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モテモテ44



 朝。目覚めると、不安な気持ちに苛まれる。


 この三日間で黒笠は大分変われたと思う。

 悪い意味で変わってしまったのかも知れないが、今は置いておこう。

 とにかく彼女は変わった。だが、その程度で人気者になれる程この世は甘くない。

 仮に人気になったとしてイジメがなくなるなど、到底無理な話。だけど俺には、多少だが自信があった。

 何故なら先に手を打っていたからだ。


 話は戻るが、加藤と対話した後の事だ。




 窓際で熟考していた俺は予鈴がなったと同時にある事に気付いた。

 そして、部屋から出てくる加藤に声を掛け更に情報を手に入れた。


 もう授業開始まで時間がないので、放課後とある人物に会いに行く事にした。


 ホームルームが終わると同時に、一年三組の教室まで競歩で向かう。教室内を覗くと、あからさまに騒いでるグループがある。

 この前同様四人組でキャッキャと会話を楽しんでいた。そこに居る一人の女子。木崎由に会いに来た。


 俺は迷わず教室の中に入って行き、そのグループに声を掛けた。


「木崎由。ちょっといいか?」


「ーー何か用?」


 ブラウスのボタンを二個外し、リボンの代わりにピンクゴールドのネックレス。腕にはシュシュ。腰にカーディガンを巻いている。

 明るめの髪は胸まであり、毛先は内側に向かってカールしている。極め付けには厚化粧。


 ギャルのお手本のような風貌の木崎は、気の強そうな目付きを向けてくる。

 俺と視線が交差させると、「あ、あの時の」と目を見開く。他の三人も同様に驚いていた。


 俺は堂々した態度で見下ろしながら、


「そうだあの時のだ。少し話があるから付いて来い」


「えー。めんどくさいんですけど。ねぇ」


 飄々とした態度で周りを煽ると、「そうだよね」「そうそう」「それあるぅ」と三人が頷く。


 そのふざけた態度に苛立ちを覚えた俺は強めの口調で言い放つ。


「いいから来い!」


「っ! わ、わかった。行けばいいんでしょ。行けば」


 予想を絶する声の大きさに怯んだ木崎と三人。その他のクラスメイトも俺に釘付けである。


「分かればいい。付いて来い」


 俺と木崎は教室を後にし、人気の少ない場所へ向かった。そこは黒笠と四人組と俺が出会った場所。校舎裏だ。


 俺は着くや否や、遠回しに言うのは好きじゃないので単刀直入に言った。


「お前に頼みがある」


「な、何よ急に?」


 たじろぐ木崎に向かって真剣な表情で、


「いいから聞け。お前の好きな津賀涼太の話だ」


「っ! なんでそれを……じゃなくてなんの話かさっぱりなんだけど」


 一気に声のボリュームが上がる。動揺しているのが手に取るようにわかる。俺は更に被せていく。


「俺はなんでも知っている」


「ふ、ふーん。そうなんだ。で、頼みって何? もしかして黒笠の事? それだったらーー」


「シャラーップ!」


「は? な、なんなの?」


 完璧な発音で完全に遮る。訝しげな表情の木崎を俺は睨んだ。


 勘違い野郎め。主導権は俺のものだ。


「耳の穴かっぽじってよく聞け。お前に頼みがあると言ったがこれは取引だ。もしお前が黒笠から手を引かないと言うなら俺の大親友の涼太に、お前はクソ淫乱ビッチ野郎だと告げ口してやる」


「そ、そんな脅しがウチに通用するとでも」


 わなわな震え、冷や汗を垂らす木崎を鋭い眼光で見下ろす。


「そんな事はどうでもいい。俺は本気だ」


「そもそもあんたが津賀先輩と親友なんて話あり得ないから」


 苦し紛れに放っただろうその言葉を聞いて、俺は腹を抱え吹き出した。


「ふふふはははははは。確かに、俺のような奴にあの超絶イケメンの親友がいるなんて、信じられないよな。でも事実だ。俺があいつと居る所をお前も少なからず目にした事があるだろ?」


「そ、それは……」


 俯く木崎は初めて会った時より、だいぶ小さく見える。


「早く決めろ。俺は今すぐ言ってもいいんだぞ」


「ていうか。そんなデタラメ言ったって、津賀先輩は信じないから」


「信じなくても、少なからず悪い印象は受けるだろうな。なんたって俺とあいつは親友だからな」


「くっ」


 悔しそうに唇を噛む。その表情を見て俺は畳み掛ける。


「わかった。お前がもし手を引くなら、これをやる」


 胸ポケットから出した写真を前へと叩き出した。


「そ、それは……涼太先輩の生写真。ゴクリ」


 今日最大のリアクションを取る興奮気味の木崎。


「そうだ。これは激レア。上半身裸の生写真だ。ほらどうした。早く答えろ。この写真は俺しか持ってないぞ。今しか手に入らないぞ」


 ゲス顔で、木崎の顔の前で写真をゆらゆらと靡かせる。すると辛抱堪らんと頷く。


「わ、わかった。あいつからはもう手を引く。だから、その写真早く寄越しなさいよ!」


 はぁはぁと吐息を漏らす木崎はまるで、ご飯をせがむ犬のようだ。


「これで、交渉成立だ。もし約束を破るような事があったら、どうなるか分かってるだろうな?」


「わかってる。絶対守るからーー」


 もう我慢できないと、ヨダレを垂らしながら雌の匂いを漂わせる木崎。


 なんだろう。この高揚感は……非常にいい。もしかしたら目覚めてしまったのかもしれない。Sに。


「この欲しがりさんめ。いいだろう。受け取れ」


 写真を地面に落とすと、それに飛びつく雌犬こと木崎。彼女はそのままの体制で尻を振りながら写真を食い入るように見る。


「ーーあぁ。超カッコイイ。この綺麗に割れたシックスパッド。それに上腕腹直筋。へへー。これウチの家宝にしよう」


 あのだらしない顔……最高じゃねぇーか! いや待て! 危うくSに囚われるところだった。


 大興奮の木崎を置き去りにして、俺はその場を去ったのだった。こうして、木崎由の除外に成功した。


 まだ残り三人居るが、見るからにグループリーダーが木崎だったので、他の奴は野放しにしてある。

 もし、あの三人が何かするようなら加藤から情報を貰い、脅すまでの事。


 ふっふははははははははははははっ!




 このようにして先手を打っていたので、多分大丈夫だと思う。後は彼女がクラスに受け入れられるか、そこが重要だ。また浮かなければいいが……


 考えれば考える程に心配になってくる。俺は頭(かぶり)を振り部屋から出るのだった。



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