俺が首を縦に振るまで続くストーリー。
「その通り」
「お二人はやはり仲がいいんですね」
黒笠の言葉に異議を申す。
「妄言ね」
「ありえねぇ」
同時に否定すると、黒笠は嬉しそうに微笑む。
「息ぴったりです」
黒笠を無視して飾霧は話を進める。
「今回の作戦名は、中間テストで一位を取って校内の好感度上げちゃおう」
「ほんとやるのは構わないんだけど、マジで一位は無理だと思う。飾霧様ってそもそも頭いいのか?」
「愚問ね」
「じゃあ、どのくらい頭いいんだ?」
「生まれてこの方百点意外は見た事すらないわね」
飾霧は腕を組んで心なしかドヤ顔で言い切る。俺は平然と頷き一言。
「やっぱりか」
「分かっていたなら聞かないでくれるかしら」
「一応聞いただけだ。それに飾霧様が一位を取るんだから
俺には無理だろう」
「確かに」
俺の真っ当な意見に黒笠も頷く。だが飾霧は首を縦には振らなかった。
「それは間違いよ。確かに私は当然のように一位を取るわ。それは揺るがないとして」
「揺るがないのかよ」
「揺るがないんですね」
「いいから聞きなさい。私と同じ点数、つまり全て満点を取ればいいだけよ。そうすれば同率一位になるわ」
二人の華麗なツッコミは流され、無理難題を押し付けてくる。
「いや、無理だろ」
「ですね」
声を荒げる俺と冷静に頷く黒笠。
「二人とも馬鹿ね。やる前から諦めてどうするの? だからいつまで経ってもモテないし、いじめられるのよ」
「「……」」
二人共返す言葉もなかった。
「わかったのなら、すぐに始めるわよ」
「ーー勉強道具は教室なんだが」
「なぜ教室にあるのかは聞かないでおいてあげるから、早く持って来なさい」
「はい」
「……私も、一緒にやってもいいですか?」
「勝手にしなさい」
「はい」
この後想像を絶する地獄の勉強会がスタートしたのだった。




